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日本国 再南   《南鳥島》

「油圧よし…!電気系統にも異常なし…!」

作業員がタブレットを片手に電子パネルやパイプを点検して回る。ここは、南鳥島の電気を管理する海底地下の電気発電所である。発電方法は日本独自の油圧発電システムを採用しており、非常に高度な技術が使用されている。

『ポタ…ポタポタ…』

油圧パイプから、石油が滴り落ちてくる。作業員は安全点検を済ませ発電所を後にする。しかし、この事態が後に不幸をもたらす。滴り落ちた石油は斜めになった地面をゆっくり流れていく。石油が向かう先には、火力処分場があった。石油は火力処分場の中に流れ込む。石油を受け取った炎は一気に膨張し爆発する。

南鳥島 管理室

外から、巨大な爆発音と黒煙が見える。

「なんだ…!あれは!直ぐに確認しろ!」

管理者が他の作業員に指示をする。しかし、時すでに遅し。石油は海にも流れ出てくる。炎は石油を伝って海上を炎の海にする。

「なっ…!早く!救助要請だ!早くしろ!」


1章 大黒煙

神奈川 横須賀漁港

「はぁ…はぁ…」

紺色の半袖を来た青年が港町をランニングしている。

「はぁ…もうダメだ…」

青年はゆっくり速度を落とし地面に寝転ぶ。

「お?キー坊じゃねぇか!大丈夫か?」

漁師のおじさんが横になった青年を上から覗く。

「あ、辰蔵たつぞうさん…こんにちは。」

「おぉ。そんにしても…大丈夫か?滝のように汗が出てねぇか?」

青年は汗を拭きながら漁師のおじさんに向かって微笑む。

「大丈夫です…心配していただきありがとうございます…!」

青年は漁師のおじさんに向かって頭を下げ再び走り出す。

「頑張れよォ!!!キー坊!!!!!!!!!」

漁師のおじさんは走っていく青年に向かって大きく手を振る。

神奈川県 海上保安部

青年は海上保安部の門を走り抜け基地内に入る。青年はゆっくり速度を落とし歩く。青年の名は‪”‬北城 きよし‪”‬。去年、海上保安大学校を卒業し、ここ神奈川県 海上保安部に配属になった新米海上保安官である。

「疲れた…」

清は建物前のベンチに腰掛けタオルで汗を拭く。

「お〜?キー坊〜」

座っている清を見た1人の女性海上保安官が清に近づき隣に座る。

「あぁ…香澄…」

清の隣に座ったのは、清の海上保安大学校で同じクラスになった‪”‬日陰石 香澄かすみ‪”‬。

「今日はどこまで走ってたの?」

「港町20周を5セット…」

「えぇー!?」

香澄は清の回答に口を手で覆う。

「つまり…港町を100周したの…?」

「あぁ。掛け算するとそうなるな…」

「でも…さすがに無理しすぎよ…」

「疲れた…休みたい…諦めたい…これでは人の命は救えない…」

清の言葉に、香澄は沈黙する。その時、基地内に警報音が響き渡り放送が流れる。

『緊急要請。緊急要請。南鳥島より救助要請有り。海上保安官は至急、南鳥島に向かわれたし。繰り返す…』

「南鳥島で…何かあったのかしら… 」

「行くぞ…香澄…!」

「え、えぇ…!!」

清と香澄は巡視船に向かって走る。清は走りながら上着を着る。2人が乗り込んだのは巡視船‪”‬たかつき‪”‬。先月入水したばかりの新型3600トン級の巡視船である。2人が船橋に入ると‪”‬たかつき‪”‬の船長が座っていた。巡視船たかつき船長 ‪”‬池 高志たかし

「池艦長。南鳥島で何があったんですか?」

清が船長席の横に立ち尋ねる。

「あぁ。報告によると…南鳥島の油圧パイプから石油が漏れ火力処分場に流れ込み膨張爆発を起こした。現在…南鳥島では多くの死傷者が出ていると思われる。」

清は顔をしかめ、複数回頷き目を閉じる。

「わかりました…。出港準備を進めます。 」

巡視船たかつきは順調に出港準備を整え、横須賀港を出港する。


南鳥島 近海

巡視船たかつきが南鳥島近海に到着すると、そこには地獄絵図が広がっていた。南鳥島は完全に巨大な炎に囲まれ、救助は愚か近ずく事すら不可能な状況だった。池船長は顔をしかめる。

「どうなっているんだ…!!」

「船長!特別救難隊です!」

乗組員が空を指さす。そこには、1機の海上保安庁のヘリが飛んでいた。海上保安庁 特別救難隊である。

「特別救難隊か…行けるか…?」

池船長はヘリに注目する。清と香澄もヘリを見つめていた。ヘリは南鳥島に接近するが、炎が行く手を阻む。ヘリはしばらく旋回した後に南鳥島から離れる。

「…上空からのアプローチは不可か…」

「池船長、巡視船の放水銃を使って消火活動を行いましょう…!」

香澄が池船長に提案を投げかける。しかし、池船長は首を横に振る。

「無駄だ。石油に引火した炎は海水ごときでは消火できない。消防の消火剤の入った水でない限り…」

「では…!東京消防庁の消防船に応援要請を…!!」

香澄はさらに提案を投げかけるが、池船長は続けて提案を却下する。

「無理だ。東京消防庁の消防船は本土から1950kmも離れた南鳥島に来ることはできない。」

「そんな…」

香澄は希望を失ったかのように腕を下ろす。池船長は背もたれに持たれる。

「…どうすれば…」

清は池船長に向かって言葉を並べる。

「海上自衛隊に応援を要請できませんか?海上自衛隊なら、専用の消火剤を持っている可能性が。」

「ダメだ。政府からは海上保安庁だけで対応するように言われている。防衛省の承認がない限り…自衛隊は動かない…。」

池船長の回答に、船橋には沈黙が漂う。特に、実践経験のない清からすればこの事態は緊張と恐怖が混じるものだった。

「池船長!炎の中に!」

乗組員が声を上げ炎の方に指を指す。船橋の海上保安官達は1人の乗組員の指先に注目する。炎の奥には、手を振る南鳥島の作業員たちの姿がうっすら見える。

「船長!作業員の方たちが!」

「くっ…!外にいては…!」

巡視船たかつきは南鳥島に近づく事はなく、安全のために1夜、南鳥島から離れていく。

巡視船たかつき    食堂

清は食堂で座っていた。清は悔しそうな、悲しそうな、そんな表情をしていた。

「キー坊…?大丈夫…?」

「香澄…」

「どうしたの?大丈夫…?」

清は暗そうに、香澄に言う。

「あの時…巡視船に向かって手を振っていたあの作業員たちは…離れていく巡視船を見て…だう思ったんだろう…って…」

香澄は清の言葉に、少し暗い表情を浮かべる。

「どうだろう…ね…でも…うーん…」

香澄は言葉に詰まる。その時、船内放送の開始音が鳴る。

『船長の池から全員に達する。先程、国土交通省より入伝があった。率直に言うと…自衛隊は動いてくれない。自衛隊が動けば、他国に日本の機密技術を公開する事になるからという理由からだ。政府からは、我々…海上保安庁に南鳥島の作業員救出の要請があった。明日の明朝より、南鳥島への本格的なアプローチを開始する。各員…』

池船長は少し拒んだ後、再び口を開く。

『気を引き締めろ…』


続く…

コースト・ガード 《最南の絶島》

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