テラーノベル
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するとさくらが、ふと窓の外へ視線を向けた。
「てかさ?思ったんだけどさ、このバス
さっきから信号無視しまくりじゃない?」
「え?」
信愛もつられるように窓の外を覗き込む。
「た、確かに・・・」
さくらの言う通りだった。
このバスは先ほどから、赤信号だろうと構わず走り続けている。
速度を緩めることすらない。
「事故とか大丈夫なんでしょうか・・・」
朝陽が不安そうに呟いた。
その言葉を嘲笑うかのように、バスは再び赤信号を無視して十字路へと差し掛かる。
「あ!やばい!横から車来てるじゃん!」
茜の叫びに、全員が一斉に横を向いた。
交差する道路から、一台の車が迫っている。
「このままじゃぶつかっちゃう!」
茜は頭を抱えながら絶叫する。
「止めなきゃ!」
美月が運転席へ駆け寄り、ブレーキを力いっぱい踏み込んだ。
しかし。
「ダメだ!止まらない!」
「うっそ!?」
「やばいじゃん!」
龍河も咄嗟にサイドブレーキを掴み、力いっぱい引き上げる。
だが、それでもバスの速度は落ちなかった。
「くそ!こっちも無理か!」
信愛の脳裏に、最悪の光景がよぎる。
このままでは。
「ぎゃああ!ぶつかる!」
茜の絶叫が車内に響き渡った。
次の瞬間、バスは車ををすり抜けた。
衝突音はない。
衝撃もない。
まるで最初からそこに何も存在していなかったかのように、車はそのまま走り去っていく。
「は・・・何?・・・今の?」
茜が呆然と目を見開く。
「す、すり抜けましたよね?」
朝陽も信じられない様子で呟いた。
「どうなってんの?」
誰も答えることができなかった。
しかし、信愛だけは何かに気づき始めていた。
(もしかしてこのバスって・・・)
「みんな!」
信愛の声に、全員の視線が集まる。
「ん?どうした?」
龍河が尋ねる。
信愛は一度息を呑み、仲間たちの顔を見回した。
「みんな・・・落ち着いて聞いて?このバスは──」
「きゃあ!誰?あの人?」
信愛の言葉を遮るように美月が声を上げ、後部座席を指差した。
そこには、運転手の制服を身に纏った一人の男性が、いつの間にか立っていた。
「誰?あの人?」
さくらが、後部座席に立つ男を見つめた。
信愛はその姿を確認すると、静かに呟く。
「みんなにも視えてるの?」
「は、はい、バッチリ視えてます
でもさっきまで居ませんでしたよね?」
朝陽が警戒するように男を見つめる。
その隣で、龍河の表情が凍りついた。
「西・・鉄雄さん・・・」
「うっそ!?」
美月が驚きの声を上げる。
信愛は改めて男の顔を見つめた。
「多分間違いないと思う」
「た、確かに同じ人・・・」
茜は手元の写真と、後部座席に立つ男を交互に見比べた。
何度確認しても、そこにいるのは写真と同じ人物だった。
「でも西さんは亡くなってるんだよね?
て事は霊って事でしょ?それが何で私たちに視えてる訳?」
「確かに・・・おかしいよな」
焔垂も首を傾げる。
信愛はしばらく考え込んだあと、口を開いた。
「私は思い違いをしてたんだよ」
「思い違い?」
「このバスは、西鉄雄さんが憑依した姿
そう思ってた・・・けど違ったんです」
「違ったって?どう言う意味?」
美月の問いに、信愛ははっきりと答えた。
「このバス自体が西鉄雄さんなんですよ」
「バスが西鉄雄さん?
言ってる意味が分からないんだけど」
茜は困惑した表情を浮かべる。
「このバスは、西鉄雄さんがバスに化けた姿って事!」
「バ、バスに化けた?」
焔垂が目を丸くする。
信愛は小さく頷いた。
「正確に言えば付喪神から派生した特異体って感じかな」
「付喪神は聞いたことあるが、人がバスに
化けるとか実際にそんな事あるか?」
龍河の疑問に、信愛は説明を続ける。
「霊的な乗り物と言えば、日本の幽霊列車とか
西洋では幽霊船とかが有名だと思いますけど
実際に絵巻物とか怪談集、民話集には乗り物や
物体に化けるっていう話が記録されてるんです」
「まじかよ・・・」
龍河が呆然と呟いた。
「て事は本当に、このバスは運転手が化け姿・・・」
朝陽が信愛の言葉を引き継ぐ。
「なるほど・・だから俺らでも霊を目視できた訳か」
焔垂も納得したように頷いた。
「このバスは運転手さんの腹の中状態って事?」
茜の独特な表現に、信愛は苦笑しながら答える。
「多分ね・・そう考えればさっき
車がすり抜けた事にも説明がつく」
「なるほど・・・このバス自体が幽体って訳ね」
「そう言う事・・・」
信愛はそう答えると、再び口を閉ざした。
そして、後部座席に佇む西鉄雄へ視線を向ける。
男は何も言わない。
ただ静かに、こちらを見つめている。
信愛はゆっくりと、その男へ近づいていった。
「信愛!?」
茜が思わず声を上げる。
信愛は振り返らなかった。
「大丈夫だから・・・」
そう言い残し、さらに一歩、男との距離を縮めた。
西鉄雄は、ただ黙ったままそこに立っていた。
信愛は真っ直ぐに彼を見つめ、静かに問いかけた。
「あなたは西鉄雄さん?」
男は何も答えない。
しばらくの沈黙のあと、ようやくその口が開いた。
「はい・・・」
「やっぱり・・・」
信愛の予想が確信へと変わる。
「まじかよ・・・」
焔垂が呆然と呟く。
龍河は険しい表情で鉄雄を見つめた。
「やはり恨みが──」
しかし、その言葉を遮るように鉄雄が答えた。
「いいえ・・・恨みなどはありません」
「え?」
龍河が思わず聞き返す。
「恨みがない?」
茜も驚いたように目を丸くした。
信愛は鉄雄の言葉の真意を探るように問いかける。
「どういう事ですか?」
鉄雄は少し俯き、静かに言葉を続けた。
「私はただ・・・申し訳ないのです」
「も、申し訳ない?」
信愛の眉がわずかに動く。
鉄雄はゆっくりと顔を上げた。
「あの時の私は、お客様の
身の安全を最優先に考えました」
「あの時?」
信愛はすぐに思い当たる。
「それは、バスジャックが起こった日の事ですか?」
「はい・・・」
鉄雄の表情に、深い苦悩が浮かんだ。
「あの日は定刻通りに、順調にお客様を
お送り出来ていました。しかし──」
その言葉を境に、車内の空気が重くなる。
鉄雄は遠い過去を見つめるように語り始めた。
「犬吠埼病院前駅から一人の少年が
乗車され・・事態は一変しました」
龍河が低い声で確認する。
「バスジャックですね?」
「はい・・・」
鉄雄は静かに頷いた。
◇ ◇ ◇
そして、あの日の出来事を思い返す。
少年が乗車した直後だった。
何の前触れもなく、少年は懐から拳銃を取り出した。
そして乗客たちへ銃口を向ける。
「少年は懐から拳銃を取り出す
威嚇射撃をしました」
突然響き渡った銃声。
悲鳴を上げ、身を伏せる乗客たち。
逃げ場のない車内は、一瞬にして恐怖に支配された。
そして、そのすべてを運転席から見ていた鉄雄はただ一つのことだけを考えていた。
乗客を、無事に帰さなければならない。
それが運転手としての、自分の役目なのだと。
コメント
1件
ああ、ついにこのバスの正体が明らかになったんですね…! バス自体が西鉄雄さんで、付喪神から派生した特異体っていう設定、すごくしっくりきました。信号無視や車をすり抜けた現象にも納得の説明がついて、読んでて「なるほど!」と声が出ました。それにしても、西鉄雄さんが恨みではなく「申し訳ない」と語り始めたところが胸に刺さります。あの日のバスジャックの真相、どう続くのか気になります…。
#普通
野々さくら
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ありあ
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