俺はゼフとの立ち合いをするにあたってどうすればよいかを考えていた。
まともにやり合ったところで勝機ない。
ゼフは元とはいえA級冒険者、なにより教育係をし、剣の指導をしているため、技術は現役以上。
別にこの模擬戦は勝たなくてもいい。
でも俺としてはゲーム開始前、ここまで強くなれたのはゼフのおかげ、結果で恩を返したい。
そのため、策を巡らせる。
「ゼフ、開始合図はどうする?」
「それはアルト様のタイミングで始めていただいて結構です」
「俺のタイミングか……」
俺のタイミングということは完全に油断していない、警戒心マックスの状態でいるということ。
でも、それだと俺が不利になる。
ゼフが完全に受け身の状態でいられたら俺の付け入る隙がない。
そのため別の案を提案することにした。
俺はポケットから銅貨を取り出してゼフに見せながら言う。
「それだとフェアじゃない。……開始のタイミングはこの銅貨を投げて落ちたら始める……それでどうだろう?」
「わかりました」
俺の提案にゼフは肯定した。
少し安心した。
さっきまでだと、俺がゼフにかかったら開始という流れだった。
それだと隙もない。
ただ、銅貨が落ちたタイミングだと、来るタイミングがわかってしまう。
でもだからこそチャンスがある。
俺は今までゼフとの訓練で一度も見せていない魔法がある……詳しくは真の効果を見せていないというが。
『部位強化』四肢の一つに魔力を流し通常以上に身体能力を向上させる魔法。
これは他にも効果がある。
それは魔力を流す力によってさらに威力を上げられるということ。
ただ、その分魔力を込めた四肢に多大な負荷をかけてしまう。
二倍の魔力を込める……これが俺の限界。
筋肉に負荷をかけてしまうため、数日はまともに歩けないくらいの筋肉痛になる。
それ以上魔力を込めると筋肉、骨が壊れる可能性があるため怖くて使えない。
一度試して骨に少しヒビが入ってしまった経験がある。
そのため二倍までに制限をしている。
まぁ、使わないで勝つのが一番いいのだが、実際の打ち合いで普通の『部位強化』を試したが、初めは通用したが、今では普通に対処されてしまう。
俺はゼフにまともにやっても勝てない。
そのため今回は一撃で終わらせる。
「じゃ、始めるよゼフ」
「わかりました」
俺はゼフに始める旨を伝えてコインを空中に投げる。
そして俺が八相の構え、ゼフが普通の中段の構えの高さより少し剣先を下げて構える。
空中に投げたコインが地面に近づくに連れて緊張感が増す。
俺はコインと地面の距離がーメートル担った瞬間魔力を目に流し『見切り』発動。
俺の視界がスロー再生となる。
そして俺は八相の構えで後ろに下げている右足に通常の魔力の二倍込めて『部位強化』を発動しいつでも仕掛けられるように待機。
ふと、ゆっくりに見える視界でゼフを捉える。表情は警戒をしていて後手に回るために体勢は少し後ろになっている。
受け流す気なのだろう。
でも残念ながらそれはできない。
これはゼフの想像以上だからだ。
ポス
「「!?」」
銅貨が芝生に落ちた瞬間俺は一気にゼフの剣の根元を狙って斬り込む。
二人して反応したがやはり俺の方が早かった。
『見切り』を使えば俺はゼフの動体視力を上回れる、『部位強化』を使えば一瞬だけスピードで圧倒できる。
キン!
「な!」
勝負は一瞬で決した。
金属音がなった瞬間終了を遂げる。
結果は俺の勝利、ゼフの模擬剣は根本から折れていた。
ゼフは俺のスピードに反応できなかっため、何が起きたのか全くわかっていなかった。
ただ、自分が負けたことだけしか分かっていなかった。
そして、
「お見事です」
ゼフは俺に対して満足した、安心したのかような表情でそう言った。
勝利の過程は少し卑怯だったかもしれない。
でも勝利することができ、ゼフに認められた。
そのことだけで嬉しさで満たされた。
「ありがとう」
そして俺はゼフはと感謝の気持ちを伝える。
だが、それで安心しきってしまって気が抜けてしまったのだろう。
右足から急に筋肉が軋むような痛みを感じその場で足を抑えながら左膝を着く。
「い!」
「アルト様!」
俺の反応にゼフが驚き名前を呼びながら近くに寄ってくる。
「大丈夫だから……」
「しかし!」
「これは俺が使用した魔法の副作用のよくだものだから。ちょっと肉体に負荷がかかる魔法で……」
「アルト様……はぁー」
俺を気遣ってくれたゼフに対して安心させるために訳を説明した。
そうしたらゼフは大きなため息をつき、呆れた表情をする。
その後は真面目な顔で話始める。
「アルト様、どんな理由で今回そのような魔法を使ったのかは存じ上げませんし、お聞きしません。アルト様のことですから私なんかでは理解できない理由があるのでしょうから」
「………」
いや……ただ勝ちたかっただけであってゼフが思っているような内容ではないんだけど……。
俺はそう突っ込もうとするも、ゼフの真剣な表情し、すぐに続きを話し始めてしまったせいで機会を失う。
「それでも、もう少し自分自身に関心を向けて大切にしてください。アルト様はクロスフォード子爵家を繁栄させようと努力していることはわかっております。私は勿論旦那様、奥様も心より応援しております。ですので力不足かもしれませんが、いつでも頼ってください」
「………わかった」
なるほど。
何か勘違いされていると思ったが、そういうことか。
でも、方向性は間違ってはいないし雰囲気的に否定するのも悪いので俺はゼフの言葉にそう返事をした。
その後はゼフに抱えられ手当をした後自室に運ばれた。
父上と母上は俺を心配して仕事そっちのけで看病してくれた。
「父上……心配してくれるのは嬉しいのですが、仕事大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。心配しないで休みなさい。
まぁ、父上はこう言ってるし大丈夫なのだろうとその場では納得した。
ただ、次の日父上とゼフは仕事に追われていた。
だから言ったのに。
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