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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#軍師
眠狂四郎
153
「戦争に勝つためには、必要なものが四つある。」
マルスは指を一本ずつ立てながら、若い将官たちを見回した。
「天の時。」
一本。
「地の利。」
二本。
「人の輪。」
三本。
そして最後の一本を立てる。
「――そして、筋肉!」
どっと笑いが起こった。
「笑うなよ。大事なんだぞ。」
マルスは自分の腕を叩いてみせる。
「どれほど立派な作戦を立てても、最後に敵をぶん殴るのは人間だ。
バルカの魔術の源でもある。」
また笑いが起こる。
マルスはそんな若者たちを、微笑ましそうに眺めていた。
彼は今や、グランを代表する英雄だった。
敗北の底にあった王国を支え、幾度となくバルカと刃を交え、
ノーラを守り、シラクスを落とした男。
若い将官たちは、こぞって彼の部隊への配属を願った。
戦場の英雄。
憧れの存在。
物語の中でしか知らなかった男が、今、自分たちの目の前を馬で歩いている。
「で、もしここらが戦場となるのなら――」
マルスは馬上から周囲を指した。
「まず見るべきは、あの丘だ。敵が布陣するとすれば――」
言葉が止まった。
丘の向こう。
ほんの一瞬。
陽光を反射して、何かが光った。
兜か。
槍か。
あるいは――剣か。
マルスの笑顔が消えた。
だが、若い将官たちはまだ気づいていない。
マルスは何事もなかったように馬首を巡らせると、副官だけに聞こえる声で告げた。
「引くぞ。」
副官の顔色が変わった。
「全員ですか。」
「ああ。」
マルスは丘を見なかった。
「ゆっくりだ。」
「気づいたことを、敵に気づかせるな。」
「完全に囲みました。」
斥候の報告に、マハルは小さくうなずいた。
「そうか。ご苦労。」
丘陵の陰には、すでに兵が伏せられている。
ヌミダス騎兵三百。
さらに歩兵を中心とした一千。
総勢千三百。
狙う相手は、わずかな護衛だけを連れて偵察に出たマルスだった。
マハルは丘の上から、遠くを進む一団を見下ろした。
「いかに軍神とはいえ――」
その視線の先に、小さくマルスの姿が見える。
「ここからは丸見えだ。」
隣にいた副官が尋ねた。
「行きますか。」
「うむ。」
マハルは静かに手を上げた。
逃げ道は塞いだ。
前にも。
後ろにも。
左右にも兵を伏せている。
あとは合図一つだった。
振り上げた手が、勢いよく下ろされる。
「よしっ!」
「かかれ!」
角笛が鳴った。
丘の陰から、一斉に兵が姿を現す。
同時にヌミダス騎兵が駆け出した。
土煙が上がる。
蹄の音が大地を震わせる。
その音を聞いた若い将官たちは、ようやく自分たちの置かれた状況を理解した。
「敵襲!」
「囲まれている!」
「将軍!」
誰もがマルスを見る。
だが――。
マルスだけは、驚いていなかった。
丘を見た。
左右を見た。
背後を見た。
そして、迫り来るヌミダス騎兵を見た。
「……なるほど。」
ぽつりと呟く。
「俺を殺しに来たか。」
副官が剣を抜いた。
「将軍、突破します!」
「いや。」
マルスは即答した。
「全員では無理だ。」
若者たちの顔から血の気が引いた。
マルスはそんな彼らを見回した。
つい先ほどまで、自分のくだらない冗談で笑っていた若者たちだった。
これからのグランを背負っていく者たち。
マルスは少し考え――。
いつものように笑った。
「さっきの話、覚えてるか?」
「……え?」
「戦争に勝つために必要なものだよ。」
誰も答えられない。
マルスは剣を抜いた。
「天の時。」
迫る敵を見る。
「地の利。」
逃げ道を見る。
「人の輪。」
若者たちを見る。
そして最後に――。
自分の剣を肩に担いだ。
「――筋肉。」
若者の一人が、泣きそうな顔で笑った。
マルスも笑った。
「よし。」
その笑顔のまま、命令した。
「お前たちは走れ。」
「将軍!」
「俺は残る。」
マルスは馬首を返した。
向かう先は――敵だった。
最初に気づいたのは、一人の兵士だった。
剣を構えたまま、その顔を見て息を呑む。
「……マルス。」
隣の兵が振り向いた。
「何?」
「あれ……マルスだ。」
その名は、瞬く間に広がった。
「マルスだ!」
「軍神マルスだ!」
「囲め!」
「逃がすな!」
目の前にいる将がマルスだと分かった瞬間――。
彼を取り囲む兵の数は、さらに増えていった。
一人。
また一人。
そして十人、二十人。
だが――近づいた者から倒れていく。
振り下ろされた剣を受け流し、そのまま喉を斬る。
横から突き出された槍をかわし、柄を掴んで兵ごと引き倒す。
背後から迫った騎兵には振り向きざまに剣を叩き込み、馬上から転げ落ちた兵の剣を拾う。
止まらない。
血に濡れながら、なお前へ出る。
まるで鬼神だった。
「なんだ……あれは。」
マハルの傍らにいた兵が呟いた。
誰も近づこうとしなくなっていた。
マルスの周囲には、倒れた兵だけが増えていく。
マハルは遠巻きにその光景を見つめていた。
敵は一人。
たった一人なのだ。
それなのに――。
兵たちが怯えている。
「……近づくな。」
マハルが命じた。
「弓兵を前へ。」
マゴが振り向く。
「射殺すのですか。」
「ああ。」
マハルは答えた。
「もう、誰も近づけるな。」
弓兵が並ぶ。
一本。
また一本。
弦が引き絞られていく。
その音に気づいたのだろう。
マルスがこちらを見た。
血まみれだった。
鎧にはいくつもの傷が刻まれ、肩で息をしている。
それでも――。
笑った。
まるで、いつもの訓練場にでもいるように。
剣を肩に担ぎ、周囲の兵たちを見回す。
「どうした?」
誰も動かない。
マルスは笑ったまま、剣先を上げた。
「次はどいつなんだい?」
マハルの手が下がった。
無数の弦が鳴った。
コメント
1件
いやもう、マルスの「筋肉」のくだり、最初は笑ったけど最後の「俺は残る」で全部持ってかれたわ…。若い将官たちを逃がすために一人で囮になる覚悟、敵の大軍に囲まれても笑いながら「次はどいつなんだい?」って言い放つ姿、痺れた。軍神ってこういうことかと。続きが気になって仕方ない🔥