寝室まで移動して貰うと、ようやくベッドに下ろされて。
「尊さん、ありがとうございます……なにからなにまで、してもらって…」
「ん。じゃ、俺はもう帰る、しっかり戸締りして寝ろよ」
尊さんがドアノブに手を掛けようとした瞬間だった。
「ま、待って……」
酔いと眠気で朧げな意識の中、思わず身体が動いていた。
背後から腕を伸ばして、尊さんの逞しい背中に抱きつく。
「恋?」
不意打ちの行動に驚いた様子の声がする。
でも離せなかった。
温かくて安心できる背中にしがみついたまま、顔を埋める。
「……あと3分だけ。3分だけでいいから…一緒にいてくれませんか…っ」
自分でも驚くほど弱々しい声が出た。
アルコールの影響か、素直な気持ちが抑えきれずに漏れてしまう。
「……」
尊さんの動きが完全に止まった。長い沈黙が流れる。
やっぱり、迷惑だったかな。
そう思って、そっと腕を離そうとした、その時。
「……まったく」
溜め息混じりの呟きの後、尊さんが力強く俺の腕を引きながら、こちらに向き直ってくれた。
「尊さ───」
次の瞬間、力強く抱きしめられる。
息が詰まるほどの強い抱擁。
でも痛くはない。
むしろ心地良くて、このまま溶けてしまいそうだ。
「…3分だけだぞ」
低い声が耳元で響く。
その声に込められた優しさと、どこか諦めのような感情に胸がいっぱいになった。
尊さんのシャツ越しに伝わる体温。
規則正しい鼓動。
背中に回した腕に、もっと力を込める。
「……引き止めちゃってすみません。ワガママ、ですよね」
「別にそこまで言ってないだろ…にしても、今日はどうした。そんなに……不安か?」
「そういうわけじゃ……ないんです、けど…、なんだか、途端に…尊さんに帰って欲しくなくなっちゃっ、て…ご、ごめんなさ──」
その瞬間。
謝罪の言葉を遮るように尊さんの手が俺の後頭部を引き寄せたかと思うと、唇同士が触れた。
驚いて目を見開く俺に構わず、尊さんは角度を変え深く口づけた。
「……っんん!?」
尊さんの唇が俺の唇に重なった瞬間、世界が止まったような気がした。
冷たいアルコールの残り香と、尊さんの熱が混ざり合う。
驚いて目を見開いたまま固まっていると、尊さんの舌が歯列を割って侵入してきた。
「ん……っ!」
柔らかい感触が口腔内を探るように蠢く。
逃げ場のない息遣いが鼻腔から漏れ出す。
尊さんの手が俺の後頭部を押さえつけ、より深く口づけを交わさせてくる。
熱い唾液が絡まり合い、濡れた音が静寂の中に響いた。
「ぅ……んぅ……!」
いつもより強引な感覚に戸惑いながらも、体が勝手に反応してしまう。
触れ合う粘膜から伝わる快感に膝が震え始める。
尊さんの逞しい腕が背中を抱きしめる力が強まり、体重をかけられながらベッドに押し倒される形になった。
「……恋……」
名前を呼ばれる声が低く、甘い。
口づけが途切れると同時に尊さんの瞳が至近距離で俺を見つめた。
その双眸には、明らかな欲望の炎が宿っている。
普段の冷静沈着な顔からは考えられないほど、野生的な色気を纏った表情だった。
「待っ……ん……!」
制止しようとした声も途中で飲み込まれた。
再び塞がれた唇からは、さらに激しい求愛が始まる。
尊さんの大きな手が俺の髪を梳きながら頭を撫で上げ、もう一方の手は腰に回され引き寄せられる。
「ふぁ……ん…ぅぅ……」
酔いと快感に蕩けた体が言うことを聞かず、尊さんの背中に腕を回す。
さらに密着したいという衝動に駆られる。
舌先で互いの歯茎や上顎を確かめ合うように探り合ううちに、全身が溶けてしまいそうな感覚に襲われた。
「……ッは……ぁ……」
ようやく解放された時は息も絶え絶えだった。
唾液の糸を引く唇同士が僅かに離れる。
熱に浮かされた視界で尊さんの顔を見上げると、彼の額にも薄っすら汗が滲んでいた。
「3分なんか……とっくに過ぎたぞ…このまま、帰っていいのか」
掠れた声で尊さんが囁く。
俺の頬に滴り落ちた汗が一筋。
それを拭おうとする代わりに、俺は尊さんの首筋に手を伸ばした。
「ずるいです…っ!こんな、されたら…もっと尊さんのこと離せなくなっちゃうじゃないですか……っ」
酔いのせいだけでなく、本心から出た言葉だった。
自ら誘うように腕を巻き付けると、尊さんの瞳が一層輝きを増す。
「…俺を引き止めた恋のせいだがな」
罵るような口調とは裏腹に、口角が微かに吊り上がっている。
尊さんの指先が俺の首筋を辿り鎖骨へと降りていく。
皮膚の上を這うその動きだけで、背筋に電流が走るようだ。
「っん……!」
衣擦れの音と共に襟元を広げられ、素肌に冷たい空気が触れる。
次の瞬間には尊さんの唇が首筋へ移動し、鎖骨の辺りに吸い付く感触。
チクリと刺すような痛みと共に、キスマークが刻まれたことを悟った。
「痕……残っちゃいます……」
抗議のつもりで言ったが、声は甘く震えている。
尊さんは「仕事に支障は出ないだろ」とだけ答えて
そのまま胸元へと唇を這わせながら、シャツのボタンを一つ二つと外していく。
露わになった肌に口づけが落とされる度に、微かな疼きが生まれた。
「昨日、準備しておくから挿れてくれって言ったのはお前だろ」
つい、心臓が跳ねる。
「で、でもまた俺し忘れちゃって…!」
「なら、すぐに解してやる」
苦笑混じりの声には余裕が見え隠れしていたが、呼吸は明らかに乱れていた。
俺のベルトに手が掛けられる時、緊張が走ったものの抵抗する気は全く起きなかった。
「…尊、さん…っ」
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