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白露を忘れて自分は別の男と夜を過ごしている。それには最後の良心が痛んだ。

でも、溶けてしまう。身体も良心も、大切な人すらも。頭の中で全て同じ釜に入れて、高熱で掻き回した。そして出来上がったものはマグマのようで、どれも原形が掴めない。

「匡。声出して」

乱暴に奥を突いた。そのたびに中は収縮する。初めはキツくて仕方なかった入口も、今はぐずぐずに解れて柔らかい。

こうなるから男の身体は堪らない。

けどやはり彼にも気持ちよくなってほしい。嫌なことや怖いことは忘れて、二人同時に崖から飛び降りたい。

「……っ!」

絶頂を迎えたあとも、しばらく抱き合った。

温もりに飢えていたのか、単に動くのが面倒だったのか……もしかしたら両方かもしれないが、二人は手を繋いで寝ていた。

「お前ほんとに可愛い顔してんな」

「それコンプレックスなんですけど」

「良いじゃん。俺は好きだよ。可愛くて、ずっと捕まえていたくなる」

笑って言うと、匡は急に泣きそうな顔で手を強く握った。


「捕まえて。……本当は離さないでほしい。でも、清心さんは俺以外に大切な人がいるみたいだから、無理だって分かってます。今だけ、我儘を言わせてください」


彼の手はわずかに震えている。

「……」

それに気付かないふりをして、こちらも強く握り返した。

急激な睡魔に襲われ眠りにつく。


昔の夢を見た。

高校生の頃まで家で飼っていた犬、白露の夢。


親戚から譲ってもらった雑種だった。白い毛が珍しくて、人に見てほしいがために進んで散歩に連れ出した。親友にも見せたことがある。彼は犬が大好きで大喜びしていた。

最期は老衰で死んでしまった。家族同然だったから、あの夜は朝まで泣いた。脱水症状にならないかと、泣いてた兄も心配していたっけ。

犬の命は短い。自分より後に生まれたのに、先に死んでいく。

家族を失うと、心に穴が空く。白露もまた、俺という人間を象っていたんだと気が付いた。

あんなに大切だった犬のことも最近は忘れていた。人はやはり忘れる生き物だ。なにかキッカケがないと思い出せない。

ただ、忘れるからこそ元気になれる。希望を抱いて前を向いて、新しい出会いに目を向けることができる。忘れることは悪いことばかりじゃないって…………そう思うこともできた。


暗い海底に沈む夢。

その中ではずっと、自分を呼ぶ声が聞こえる。


『清心』


あの少年の泣き声が。




十時十分、十字路で

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