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第八章 黒き牙
「グオオオオオォォ!!」
獣の咆哮が学院中へ響き渡る。
訓練場では教師たちが生徒を避難させていた。
「急げ!」
「一年生は校舎へ!」
巨大な黒い狼のような魔獣。
全身を黒い魔力が覆い、赤い瞳が鋭く光っている。
その名は――
黒牙狼(こくがろう)。
本来なら王国の外れにある魔の森にしか生息しない魔獣だった。
「なぜ学院に……!」
教師たちにも動揺が走る。
その時だった。
「生徒会、到着しました。」
ルークが静かに前へ出る。
その後ろにはレオンハルト、エミリア、ノア、ソフィア、ミリア。
「ここからは私たちが引き受けます。」
教師たちは安堵したように息をつく。
「お願いします!」
黒牙狼がルークへ飛びかかる。
「グルァァッ!!」
「速い……!」
一年生たちから悲鳴が上がる。
しかし。
キィン!
ルークは剣を抜き、一撃でその爪を受け止めた。
「これ以上、生徒には近づけさせない。」
風が巻き起こる。
「風よ――」
「《エアリアル・ブレード》」
幾筋もの風の刃が魔獣を切り裂く。
だが。
「グルルル……!」
傷は浅い。
「魔力耐性が高いか。」
ルークは表情を引き締めた。
「俺が行く!」
レオンハルトが前へ飛び出す。
雷をまとった剣が一直線に振り下ろされる。
「《雷迅斬》!」
轟音とともに魔獣は吹き飛ばされた。
「やったか!?」
砂煙が舞う。
しかし。
「グオオオォ!」
黒牙狼は立ち上がった。
「まだ動けるのか!」
レオンハルトが舌打ちする。
その頃。
校舎の窓から戦いを見つめるツララ。
「ルーク様……。」
手に力が入る。
「お嬢様。」
ねねが静かに言う。
「ご安心ください。」
「ですが……。」
「ルーク殿下は強いお方です。」
ツララは頷く。
それでも胸騒ぎが消えない。
「ガァァァァッ!!」
黒牙狼は突然向きを変えた。
一直線に校舎へ向かって走り出す。
「しまった!」
ルークが叫ぶ。
避難しきれていない生徒がいた。
まだ一年生が二人、足をくじいて動けずにいる。
「助けて!」
魔獣との距離は、あと数メートル。
ルークは全力で駆ける。
(間に合え……!)
その瞬間。
ツララの体が勝手に動いていた。
「えっ、お嬢様!」
ねねが呼び止める。
ツララは校舎を飛び出していた。
「危ない!」
叫ぶ声。
誰もが息をのむ。
ツララは転んでいる一年生たちの前に立った。
「大丈夫です。」
「私が守ります。」
本人は無意識だった。
右手を前へ伸ばす。
(お願い……。)
(みんなを傷つけないで。)
すると。
ツララの足元から、青白い光がふわりと広がる。
その瞬間――
パキッ……
魔獣の足元だけが一瞬凍りついた。
「なっ!?」
黒牙狼の動きが止まる。
ほんの一瞬。
本当に一瞬だった。
しかし、その一瞬で十分だった。
「今だ!」
ルークが飛び上がる。
剣を高く掲げる。
「《ウィンド・セイバー》!」
風をまとった一撃が、黒牙狼を真っ二つに切り裂いた。
魔獣は断末魔を上げ、そのまま黒い粒子となって消えていく。
静寂。
誰も言葉を発せなかった。
「大丈夫ですか!」
ルークは真っ先にツララのもとへ駆け寄る。
「怪我はありませんか?」
「は、はい……。」
ツララは少し驚いたように頷いた。
「怖かったでしょう。」
ルークは安心したように微笑む。
「でも、もう大丈夫です。」
ツララもほっと息をついた。
「ルーク様も……お怪我がなくてよかったです。」
その一言に、ルークは少しだけ目を見開く。
自分の心配をしてくれた。
それが、なぜだか少し嬉しかった。
「ありがとうございます。」
自然と笑みがこぼれる。
少し離れた場所でその様子を見ていたアイリスは、小さく笑った。
「なんだか……お似合いかも。」
その言葉は、春風に乗って誰にも届かず消えていった。
だが、その戦いを遠くの時計塔の屋根から見つめる者がいた。
黒いローブをまとった、一人の人物。
「なるほど……。」
低い声が響く。
「”器”は見つけた。」
その人物は不気味に笑う。
「魔王様へ報告しなければ。」
黒い霧となって、その姿は消えた。
まだ誰も知らない。
この日の出来事が、魔族たちを動かす最初のきっかけになったことを――。
第一巻 第八章 完
✨この章では、ツララ自身は「魔法を使った」と意識しておらず、周囲も「偶然足元が凍った」としか思っていないので、無詠唱の秘密はまだ守られています。一方で魔族だけはツララに特別な何かを感じ始める…?
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上野文
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コメント
1件
わあ、ツララが無意識に魔法を使って一年生を守るシーン、すごく印象的でした!自分でも気づいてない力って感じがして今後の展開が気になりますね。ルーク様が「怖かったでしょう」って優しく声をかけるところも、なんだか胸が温かくなりました。でも最後の魔族の影…また何か起きそうでドキドキです!