テラーノベル
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学校、ギリ到着。
チャイム鳴る3秒前に滑り込み。
「せ、セーフ……」
すち、机に突っ伏す。
みことも後ろの席で息整えてる。
「朝からフルマラソンした気分…」
「俺、まだパンの味焦げ」
「言うな」
二人、目合って小さく笑う。
それだけで、朝のドタバタが
ちょっと楽しい思い出みたいになる。
1時間目。
静かな教室。
先生の声は遠い。
すちはノート開いてるけど、
視線がぼんやり窓の外。
(……今日、普通だ)
誰も何も言わない。
嫌な視線もない。
ただ、授業が進むだけ。
その「普通」がまだ少し不思議で、
でも、前より怖くない。
ふと、後ろからコツン。
消しゴムが飛んでくる。
振り向くと、みこと。
小声で口パク。
『起きてる?』
すち、ちょっとムッとした顔して
ノートの端に小さく書く。
【起きてる】
それ見たみこと、なぜか満足そうに頷く。
(なんでだよ)
でも、胸の奥がじんわり温かい。
休み時間。
すちが席立とうとした瞬間。
袖、軽く引かれる。
「どこ」
「トイレ…」
「一緒行く」
「女子か」
「違うけど」
でも結局、廊下途中まで並んで歩く。
前みたいに「守る」って空気じゃない。
ただ隣にいるだけ。
それが自然。
すちは歩きながら思う。
(……必要って)
前は、
“いないと困る人”
だと思ってた。
でも今は少し違う。
いないと困る、じゃなくて。
いると落ち着く人。
それが近い気がした。
昼休み。
屋上じゃなくて、
校舎裏のベンチ。
風がちょっと気持ちいい。
みこと、パンかじりながら言う。
「今日静かだな」
「うん」
「平和すぎて逆に怖い?」
「ちょっとだけ」
みこと、ふっと笑う。
「慣れろ」
「急に強いこと言うな」
すち、少し照れたみたいに視線落とす。
その頭に、
ぽす。
手。
「……なに」
「なんでもない」
撫でるでもなく、
ただ軽く乗せただけ。
でもそれだけで。
すちの肩の力、ふっと抜ける。
「……安心する」
小さな声。
みこと、聞こえたけど何も言わない。
ただ手をどけずに、空を見る。
二人並んで、同じ景色。
会話は止まっても、
空気が気まずくならない。
それがもう答えみたいだった。
放課後。
帰り道。
夕日が少しオレンジ。
すちが言う。
「なあ」
「ん」
「今日さ」
少し迷ってから続ける。
「……楽しかった」
みこと、歩きながら笑う。
「普通の日なのに?」
「うん」
「変なの」
「でもさ」
すち、前を見たまま。
「こういう日があるなら、
俺、もうちょっと頑張れそう」
みこと、歩幅合わせる。
「頑張らなくていい」
「え」
「一緒にいるだけでいい」
すち、言葉止まる。
顔、少し赤い。
「……それ、ずるい」
「何が」
「なんか、あったかくなる」
みこと、ちょっと照れて前向く。
「知らん」
でも歩く速度はゆっくりになる。
置いていかない速さ。
家のドアを開ける。
同時に「ただいま」って言う。
返事はないのに、
ちゃんと「帰ってきた場所」って思える。
すちはふと思う。
(ここにいるときの俺、
前より少し好きかもしれない)
まだ答えは出ない。
でも。
悲しさが消えるまでの途中で。
笑える日が増えてる。
それだけで、今日は十分だった。
夜。
ごはんも食べて、
お風呂も終わって。
二人とも少し眠そうなのに、
なぜかまだ寝ない時間。
リビングの床に座って、
背中だけソファに預けてる。
テレビはついてるけど、
誰もちゃんと見てない。
「……静かだな」
すちがぽつり。
「うん」
みこと、隣でクッション抱えながら答える。
間が空く。
でも気まずくない。
その沈黙が、もう慣れてきた。
すち、視線だけ横に向ける。
(……近い)
肩、ちょっと触れそうな距離。
触れてないのに、
体温だけ伝わってくる感じ。
落ち着く。
でも同時に、胸の奥がそわそわする。
(なんだこれ)
ぎゅってなる。
苦しいわけじゃない。
あったかいのに、落ち着かない。
変な感覚。
「みこと」
「んー?」
「……俺さ」
言いかけて止まる。
みこと、顔だけ向ける。
急かさない。
待つ。
すちは、指先ぎゅっと握る。
「……ここにいると」
喉が少し詰まる。
「……変になる」
「どんな」
「……安心するのに、ドキドキする」
みこと、一瞬止まる。
でもすぐ、いつもの顔に戻る。
「心臓生きてる証拠」
「そういう意味じゃなくて!」
すち、少しムキになる。
その反応に、
みこと小さく笑う。
「ごめんごめん」
ちょっとした沈黙。
すち、うつむいたまま。
「……俺、たぶん」
また止まる。
(言ったら変わる気がする)
でも、言わないままなのも苦しい。
「……尊いって、こういうの?」
小さな声。
ほとんど独り言。
みこと、目瞬かせる。
「どこで覚えた」
「知らないけど、今それっぽい」
顔、ちょっと赤い。
みこと、視線そらす。
耳まで少し赤い。
「……たぶんな」
「え」
「それで合ってる」
空気が急にやわらかくなる。
すちは、ゆっくり肩を預けた。
ほんの少しだけ。
体重かけすぎないように。
みこと、動かない。
拒まない。
ただそこにいる。
「……これも?」
「尊い」
即答。
すち、ちょっと笑う。
その笑い方が前より自然で、
みことの胸がぎゅっとなる。
数秒後。
「なあ」
「ん」
「俺、まだ“好き”の意味ちゃんとわかんないけど」
言葉を選びながら続ける。
「……ここが一番落ち着く」
「……」
「みことの隣」
それだけ言って、顔伏せる。
みこと、ゆっくり息吐く。
「それ、十分強い言葉だからな」
「え」
「無自覚こわ」
すち、わかってない顔。
みこと、苦笑しながら手を伸ばす。
頭、ぽん。
優しく撫でる。
すち、ぴくってなるけど避けない。
むしろ目細める。
「……やっぱ安心する」
「うん」
「なんでだろ」
みこと、少し考えてから言う。
「お前がここにいていいって、
やっと思い始めたから」
すち、静かに息を飲む。
胸の奥が、じんわり熱い。
涙じゃないけど、
目が少し潤む感じ。
「……必要ってさ」
ぽつり。
「いないと困る、じゃなくて」
みこと、黙って聞く。
「……いてほしい、なのかも」
みことの手、少し止まる。
でもまた、ゆっくり動く。
「正解」
そのまま。
肩と肩くっつけて。
テレビの光がぼんやり部屋を照らす。
会話、止まる。
でも心は静かじゃない。
あったかいもので満たされてる。
すちは思う。
(まだ途中だけど)
(今、この時間は)
ちゃんと幸せだ
小さな一歩。
でも確実な前進だった。
肩が触れたままの距離。
静かな時間。
――のはずだったのに。
「…みこと、さっき“無自覚こわ”って何」
すちがむすっと言う。
「事実」
「悪口じゃん」
「褒め言葉寄り」
「寄るな」
小声なのに、ちょっとした言い合いになる。
でも声は強くない。
むしろ距離は近いまま。
すち、軽く肩ぶつける。
「冷たい」
「ぶつけてきたのそっち」
「でも冷たい」
「理不尽」
みことがため息つくと同時に、
すちの手が袖を掴む。
無意識。
離れないように、みたいに。
みこと、気づいてるけど何も言わない。
ただ、
「……ほら」
って、もう一回頭なでる。
すち、即静かになる。
「……それずるい」
「効くなら使う」
すちは途中で目が覚めた。
部屋は暗い。
静かすぎる。
一瞬、どこにいるか分からなくなる。
心臓がドクンと跳ねる。
(……あ)
思い出す。
ここは、あの家じゃない。
怒鳴り声もない。
足音も来ない。
でも、
怖さの残りが、胸にへばりついてる。
呼吸が浅くなる。
そのとき。
「……すち?」
小さい声。
みこと、起きてる。
「大丈夫?」
すちは、言葉が出ない。
代わりに、布団の端をぎゅっと掴む。
みこと、ゆっくり近づく。
無理に触らない。
そばに座るだけ。
「ここ、静かだろ」
うなずく。
「俺いるだろ」
もう一回うなずく。
みこと、少し迷ってから、
指先だけ布団の上に置く。
すちの手の近く。
触れてないけど、近い。
「……怖いときは、起こせ」
すちは小さく息を吸う。
「……いなくならない?」
みこと、一瞬だけ目を細める。
「ならない」
迷いゼロ。
その声で、
すちの呼吸が少し戻る。
(やばい)
心の中だけ、正直。
(かわいすぎだろ)
でも顔には出さない。
出したら逃げる。
壊れやすいガラスみたいに見えるのに、
少しずつ自分で立とうとしてる。
それが、余計に胸を締める。
(好きとか、簡単な言葉じゃ足りない)
守りたい、でも縛りたくない。
そばにいたい、でも重くなりたくない。
難しい。
でも一個だけ決まってる。
(こいつが自分を嫌いなままは、嫌だ)
だから。
今日も隣にいる。
それだけは、絶対。
目覚め。
すち、寝ぼけたまま動いて。
みことの腕に顔ぐりって押しつける。
無意識。
みこと、完全に固まる。
(ちかいちかいちかい)
数秒後。
すち、はっと目開ける。
現状把握。
顔真っ赤。
「ちが、今のは事故!」
「うん事故」
「わすれて!」
「努力はする」
すち、布団かぶる。
「顔見んな!」
みこと、ちょっと笑う。
「朝から元気だな」
「元気じゃない!」
でも。
布団の中から小さく声。
「……でも、あったかかった」
みこと、固まる。
「……それは、ずるい」
部屋の空気は、前より軽い。
怖さはまだ消えてない。
でも。
笑える朝がある。
誰かの隣で目を覚ませる。
それだけで。
「必要」の意味は、
少しずつ形を変えていく。
コメント
2件
…尊◯しそうになっちゃったぁ☆(( こんなにいいねたおもいつくのうらやましいです…笑