暗い場所。真っ暗で薄気味悪い場所。例を上げたらきりがない程異質な場所で、怪しい男が膝を付き、何かをブツブツと呟いている。
「第二世界は異常無し。召喚へと移行する。」
男はその言葉だけを残し、逃げるように後ろに下る。男と引き換えに、前に出たのは小さな少年。少年の髪瞳共茶色だが、その瞳は宝石のように輝き、今もなおその光を保っていた。しかし、その少年は動かない。動けない。いや、動いては駄目なのだ。そう、少年は既に息絶えていた。
ウィン……
「召喚、開始。」
男がそう呟いたその時、魔法陣が異様な光を放ちそして消える。いや、正確には消えたのでは無い。周りが明るくなったのだ。
「**…**?**…**…*?」
最初に聞こえたのは震えたか細い声。そして次に聞こえたのは悲鳴。声の主である少年は動揺し、震え、隅の方に逃げ込む。一方、一緒に現れたもう一人の少女は何が起こっているのか理解していないようで涙を流しながら固まってる。
「ん、んん…何処…?」
そして最後の一人である少年が立ち上がる。
「おお!成功だ!」
男の一人が前に出てきて少年の手を握る。
「ん…え?ゆ…め?」
少年は理解が追いつかないようで、目を白黒させながら、自分の頬をつねっている。
「ああ!これで今までの苦労が報われるというものだ!」
「おい、ガイ。やめろ。さっきまで死体だったんだ。下手したらもげるかもしれんぞ。それに、そいつに余計な感情を与えるな。」
もう一人の男がガイと呼ばれる男の肩を掴む。だが、ガイは感激のあまり涙を流し、まともに話すことすら難しそうに見える。
「し、した…い?」
「おっと。洗脳魔法を忘れていた。」
男はそう言って杖を取りだし呪文を唱える。
「ぐあぁっ……!?」
少年の周りに鎖のようなものが巻き付き、そして少年の体に染み込むように消えた。外傷やあざは無く、特に変わった様子は無い。
「これで一安心だ。よし、こいつを部屋に連れて行け。そしたら、固有スキルを確認しろ。」
「はっ。」
周りに居た男達がテキパキと少年を連れて行く。でも何故か少年は虚ろな目をしたままうんともすんとも言わない。ただ、言われるがままに動いている、まるで人形のようだ。
「******、********!?」
聞いたことの無い言語が後ろから聞こえてくる。その主は少女。金髪で灰色の瞳をした普通の顔立ちの幼い少女だ。
「ちっ、第一もやはり来たか。鬱陶しいものだな。まあ、これも計画の範囲内。後もう一人も…第一か。でもまあ、実験体に勇者が宿ったことだし良しとするか。こいつらは……取り敢えず洗脳してスキルを確認しろ。物珍しいスキルがあったら報告。無かったら後は好きにしろ。ガイ、行くぞ。」
男はガイを引きずりその場を後にした。
これは、初めて勇者召喚に成功した日の話の一部である。少年は絶望し、全てを投げ出し、逃亡した。少女は自分の無力さに嘆き苦しみ他界した。そして最後の少年は不思議なスキルを持っていた。その後のことはまだ語れない。語ってはならない。でも、これだけは言える。これが世界が狂い始めた発端だと。
__約2500年後
クアルトドット王国にて、一つの命が誕生する。黒光りする綺麗な黒髪。覗くとまるで引きずり込まれそうな紫の深淵なる瞳。生まれたばかりの赤ん坊である彼女は泣きもせずに状況を誰よりも早く悟る。彼女は前世の記憶持つ、世界で6人目の転生者。クアルトドット王国のバルサイン子爵家長女であり、名を、ユフェルナ・バルサインと言う。
コメント
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待って、何これ! めっちゃハマりそう!
新作!是非これからも見てね!