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アリエッタは部屋にあるモコモコな雲クッションを抱いて、頬を膨らませながらベッドの上で縮こまっている。
「ふふっ……ごめんなのよ、アリエッタ。後で甘くて美味しいものを作ってあげるのよ」
「む~……」(う~、ぱひーのイヂワル……恥ずかしい。そりゃ嬉しかったけどさぁ……)
「あーあ、パフィのせいで拗ねちゃったねー」
「拗ねる姿も可愛いのよ」
原因となったパフィは、拗ねる前に描き上げられた自分自身の絵を見て、照れながらもご満悦。
絵が完成した時に、再度かなり過剰に可愛がったせいでアリエッタが少し警戒し、冷静になった事で揶揄われている事になんとな~く気付いたのである。
撫でられる嬉しさ、抱きしめられる気恥ずかしさ、そしてパフィの柔らかさをその身に感じ、感情がグチャグチャになってそっぽを向いているのだった。
そこへ、アリエッタにとっての救いの天使がのこのこやってきた。
「おーいパフィ、ミューゼ。ちょっといいか?」
ネフテリアとずっと話をしていたピアーニャである。
ドルネフィラーについて一通り話し終え、流石に夜明け前ということで一旦眠る事になり、最終確認の為にパフィかミューゼを呼びに来たのである。それも1人で。
ちなみに深夜ということで活動中のメイドは少ない。元々先代の趣味での雇用で、王族や貴族に仕えるようなややこしい形式は特に無い為、夜間用の最低限の人員を残して、住み込み用の部屋か自分の家に帰っている。パフィが素振り後に風呂に入れたのも、夜間労働のメイドが1人、玄関で仕事をしながら興奮した目で、動き回るパフィの脚をチラ見していたお陰なのだ。
「あ、総ちょ──」
「ぴあーにゃ!」
それはピアーニャにとって一瞬の出来事だった。
ミューゼが返事を言い終わるよりも速く、アリエッタがピアーニャに急接近。同時にピアーニャの脇に手を差し込み、抱き上げた。
「ほあっ!?」
そのまま猛スピードでベッドへ飛び込み、ピアーニャが抵抗の意思を持つよりも速く、一緒にシーツを被って添い寝を始めてしまう。
「……アリエッタ、腕を上げたのよ」
「何が起こったのかよく分からなかったわ」
いきなりの俊敏さに、2人は動く事すら出来なかった。突然襲われたピアーニャは、目をパチクリさせて天井を見ている。
「なにがおこったのだ? なんでわちは、ねているのだ?」
慌てて起きようとするが、動こうとする程アリエッタがくっついてくる。
どういう事かと顔を横に向けてアリエッタを見ると、なんだかちょっと泣きそうな顔で必死に縋り付いてくるのである。
訳が分からないが、そんな顔の少女を振りほどけるような冷酷さは、ピアーニャには備わっていない。思わず絶句して、動きを止めた。
「今のアリエッタには、誰も逆らう事なんて出来ないわ」
「いやたのむから、さからってくれ! ホゴシャなんだから!」
そうこうしている内にも、アリエッタの侵食は進んでいく。
ピアーニャがちゃんと寝るように左手を首の下の滑り込ませ、そのまま自身の肩にピアーニャの頭を添え、ピアーニャの左肩に手を添えた。右手は胸元をぽんぽんと軽く叩き、シーツごとピアーニャを抱きしめ、密着する。
その間、ピアーニャは絶望の顔でパフィに助けを求めていた。しかしパフィは笑顔だけ返し、ミューゼと共に成り行きを見守る。
最後に優しく「ぴあーにゃ♪」と囁く事で、リージョンシーカー最強の総長は完全にベッドの中に封じられてしまったのだった。
「アリエッタ、成長したわね」
「まってくれ、セイチョウしたってなにがだ!? このカホゴっぷりか!?」
「それもあるけど、ピアーニャちゃんのお姉ちゃんとして立派になったのよ」
「そこはリッパにならんでくれぇ!」
ピアーニャの叫びにアリエッタが反応した。
右手の人差し指をピアーニャの口元に添えて「めっ」と言った後、左手を使ってピアーニャを自分の方に傾けてしまった。これによって、総長は口まで封印されたのである。
しかも、先程まで興奮し続けたまま絵を描いていたアリエッタに、とうとう眠気がやってきた。こうなると、幼い体は簡単に休養を求めるもので、ピアーニャと目を合わせたまま、瞼を閉じた。
「………………」
「あ……寝たのよ」
「寝ちゃったね」
動きを封じられ、口も封じられたピアーニャは、もうどうする事も出来ないのだった。
ちなみに、『雲塊』での脱出も、結局アリエッタに触れたり動かしたりする必要がある為、論外である。
しばらくして、部屋のドアがノックされた。
「はーい」
少し明るくなってきた窓の外をチラチラ見ながら読書していたミューゼが返事をすると、ドアを開けてネフテリアが顔を出した。見て分かるほど、困った顔をしている。
「どうしたんですか?」
「ピアーニャが戻ってこなくって……というか、おふたりのどっちかを呼んでくる筈だったんだけど」
「へ?」
ピアーニャが部屋にやってきて、およそ1刻経過している。なかなか戻ってこないピアーニャに痺れを切らし、ネフテリアが改めて呼びにきたようである。
大事な話があった事を初めて知ったミューゼとパフィは、気まずそうに笑い、ベッドへと視線を向けた。
「えーっと、ピアーニャちゃんなら……」
その視線を追うように、ネフテリアも同じ方向を見ると、そこには眠っているアリエッタによって完全に捕縛された、ピアーニャの姿があった。
「あっ」
ネフテリアは察した。
同時に、ピアーニャを1人でアリエッタのいる所へ向かわせるのはマズいと、反省した。
「えーっと、ピアーニャから何か話は?」
「部屋に来た瞬間にアリエッタに捕まって、声を出せない状態になりました」
事情を知って、さらに後悔した。そのままため息をついてザックリ一言。
「役に立たない総長ね」
「!?」
ピアーニャはこの1刻で何とか眠らずに、熟睡したアリエッタから脱出する方法を模索していた。
しかし、少しだけでも動こうとすると本能が敏感に察知するのか、少し強く締められてしまう為、脱出出来ずに今に至っているのである。
「なんかゴメンなのよ」
「……いや、何も考えずにアリエッタちゃんの前に出たピアーニャが悪いって事にして、とりあえずパフィさん来てくださいな」
「了解なのよ。ミューゼ、そっちは頼んだのよ」
「ほーい」
ネフテリアの声が聞こえているピアーニャは顔をひきつらせたが、同じ考えに至っている事と、物理的に反論出来ない状態である為、泣く泣くネフテリアに任せる事にして、今を耐える事にした。
一応、アリエッタに察知されない手首より先をピコピコ動かして、必死にアピールしていたりはする。しかし、3人はピアーニャを直視すると笑いそうになってしまうのを避ける為、ベッドの方をあまり見ていない。完全に無駄な努力となっている。
結局一切気づく事が無いまま、ネフテリアはパフィと一緒に戻っていった。
(……なぜわちだけ、こんなメにっ)
元より眠気があったピアーニャは、そのまま不貞寝するしかないのだった。
眠りについたアリエッタは、夢の中……つまり自分の精神世界に降り立つ。
これまでは普通に夢を見ていただけだったが、エルツァーレマイアが精神の中にいて、これまでに2度入れ替わり、ドルネフィラーも含めて何度か精神世界にやってきた事で、寝たまま起きるという感覚を身に着けたのである。ただし本人に特殊な事をやっている自覚は無い。
『……あれ?』
『おばけ……私はおばけ……』
エルツァーレマイアは、まだ虹の上でアリエッタにオバケ呼ばわりされたショックから立ち直っていなかった。膝を抱えたまま転がった状態で、ブツブツと呟き続けている。その周囲だけ異様に暗い。
『ママ? なに転がってるの。ほら起きて』
虹の上で『恐ろしいオバケ』を見たアリエッタは、その正体がエルツァーレマイアだという事に気付いていない。
『ほーらー、どうしたのさ』
『ひうっ!? ……あれ? アリエッタ? ここは……』
揺さぶられて気が付いたエルツァーレマイアは、周囲を確認してアリエッタの精神世界に戻っている事を知った。周囲の暗さも気が付いた時に消えている。
ずっと塞ぎこんでいたエルツァーレマイアにとって、ドルネフィラーから出てからはそんなに時間が経っていない。先程言われた事を確認する為に、恐る恐るアリエッタへと問いかける決心をした。
『えっと……アリエッタ、オバケって?』
『う~ん。空っぽい所にいた時に襲われたような気がしたんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったよ。いきなり黒い所から這い出てくるし、髪の毛の隙間から睨まれるしで、滅茶苦茶怖かった……』
『そ、そうなんだ……コワカッタネー、モウダイジョウブダヨ』
エルツァーレマイアはそのまま誤魔化しきる事にした。
その一部始終を知っているのは、ドルネフィラーとネフテリアだけである。しかも言葉が分からないなら、黙っていれば絶対にバレないのだ。
『ところでママはどこにいたの? 寂しかったよ』
寂しかったと娘に言われた瞬間、女神の中で何かが爆発した。
『はあぁぁぁん! ごめんねアリエッタぁ! 探すのが遅くならなきゃすぐに駆け付けたのにぃぃ!!』
『んぎゅっ!? いやそれはいいから! 気にして…ない……はあぁ♪』
抱き締められ、撫でられ、あっさり堕ちるアリエッタの精神。特に大した質問でもないからと、幸せモードなアリエッタは一旦質問を諦めた。
なんだか落ち込んでいたから、今は好きにさせてあげようという心遣い…ではなく、撫でられて2人とも幸せなら今はいいやという欲求に身を任せた結果、女神はアリエッタにくっついて離れなくなるのだった。
現実世界ではピアーニャを包み、精神世界ではエルツァーレマイアに包まれ、なんだか幸せな気分でのんびり過ごすアリエッタ。この幸せを、ミューゼとパフィとも分かち合えたらなぁと夢見て、頬を緩ませるのだった。