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ウレインが用意してくれた食事会は、特に何の問題もなく終わろうとしていた。
私が貰い受けた部屋と同じように、壁と天井が消えたように見渡せるテラスで、丸いテーブル席を囲んでいる。
このスカイホテルの高層階、展望の良いレストランは王都を見渡すのに、ちょうど良かった。
「ウレインよ。ホテルの方が王城の物見塔よりも見渡しが良いのは、考えものではないか」
国王は少し酔っているのか、ウレインには絡み気味だ。
「王城にもこの技術で物見塔を建てましょうと、再三申し出たのですが……」
「なんだと? 誰からもそんな話は聞いておらんぞ」
おそらく、民間人から建ててやると言われて、プライドが高い部下の誰かが勝手に突っぱねたのだろう。
そのせいか国王は、民への想い、国の行く末や、子である王子二人の仲違いを憂いていることなど、どんどん語り出した。
「でしたら国王、今後は直接ご相談できるように、何か連絡手段を開いてください」
そしてウレインは、王国の発展に寄与するためなら何でもしたいと、調子のよいことをうそぶいている。
その進み過ぎた技術を隠しているのだから、ある意味では二枚舌だけど。
でも、その方針は私も魔王さまも賛成しているから、何も言わなかった。
「時に魔王よ」
「うん? 何だ? 国王」
あまり大した話題を振ってこなかった国王が、少し改まった様子で呼びかけた。
「お主はその、聖女サラと……婚姻しておったのか」
――なぜ今、その話題を?
「ああ。サラは俺の愛する妻だ。それがどうした」
「ふぁっ……ま、魔王さま、こんなところで……」
「何を照れている。事実じゃないか」
「あふ……」
――いきなり大撃沈よ。
重要機関、バイタル直撃、成す術無しの轟沈だわ。
私は今、魔王さまからのフレンドリーファイア……真横から痛恨の誤射を貰ったような衝撃に、頭が真っ白になってしまった。
「ハッハッハ! 聖女の顔が真っ赤ではないか! そうか、そうか。道理で息子にひとかけらもなびかんわけだ」
「ほぅ。貴殿の息子は、俺の嫁に気があったのか。まぁ、これだけ美しい女も他にいないだろうから、一目惚れも仕方が無いかもしれんな」
(――まっ、まままままま魔王さま?)
「口をパクパクさせておるぞ。魔王よ、普段あまり褒めてやらんのか」
(――こっ、こっこっこっ……国王様?)
「ハハハハ、どうだったかな? 可愛がってはいるんだがなぁ」
「ひゃ、ひひょ、ひょんなこと、ここここんなところで……」
(――っこ、こ、こ、この、どえすまおうさまは…………)
「魔王よ。わかった、わかったからこれ以上はやめて差し上げよ。息子が入る隙間など無いと、十分に分かり申した」
「そうか、分かってくれたか」
――こ、これは魔王さまが悪いの? それとも国王様?
「ハァ……国王。僭越ながら、いまのは国王が悪うございます。人妻を、隙あらば掠め取ろうなどと。見透かされておりますよ」
「いやすまん! すまぬ、サラ殿。大変な失礼をいたした。許してくれ」
ウレインの呆れ声にも、国王は酔っているからか、まるで些事を詫びるような謝り方だ。
「くっ……。ゆ、許しませんからね……」
「おお、こ、これはウレイン。本当にお怒りのようだ」
「国王……。酔いが醒めた明日にでも、改めてお詫びなさいませ」
さっさと終わればいいのに、こういう会食は嫌い。
大人になる前に死んだから、私には無縁のものだと思っていたのに。
そんなことを思いながら、早く帰りたいと願いながら魔王さまを見た。
でも、いち早くそれを察したのは、ウレインだった。
「せ、聖女様……。コホン。国王、そろそろ閉会致しましょう。……魔王様、この度は本当に、和平に賛同してくださり、ありがとうございました。今日はこれにて、お開きとさせていただきます」
深々と頭を下げるウレイン。
そして、顔を上げると目線でレストランのスタッフに合図をした。
「正式な書面が出来上がっております。一旦お持ち帰りいただき、内容を確認の後にサインをお願いします。互いに調印するのは、また日を改めて――」
そういえば、それを待つついでの食事会だったのを忘れていた。
本当なら、このまま調印とやらをするのかと思っていたけれど……お酒が出た時点で、後日になると決まっていたようなものだったのだろう。
「魔王さま、もう一度来ないといけないみたいですね」
「構わんさ」
魔王さまは、その辺りまで承知の上だったらしく、面倒臭そうな顔など少しも見せなかった。
私は……ひどい目にあったせいか、また集まるのかとげんなりしたけれど。