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「や…やだ…!あや、とくん…っ!」
そのままベッドに押し倒して、両手を縫い止める。
「生意気なんだよ、小鳥のくせに」
「…あ…やと」
「おまえのせいだからな。…後悔しても、もう遅いぞ」
震える小さな唇を見つめ、俺はゆっくりと背をかがめた―――。
その時、だった。
「きゃーーー!!!」
背後から女の甲高い悲鳴が聞こえた。
振り向くと、見覚えのあるチビ女が、大きな荷物をいっぱい抱えたままで、立ち尽くしていた。
「あんたたち、なんでここに…って彪斗っ!?」
「ああ!?」
俺はベッドから身を起こすなり、いいとこの邪魔をしやがったチビ女の両頬をつねり上げた。
「てんめぇ、寧音(ねね)こら、なに勝手に入って来てんだよ」
「ふぉれふぁふぉっふぃのふぇりふらよぉおお」
「あー!?」
「ふぁやとふぉそ…っ、どーして私の部屋にいるのよっ!」
「はぁ!?」
「女の子連れ込むなら、自分の部屋にしなさいよねっ」
「だから来たんだろーが!ここは今日から俺の部屋だ」
「はー!?」
寧音は小さな眉間に大きなシワを寄せると、俺の前にスマホをかかげてみせた。
「こんの色ボケ!とうとう頭までボケたかっ!?ほら、こうやって連絡網でもまわって来てるでしょ!505号室は本日より私と、新しく来るコで使うって!」
今度は俺が顔をしかめる番だった。
つまり、俺より先に部屋割りが決められちまった、ってわけだ。
どこのどいつだ!
と自分のスマホにも来ていたメールの送信元を見てみると、
「雪矢っ!あいつか!!」
「そうそう。ゆっきーが『決めといたから』って、ついさっき送ってきたんだよ。『彪斗が新しいメンバー入れるはずだから』って。だーれもそんな話知らなかったのに、さっすがゆっきー、鋭いよね。部屋割りに関しては早い者勝ちだし、もう松川さんにも申請し終わっちゃったみたいだし、残念だったねー」
雪矢…あんにゃろう…。
優羽にかまけて、あの抜け目ねぇヤツを警戒しておくのをすっかり忘れてた。
雪矢は俺と同じ生徒会メンバーで、俺の次に決定権のある副会長だ。
さっき、やけにあっさり引き下がったな、と思ったが、早々と対抗策を考えていたからだったんだな。
ちょうど空いていた生徒会メンバーの座に俺が優羽を据えると踏んで、無理しなくても優羽に接触する機会はあるとみなした上で、方策の対象を、俺を優羽と引き離すことに変えやがったんだ。
一瀬雪矢
ほんと油断ならねぇヤローだ。
「ね、ところでー。その子がルームメートさん?」
寧音が俺の陰に隠れるようにしていた優羽を見た。
「そーだけど。小鳥遊優羽ってんだ」
「優羽ちゃん!可愛い名前!よろしくね!私の名前は豊崎寧音(とよざき ねね)!って、あなた、なんだか個性的だねぇ」
寧音お得意の満点スマイルの効果か、引っ込み思案な優羽も微笑を浮かべ返している。
「あなた…もしかして…。今テレビでよく見かける、タレントのNeneちゃん…?」
「あったりー☆『Neneだよッ』!」
と、手足をめい一杯伸ばして取るぶりっ子ポーズは、今小さい子や年寄りにまで大流行の寧音のトレードマークだ。
なんでこんなガチャガチャしたのが人気なのか俺にはさっぱり解からないが、どうやら優羽も『Neneちゃん』のことは好きだったみたいで、
「わぁすごい…『Neneちゃん』に会えるなんて…!わたし、元気いっぱいでいつも明るいNeneちゃんが憧れだったんです…!」
と俺を押し退けそうな勢いで身を乗り出した。
「えへへ、うれしいなぁ!私もね、すごいうれしかったの!だってこの生徒会では女の子は私ひとりっきり『こーいってん』だったし、しかもメンバーっていったら彪斗を始め『俺様』、『腹黒』、『変人』って、みーんなまともじゃない男の子ばっかだったんだもーん。だから女の子との相部屋に憧れてたんだ!今日からよろしくね、優羽ちゃん!」
「うん…!よろしくね…!」
「だーかーら!一緒に暮らすのはおまえじゃなくて俺!!」
って、あっという間に意気投合してしまったやつらに割り込む俺。
「もーうだからもう遅いんだってさっきから言って……って、えー!まさか優羽ちゃんこいつと!?」
「??」
「彪斗と付き合ってるの!?」
「そう」
「ち、ちがいますっ!!」
「はぁ!?どういうことだよ、優羽」
俺の鋭いにらみに首をすくめながらも、『だって…』と相変わらず強情な優羽。
「だーめだめ!優羽ちゃんっ!」
さらに余計なことに、寧音が口をはさんできた。
「彪斗なんかと付き合ったらロクなことないよ!?泣かせた女は数知れず。本当に女の子を大切にしたことなんてない、サイテーヤローなんだからっ!」
ボロクソだなっ!
なんて言い草だっ!
おい、優羽!そんな目で俺を見るなっ…。
って、すがるように優羽を見たけど、
フイ…
顔を背けられてしまった―――。
サー……
背筋が一気に寒くなった。
もしかして、俺…
優羽に嫌われちまった…?
まぁ、正直なにひとつ否定できなかった。
実際、女なんて遊び道具にしか思っていなかったし…そんなオモチャの扱いなんて、いつもいい加減だったし…。
改めて振り返ってみると、俺のしてきたことって、確かにサイテーだよな…。
だからって、寧音とかどうでもいい女からなじられるのは別にいいけどさ。
優羽に嫌われちまうのは、マジでしんどい…。