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ちんすこう一味はサボテンステーキを求めてこの星で一番大きいオアシスを目指していた。今は全員宇宙船に乗って低速航行で進んでいる。
「もうすぐ月下美人の町につきますわ」
月下美人とはサボテンの一種の名前だ。日本でも古くから栽培されており、馴染みが深い。
熱帯雨林原産でありオアシスに生えるサボテンではないが、カオスユニバースは仮想世界なのでそんな生態も無視できる。
特筆すべき特徴としては、花が夜に咲く。そしてその花や実は食用にもなる。
当然、この町ではサボテンステーキの他に月下美人の実も食べられるのだ。
サーターアンダギーに解説を受けたちんすこうは即座に宇宙船を呼び出し、真っ直ぐ月下美人の町を目指す事にしたのであった。
「サボテンステーキ!」
月下美人の町に到着しての第一声である。そこまで楽しみにしていて大丈夫だろうか?
サボテンステーキは、一般的にメキシコで食べられているウチワサボテンと呼ばれる種類のサボテンを焼いたものだ。ノパールとも言う。
基本的に野菜なので、ステーキという名称からは程遠い食感と味をしている。カロリーは低く栄養は豊富なので美容に良い。
問題はちんすこうがサボテンステーキに何を求めているのかである。味を簡単に説明するなら、焼いてステーキソースをかけたキュウリだ。
「ここはさすがに立派な町ですわね。ちんすこうさんも待ちきれないようなのでまずは料理店に向かいましょう」
「「おー!」」
サーターアンダギーの言葉に元気よく応える二人。三人はこの町でも一番大きいレストランに向かった。金は先程の変態ブラザーズから巻き上げたので心配はいらない。
「いらっしゃいませー!」
元気よく迎えてくれたのはタンクトップ姿のアメリカンなウェイトレスだ。この星の文化設定は一体どうなっているのだろうか。仮想空間だからといって滅茶苦茶な文化にしてもいいというものではないだろうに。
「サボテンステーキと月下美人のフルーツサラダを人数分」
月下美人のフルーツサラダとは花びらと実をふんだんに使い、各種フルーツと共に盛りつけた爽やかな甘さが楽しめる人気のデザートだ。三人は運ばれてきたサボテンステーキにさっそくナイフを入れる。
シャクッ!
瑞々しい緑色のサボテンステーキにナイフを入れると軽やかで小気味いい音と共に葉肉が切れていく。サボテンは生命力が強いために焼いた部分も緑色に戻るのだが、ちゃんと火は通っているので安心だ。
「おもしろーい!」
満面の笑顔でサボテンステーキを一切れ、口に入れる三人。
次の瞬間、彼女達に衝撃が走った!
ちんすこうがその場に立ち上がる。そして大きな声で叫んだ。
「うーまーいーぞー!!」
美味かったらしい。何かのモノマネのようだが、行儀が悪いぞ。他の二人も気に入ったようで次々と食べ進めていく。
本来そんなに感動する程美味しいものではないはずだが。
「フフフ、ここのサボテンステーキは特別ヨー。秘伝のタレをたっぷり沁み込ませてアルネー」
突然創作中国人のような胡散臭い華僑喋りを始めるアメリカンなウェイトレスinオアシス。一体何人設定なんだお前は。
サボテンステーキを食べ終わった頃にタイミングよく出されたのは月下美人のフルーツサラダである。
デザートカテゴリなのでサラダと名がついていても食後に出される。
美味のサボテンステーキを平らげた興奮も冷めやらぬ様子でスプーンを入れるちんすこう達。
最初の一口は花びらの上にカットされた実を乗せ、一気に口に入れた。
「うんまーい! 実の程よい甘さから花びらの爽やかな香りが口に広がって口の中でハーモニーを奏でるううう!!」
誰に向けてのものか分からない食レポを始める。こちらもかなりの美味だったようだ。
「決めた! 私は宇宙の美食を味わいつくすよ!」
新しい目的が生まれたようだ。食べ物が妙に美味しいのは制作者のこだわりだろう。仮想世界ならではの楽しみとして食に力をいれたのだ。
その半分ぐらい文化設定にも力を入れておくべきではないだろうか?
「ここでサボテンステーキが食べられるのね!」
その時、レストランの入り口から道明寺と長命寺が入ってきた。
「あれは、なんかピンクい女!」
ちんすこうがフルーツサラダを次々と口に放り込みながら道明寺に注目する。名前は覚えていないが姿は覚えているようだ。
サーターアンダギーと愛玉子は目の前のデザートを味わうのに夢中で反応がない。
そこに、ちんすこうの姿を認めた道明寺が笑顔を向けた。
「あら、ちんすこうちゃん! さっそく宇宙怪獣と盗賊を退治したそうね!」
既に彼女達の行いはこの惑星カクタス中に広まっていたらしい。
「……」
それでも二人は黙々とデザートを食べ続けていた。