テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
死体は笑っていた。
蘭「……気味悪」
灰谷蘭は、路地裏に転がる男を
見下ろして言った。
顔面は潰れている。
歯も折れている。
それでも口角だけが、不自然に上がっている
竜胆「これ、作り笑いじゃないよ」
しゃがみ込み、男の瞳を覗いた。
竜胆「脳が”そういう状態”で止まってる 」
蘭「へぇ」
興味深そうに蘭は首を傾げる。
蘭「殴られながら、楽しかったってこと?」
竜胆は答えなかった。
男は、数時間前、灰谷兄弟に絡んできた
チームの構成員だ。
喧嘩はした。
半殺しにもした。
でも、殺してはいない。
竜胆「兄貴」
男の手を持ち上げる。
拳は、強く握りしめられていた。
竜胆「こいつ、最後まで抵抗してない」
蘭「……は?」
竜胆「殴られても、逃げても、
一回も”怒ってない”」
蘭の笑顔が、ほんの一瞬だけ止まった。
人は普通、恐怖か怒りを見せる。
どちらもないまま死ぬなんてーー
蘭「おかしいねぇ」
男の耳元に蘭は顔を近づける。
蘭「何考えてたの?」
答えはない。
ただ、男のポケットから一枚の紙が落ちた。
竜胆が拾い上げる。
そこには、乱れのない字で書かれていた。
『殴られるたび、安心した』
竜胆「……は?」
竜胆の喉が鳴った。
蘭は、紙を奪って読んだあと、
声を出して笑った。
蘭「最高じゃん」
竜胆「兄貴」
低い声で、竜胆は言う。
竜胆「これ、俺らだけの話じゃない」
蘭「分かってる」
ゆっくりと、蘭は立ち上がった。
蘭「”痛みだけでしか安心できない奴”が、
他にもいるってことだろ?」
その瞬間
背後で、拍手の音がした。
パチ、パチ、パチ
男「素晴らしい」
暗闇から現れた男は、穏やかに微笑んでいた
男「あなた方は、彼にとって”救い”でした」
蘭「なにそれ」
楽しそうに蘭は、首を傾げる。
蘭「宗教?」
男「治療ですよ」
「恐怖も怒りも感じられない
人間がいる。そんな人間にとってーー
痛みだけが、生きている証になる」
竜胆の背中を、冷たいものが走った。
蘭「……それで、死んだ?」
男「ええ。
限界を、少し超えただけです。」
沈黙。
蘭は男に近づいた。
蘭「で?
次は誰を”治療”するつもり?」
男は二人を見た。
じっと。
まるで、患者を見る目で。
男「あなた方ほど、
“適任”はいません」
蘭は、笑った。
蘭「それ、褒めてる?」
男「ええ」
次の瞬間。
拳が鳴った。
男は、倒れた。
……のか。
竜胆には、一瞬、分からなかった。
男の顔はーー
死体と同じ、笑顔 だったから。
竜胆「兄貴……」
蘭「ん?」
竜胆「俺らさ」
拳を、竜胆は見つめた。
竜胆「もしかして……」
蘭は夜空を見上げる。
竜胆「俺らも、
誰かの”安心”になってた?」
答えはない。
路地裏には、また一つーー
笑顔の死体 が増えただけだった。
あとがき
読んでくださりありがとうございました
こちらの作品は
読んでくださる方の解釈によって分かれる
意味深endとなっております。
楽しんでいただけると嬉しいです