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ガシッ
そう音が聞こえるくらいに2人はそのマネージャーに勢いよく抱きついた。(抱きついたというよりもタックルだが)
「「零!!」」
2人はそう叫ぶように名前を呼んだ。
多少よろつきながらもそれなりにごつい男子高校生2人のタックルに耐えたのは賞賛すべきだ。
マネージャー、いや零は久しぶりに会う幼なじみを見て少し安心した。
なぜなら2人に会うのは実に5年ぶりだからだ。
実を言えば少し不安だったのだ。ずっと会えなくて自分のことをもう幼なじみとして認めてくれないのではと。
でも自分に抱きついている2人は号泣していた。2人の表情に安堵と同時に少し、ほんの少し罪悪感を覚える。
でも
あぁ。帰ってきて良かった。2人を護る為に注いだ5年間。2人を護る為に努力してたとはいえ2人に拒絶でもされたらどうしようかと本気で悩んでいた数分前の自分がバカバカしい。
5年前自分は死のうとしていた。自分のせいで幼なじみには怪我をおわせてしまった。それこそ一生消えない傷まで残して。
もう自分のせいで人が傷つくのは見たくなかった。
そんな矢先、じいちゃんが私を守って呪い殺された。目の前で。
その時に決意してしまった。もう辞めようと。
なぜまた生きようと思えたのか。
死ぬつもりだったのに、ずっと2人が頭から離れなかった。死ぬ覚悟はできているはずなのに。今までも何回も死にかけた。でも2人を守れるなら本望だと思えて、恐怖なんて感じなかった。
そのとき気づいた。
自分が死ねばずっと2人が自分に巻き込まれずに済んで、護れると思っていた。
頭がスっと冷えた。理解したんだ。
護るっていうのは自分が死んだら意味が無いのだと。
ずっと護ると、2人を護ると押し付けのようになっていた。でも護られているのは自分であった。
いつだって2人は自分を自分から護ってくれていたんだ。
周りがどんな目で見ようとも。
自分でも薄々分かっていた。天ヶ瀬というのは昔から霊気が多く武闘派中の武闘派である。でもその中でも自分頭1つ抜けていた。まあ自分は目立つことは苦手だから手を抜いているときも多かったが。
でもそんな自分が嫌いだった。自分は努力しているやつが好きだ。だから頑張ればもっと強くなれる自分に向き合わず、すぐ逃げる自分が嫌いだった。
それでも2人がそばに居てくれた。ずっと見放さずに。
そんなとこも含めて零だと言ってくれた。底の見えない自分の力に恐れたときもずっと、励ますばかりじゃなくて時にはクヨクヨすんなって喝を入れてもらったこともあった。
だから早とちりして死のうとしていた自分が情けなくて2人に会えなかった。その代わり、2人の隣に立って歩けるくらいには成長したいと思った。改めて自分と向き合って、ただただ技術だとか力を磨くんじゃなくて内面を磨こうと思った。
だから5年間
5年間遺書を残して2人の元を去る。たったそれだけで切れてしまうような関係では無いのだ。
2人のただならぬ様子に部員は戸惑うばかりだ。しかし夜久と海はすぐに気がつく。この人物こそが2人の5年以上も探し続けている人物だと。
「おま”え”!!探したんだぞ!」
黒尾が零の肩に顔を埋めながらやっとの思いで叫ぶ。もはや泣きすぎて何言っているかわかにくいが。
「零”なんでどっか”に行った”の”」
研磨は膝立ちになりお腹にしがみつく様にして泣いている。
「黒尾。研磨。わるかった。待たせた。」
「お前”死んだのか”と”」
「あの時の手紙遺書みたいなんだも”ん”」
「ホントは死ぬつもりだったんだよ。あのまま。」
「よく”死なないで踏ん張ったな”」
「生きててよかった”」
「お前らを置いて死ねるわけないよ。」
聞こえてくる会話は普通の高校生だと思えない内容だが、3人はかなり親しい仲らしい。
零の声は出てきた時童顔な顔からダルいと主張している様な表情をしていたが少し目を開いたあと目を細めた。見た目通りなのか童顔の割にと言うべきなのか声はかなりハスキーで低めなようだ。
「ホントに待たせすぎなんだよ”」
「ずっと探してたんだから”!」
「あぁ。悪い。」
「お前、あんなんで俺らがお前を離すと思ったか!!」
「ずっと信じてたよ」
「「零」」
「「おかえり。」」
2人はそう言って涙でぐしゃぐしゃな顔で無理やり笑みを作り零へ向けた。
一言、おかえりと添えて。
「ただいま」
そう言った零の表情は清々しくて本人には失礼かもしれないが、いつも眠くてだるそうな表情をしていた零とは想像もし難いものだった。
そう、もうあの頃とは違うのだ。
世界に、自分に絶望し、死に場所ばかりを求めて自暴自棄になっていた頃とは。
それを見守る部員はかなり混乱していた。まあ当たり前だ。後輩達は事情を知らないのだから。しかしそれが嬉し泣きだと分かるとみなほっとしていた。
不意に夜久が海へ話しかける。
「やっと、やっと会えて良かったな。アイツら。」
その顔は心の底から仲間の奇跡の再開を祝っていた。
「そうだね。特に黒尾は最近溜めすぎな気がするからね。」
「ああ。俺もいつ爆発してもおかしくない様子で怖かったんだよ。」
「そ、うだね。」
「なんだ?俺がそんなんにも気づいてないと思ったか?」
「ふふ。いや、そこまで考えてると思わなかっただけ。」
そう言い見守る3年はまるで保護者だ。
黒尾を心配していたのは何も研磨だけでは無いのだ。でも、絶対に自分の弱みを見せない(特に後輩)あの意地っ張り主将をどうしようか悩んでいたもんだからああやって泣いてるのを見て安心した。
前々から変なところで不器用なあいつを見て危なっかしいと思っていたから良かった。
気づけば部員だけでなく、監督もコーチも3人を見守る目は優しいもので誰も水を差すやつはいなかった。
「やべぇ。なんかあんなに泣いてるアイツら見てると自分ももらい泣きしそう。」
「夜久も泣き虫?」
「うるせ〜。ちげーし。」
「そっか」
とか言いつつうるうるしているのは気のせいでは無いだろう。しかし海はそんな夜久を見て気のせいだと思うことにした。