「第二型・・・メカゴジラ・・・?」仁は目の前に存在する、メインドックに佇む、“機械によって作られたゴジラ”・・・いや、“メカゴジラ”を見ながらそう呟いた。その仁の表情には微かに戦慄が浮かんでいる。
「ようやく来たようだな」
背後から声を掛けられ、仁は振り向くとそこにいたのは、スーツを身に纏った若い男だった。すると高志は急に姿勢を正し、その男に向かって敬礼をした。どうやら高志よりも階級が上の人物らしい。
「風間一佐、核山仁一等空尉をお連れしました」
「ご苦労だった。君が核山だな?私は風間四郎だ、よろしく頼む」
すると風間は笑みを浮かべながら手を差し出し、仁もその手を握り返した。仁自身、聞きたい事は山ほどある。なぜ自分が呼び出されたのか?そして、この“メカゴジラ”とは一体何なのか?
「まあ、突然の事で困惑しているのは分かるよ。順を追って説明するから連いてきてくれ」
そんな仁を察したのか、風間はメインドックの案内をすると同時に『第二型メカゴジラ』について説明してくれた。それは以下のように。
『第二型メカゴジラ』全長約50メートル、総重量3.5万トン。怪獣との近接戦闘に主に設計、軽量化が施され、94年に開発された“メカゴジラ”を遥かに上回る機動性を持っている。
装甲はXⅢでも使われている『超耐熱超合金NT1S』を採用しており、その為、機体全身はXⅢの面影を感じさせる濃い緑色になっていた。94年に開発された“メカゴジラ”同様に動力源はレーザー核融合炉、燃料は重水素ヘリウム3ペレットを使用している。
肝心な武装については、メカゴジラの両腕部にパラボラ型の砲身が搭載された『9式メーサー砲』が一門ずつ、計二問を装備。威力は92式メーサータンクと変わり無く、連射性に優れている。
9式メーサー砲の下には『近接戦闘用ブレード』が格納されている。刀身の長さは約15メートル、幅約2メートルのブレードは怪獣の強度な皮膚を貫くために[[rb:特殊な合金 > ・・・・・]]が使用されており、怪獣との近接戦闘用に装備されている。その灰色の冷たい金属で作られたブレードには、どこか冷酷さを感じさせた。
メカゴジラの機械で出来た背鰭と背鰭の間に『対怪獣用改修型VLS』が計45基が装備されている。
イージス艦や護衛艦等に使用されるVLS「垂直発射装置」の改修型であり、対空ミサイル(SM2)、対潜ミサイル(SUM)を発射可能なのは勿論のこと、対水上ミサイル(SSM)も発射可能であり、さらに米軍が開発した対怪獣用対地ミサイル(GSM)も搭載予定であるらしい。
機械で出来た鞭のように長くしなやかな“尾”の先端部には『対怪獣用刺突型掘削装置』が装備されている。
尾の先端部が鋭いドリル状になっており、ブレードと同様、近接戦闘の際にドリルを回転させて怪獣に突き刺す近接戦闘用の兵器となっている。
そして最後に、第二型メカゴジラの背鰭は、動力源であるレーザー核融合炉から生成されたエネルギーを蓄える特殊な構造となっており、背鰭に蓄えられたそのエネルギーはメカゴジラの口内部に装備された『レーザー出力熱線砲』に送られ、瞬時に強力な“熱線”が放出される。威力は絶大であり、まさに一撃必殺の兵器でもある。
「ここまでで質問はあるかな?」
風間に問われるが、仁はメインドックに佇む第二型メカゴジラを眺めながら、風間の説明を聞いて只、驚愕し、そして呆然していた。
「よく、この兵器が作れたな・・・」
「まぁ、一筋縄ではなかったがな」
すると風間は軽く笑みを浮かべながらそう言った。
「この第二型メカゴジラ開発計画が始まったのは、Gフォースが解体された1998年からだ、高志、説明を」
「はい」
今度は高志が説明を始める。
「聞いての通り、この第二型メカゴジラはGフォースが過去に使用していた“旧メインドック”から僅かに残っていたメカゴジラの設計データを元に開発しています」
「ほかのデータは?」
仁が聞くと、高志は首を横に振った。
「残っていたのはそれだけです。肝心な武装などのデーターも無く、前に開発されたメカゴジラの設計データが僅かに残っているだけで奇跡でした。他はというと・・・Gフォースが解体された後、開発された“対G兵器”などのデータも、大半は消失。もしくは[[rb:世界各国に流失 > ・・・・・・・]]してしまいましたから」
「ようは“コイツ”が開発できただけ奇跡ということか?」
仁が言うと今度は風間が話し始めた。
「あぁ、確かに奇跡ではあるかもな。だがひとえに彼らのおかげでもある」
風間がそういうと、視線を向けた。その視線の先にいたのは佇む第二型メカゴジラの周りで溶接やメンテナンスなどの作業を行う多くの整備士達の姿だった。
「ここの溶接を頼む!」
「機関部のメンテナンスは終わったか?」
「クレーンをこっちに回してくれ!」
「武器システム問題ありません!他のシステムも異常ありません!」
「こっちだ、急げ!」
皆、第二型メカゴジラの周りで忙しく動き回っていた。クレーンが動く音、火花を散らしながら溶接する音、大量の機械の音と同時に整備士たちの掛け声や怒号のような指示、檄を飛ばす声などの喧騒が響いていた。
「彼らの大半は元Gフォース所属の整備士や技術者だった者たちだ。彼らのノウハウや技術提供が無ければ第二型メカゴジラの開発計画は実現できなかったし、中には志願してくれた者も多い。彼らには感謝してもしきれないよ」
仁もメカゴジラの周りで作業を行っている整備士を見た。濃い灰色の作業服に身を包んだ多くの整備士たち、ヘルメットを被っていても分かる、絶え間ない集中力の中で作業を行うひとり表情は真剣そのものであった。
ドーム型農園施設で働いていたから分かる。農園施設で働いている農夫や労働者の大半はまるで諦めがかり、希望を見失い、まるで死人のような表情していた。だがここは真逆だ、まるで生き生きとしている。
「5年だ」
「え?」
風間が言った。“5年”とは1998年にこの第二型メカゴジラの開発計画が始まって、今に至るまでの“期間”の事を言っているのだろう。だが仁にはこの“5年”という言葉がとても重く感じた。
「この“兵器”が開発されるまで約5年のも年月が経ってしまった・・・君にも分かるだろ、この6年が日本にとって・・・いや人類にとってあまり長い年月だった事を・・・」
仁も知っている。1998年、世界中に多くの怪獣が出現した。これが人類にとって“厄災”の始まりでもあった。メインドックを歩きながら風間は話し始めた。
「このたった“6年”という間に人類は今や存亡の危機にある。アフリカ大陸では“メガロ”と呼称された、たった一体の怪獣の襲撃によってアフリカは蹂躙され、住む場所を失った多くの難民がヨーロッパの諸外国に溢れ、しまいにはその難民を受け入れていたヨーロッパ連合すら度重なる怪獣の襲来によって壊滅状態だ。この最初の二年間だけでアフリカ大陸を失いヨーロッパ州は今や崩壊寸前にまで追い詰められている。このたった二年間だけでだぞ?」
風間は強調するように“二年間”と続けざまに言った。「メガロ・アフリカ襲来」と「ヨーロッパ崩壊」は後に『消失の二年間』と呼ばれ、ヨーロッパとアフリカの累計死者行方不明数は感染病や暴動などの二次被害を合わせて、確認されれているだけでも560万人以上。しかし膨大なアフリカ系難民などの数は正確に把握できず、確認されている犠牲者の数は年々[[rb:更新されている > ・・・・・・・]]。
「さらにこの一年後には、“カメーバ”“ガニメ”“ゲソラ”“エビラ”と呼称された四体の怪獣によって東南アジア各国は蹂躙された。ロシアでは自国内出現した怪獣に対して核攻撃を強行的に実施、その結果は君も知っているだろ?」
「確か、核攻撃を強行した結果怪獣を殺す事には成功、でもその代償として深刻な核汚染により、多くの避難民が発生。それと同時に核攻撃を強行した政府への信頼は崩れ去り、国内で反政府勢力が急速に広がった。その結果、ロシア国内で泥沼の内戦が勃発した」
「正解だ。我が国日本も同様、度重なる怪獣の襲撃により国土のおよそ半分を失い、一年前に行われた在日米軍との共同での作戦、中部奪還作戦は失敗。政府は奪還不可と考え、九州から中部地方を事実上の放棄、この事全てがたった5年もの間で起き、怪獣によって全世界で一億人近い犠牲者を出した。」
風間はひとしきり5年の間に起きた世界の事を話した。まるで社会科の教師の授業を聞いているかのようだった。しかしこれは全て新聞や教科書にも記載されている“常識”でもある。なぜ今更、分かりきった世界の歴史を復唱するように聞かされるのだろうか?仁は疑問に思った。
「なぜ今それを?」
仁の質問に風間は仁の方に身体を向けて答えた。
「繰り返してはならないからだ」
「え?」
すると風間はメインドックの中央に佇むメカゴジラを眺めながら話した。
「今までの5年間は怪獣によって一方的に奪われてきた、故郷と、数多くの命が・・・。だが今度は違う、その逆だ。取り返す。その為にメカゴジラは開発された」
「まさか・・・」
仁は風間の話している事に驚いていた。“取り返す”風間が言ったこの言葉が意味している事、それはすなわち・・・。
「失った国土の奪還・・・?」
「そうだ、一年前に行われた中部奪還作戦は失敗に終わったのは知っているな?その理由は今までの“戦術”が通じなかったのと、人類を遥かに凌ぐ怪獣との圧倒的な“力の差”があったからだ。だが今度は違う、今の我々にはこの“兵器”がある。埋められなかった怪獣との差はこの第二型メカゴジラが埋めてくれるだろう」
「コイツが・・・か?」
仁は中央に静かに佇む第二型メカゴジラを眺めながらやや怪訝そうに言った。というのも未だに目の前にいる[[rb:メカゴジラ > 機械のゴジラ]]の存在が信じられなかった。仁は第二型メカゴジラの巨大な頭部を見つめる。冷たい金属で作られた巨大な顔はまるで獰猛な鋼鉄の獣のようであり、冷たい瞳は今も眠っているかのようだった。それ故に仁は恐れていた、まるでこの機械は“生きている”ように思えたからだ。もし仮に目の前に佇む第二型メカゴジラが単に、ゴジラの形をした機械、ならば恐れる事は無い、只の巨大な機械であり、只の兵器に過ぎないからだ。だが実際、この目の前にいる第二型メカゴジラはまるで“機械で作られた“ゴジラ ”だと、12年前、自分の母の命を奪った“ゴジラ”と重なって見えた。
何故かは分からない。だが仁には、今、目の前にいる“第二型メカゴジラ”がとても恐ろしく感じ、それと同時にとてつもない怒りと憎しみが込み上げてくる。この感情は12年前の頃、夜の暗闇が朱色の炎で照らされた札幌の摩天楼で“ゴジラ”が、自分の故郷を蹂躙している光景を見た時に感じていたものだ。今まで忘れていた。そしてそのまま、忘れ去りたかった感情でもある。だがこの第二型メカゴジラを見た瞬間、思い出してしまった。
「コイツは一体どのように動かすんだ?」
仁が風間に聞いた。素朴な疑問だった。この巨大な兵器は本当に動くのか?動いたとして、どのように動くのか?そして、どのようにして動かすのか?仁には想像すらつかなかった。この質問を聞いた風間は笑みを浮かべた。
「良い質問だな。メカゴジラ胸部に“一人分 ‘’の操縦席が設けてある。今までGフォースで開発された対G兵器では複数人が搭乗して操縦していたが、この第二型メカゴジラに関しては一人で操縦して動かす」
「待ってくれ!これだけ巨大なコイツを一人で動かせるのか!?それに操縦や索敵も、それにこれだけミサイルや武器を装備しているのに、その攻撃も一人で行えるのか?」
「だからこそ、元戦闘機パイロットから優秀な操縦士が必要なんだ、コイツだって操縦士がいなければ動かない、だから核山、君を呼んだというわけだ」
仁がずっと疑問に思っていた事だ、“なぜ呼ばれたのか?”
「どういうことだ?」
仁は恐る恐る聞いた。すると風間は間を空けて、意を決したかのように答えた。
「単刀直入に言おう。核山仁、君をこの第二型メカゴジラの操縦士に任命したい」
「え・・・?」
風間の言葉を聞いた仁は整理が出来なかった。それに驚愕よりも先に困惑、動揺した。
「待ってくれ・・・。今のは冗談か?」
「冗談ではない、もちろん突然言われて動揺しているのは分かる」
「コイツを俺1人で動かせって事だろ?動かして怪獣と戦えって事なのか・・・?」
仁は冷静になろうとしたが、未だに動揺する。
俺がコイツの操縦士だと?なんかの悪い冗談じゃないのか?―――
「君が一番適任だと判断したんだ。どうだろうか?」
「どうだろうかと聞かれても・・・」
仁は第二型メカゴジラの操縦士になるか戸惑っていた。
「何故俺なんだ?」
その問いに風間は答えた。
「過去の君の戦績を調べさせてもらったよ。空自に所属していた時と、その後陸自に転属しスーパーXⅢの機長に任命された時の戦績もね。驚いたよ。これほどの逸材がいるとは思わなかったからね。」
「それは過去の話だ。俺は自衛隊を辞めた身だし、戦闘機なんて三年以上乗ってない。他にも現役で優秀な空自のパイロットならいくらでもいる筈だ、何故?」
「もちろん、君以外にも自衛隊員の中で操縦士候補は何人も選抜している。だが君以上の戦績を持ったものはいないんだ。他の優秀なパイロットも自衛隊員も怪獣との戦闘で多く失ってしまったからね。だがこれは君にとってのチャンスでもある」
「え・・・?」
「言っただろ?君の戦績を調べたと。もちろん“バラン駆除作戦”時の報告書も見たよ。君は命令無視の件でスーパーXⅢの機長としての権利を剥奪され、懲戒免職処分を受けている事もね。もちろんメカゴジラの操縦士になれと強制はしない。だが操縦士になれば君の命令無視の件や懲戒免職処分は取り消しなり、再び自衛隊員として帰り咲く事が出来る。だがならなければ再びドーム型農園施設で今まで通り労働し、今まで通りの生活で過ごす事になる。だから選択してくれ」
「今ここでか?」
「そうだ」
すると風間は仁の目の前で手を差し出した。もし風間の差し出された手を握れば、仁はメカゴジラの操縦士となり、自衛隊に帰り咲く事が出来る。拒めば今までの生活が戻るだけだ。だが仁は戸惑い、そして葛藤していた。目の前にいるメカゴジラはあの日のゴジラの影を思い起こさせた。あの時の恐怖、そして怒りと憎しみが今も心の中で燻っている、そんな状態でこのメカゴジラを操縦し、怪獣とまともに戦えるのか?もし操縦士となり、メカゴジラを動かすと言う事は、自分自身が憎むべき“ゴジラ”と化すのでは無いか?仁はしばらく静止していた。すると風間は手を差し出したまま話す。
「君の過去も知っている、だからこそなんだ。再び怪獣によって失い続けるか、怪獣から守るために戦うか。選択してくれ」
それを聞いた仁は差し出された風間の手にゆっくりと自分の手を伸ばした。仁自身、失う者は無かった。だが他の誰かが自分と同じように大切な者を失うのだけは許せなかった。仁自身、自衛隊に入隊してから怪獣との戦闘を何度も繰り返してきた。そのつど、仲間も家族も失い続けた人生だった。
怪獣によって街や都市を蹂躙され、地上で戦っている仲間が蹴散らされ、踏み潰され。その光景を何度も目の当たりにし、何度も守り切れなかったと悔やみ、何度も絶望した。母を失ったときもそうだった。だからこそだった、もうこれ以上失わせたくないと思えたのだ。そして、再びゴジラの過去の恐怖から立ち上がる、最後のチャンスなのかもしれないと。仁は、風間の手を握った。
「成立だな。君はこれより、陸上自衛隊特殊武器科所属第二型メカゴジラ専属操縦士に任命する。これからは君の上官だ。以後敬語のように。君を今から操縦席に案内するよ、連いてきてくれ」
「了解」
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