バルキメデス王国で魔族と遭遇したが、無事に隣国のバガーニスタン王国へと辿り着いた。
そこで先ずガゼルに騙されて妖怪に食われそうになるもなんとか事なきを得た。
次にバックスの提案を童貞な俺は疑いもなく受け入れてそこで幸せな時を過ごすが、残念ながらそこでは食うことも食われることもなかった。
バーランドに帰れば聖奈&ミランはいるが、どちらにも食われる気がない俺はさらに童貞を拗らせていた。
まぁこれについてはなるようにしかならんと思っているから、一先ず置いておこう。
実はこの先はジャパーニア王国なんだ。
ガゼル達は生粋の傭兵であり、この生き方を変えるつもりはないとのこと。
つまりもう少しでお別れだ。
正直このままここで彼女が出来るまで面白おかしく四人で旅をするのもアリだと思っていたんだけど、彼女が出来るが見えない為、仕方なくここで区切りをつけることに決めたんだ。
バガーニスタン王国は北東部地域の南西に位置する小国だ。
南と西をかなり高い山に囲まれた国である。
西の山の一部からバーランドがある北西部地域に通じる道があるみたいだけど、俺は使う事はない為、態々場所の確認はしない。
北東部地域では少ない冒険者の内、さらに少ない上位者はそこを通りダンジョン都市があるエトランゼ共和国へと向かうようだ。
獣人達は無駄に縄張りから出たり広げたりしない性質があるようで、自分の意思で北東部地域を出ることはないようだ。
それで北西部地域では見かけなかったのだろう。
「あそこがジャパーニア皇国との国境だ」
バックスが示したのはこれまでに見た国境とは違い、規則正しく積まれた石垣が視界の果てまで続いていた。
万里の長城やんけ……
「遠回りさせて悪かったな」
俺は3人に礼を伝えた。
ここはバガーニスタン王国の南東端。
傭兵である彼らの仕事場はここからかなり北の方にある。
ここまで態々着いてきてくれたのだ。
「旨い酒の礼だぜ!気にすんな!」
「次こそは良い酒場を見つけておこう」
「またね」
これは今生の別ではない。
生きていればいつか会えるだろう。
俺達は別れの挨拶もそこそこに、お互いの無事を祈る言葉を残し、振り返ることもなくその場で解散した。
うんうん。男友達はこういう感じがいいよなっ!
泣いてなんかないんだからねっ!!!
うーーん。石垣は…というか高さ6m程の壁は無限に思える程続いているんだけど、入り口がない……
「飛び越えられなくはないんだけどそれは拙いよな」
不法入国した後に『貴方達の客人です!』なんて言っても無駄だよな。
「仕方ない。壁沿いに歩くか…」
現在は昼過ぎ。
今日中に入国を果たしたいが…どうなることやら。
俺はトボトボと一人歩き始めた。
二時間ほど歩くと漸く門が見えた。
開いてはいないので開けてもらわないと結局不法入国になるが……
門は高さ3m幅6mくらいある。
門前に兵はおらず、壁の上にも人の気配は感じない。
『魔力視、魔力波』
おっ。少ないけど門の向こうには気配があるな!
恐らく見張りだろう。
コミュ障だけど、必要な時には声を出せるコミュ障に俺はなるっ!!
「すみませーーん」
俺は門を軽く叩きながら大声を出した。
「………」
ガチャガコッ
なにやら金属音が聞こえたと思ったら、少し高い位置にある門の一部が小窓のように開いた。
「何用だ!?」
少し距離もあるので、鉄兜で顔を隠した兵士と見られる男が大きな声で話しかけて来た。
「ジャパーニア皇国に入りたいんですけど!ここから入らせてもらえませんかっ!?」
こっちも恥ずかしながらも大声で返した。
「ここからはダメだ!!
ここは国の許可がないと開くことは出来ん!!
後2日ほど歩いた所に入出国場があるからそこから入れっ!」
えぇ…2日も歩くのかよ……しかも壁以外何もない所を。
「…わかった」
もはや敬語で取り繕うことも出来ず、俺は示された方角にトボトボと歩き始めた。
これは冒険じゃない…ただの苦行だ……
いや、待てよ。
この景色が変わらない道を延々と歩かされるのって……白道?
そう。ダンジョンの白道で鍛えられていた俺はこの苦行をなんとか乗り越えることが出来たのだった。
あの白道がなければギブアップしてバイクを持ってくるところだったが、なんとかミラン達に笑われずに済んだのだ。
「あれが入出国場か……2日前に見た門と変わんねーじゃんっ!!!」
この前見た門が開いてるだけだわ!
しかも全部ではなく、ギリギリ馬車が通ることができる程度に。
少し怒りが込み上げてきたが国の対応なんてそんなもんかと、最近は少なくなった日本の役所での手続きを思い出し怒りを鎮めた。
「何だか馬車ばかりが入っていくな…個人で移動している人はいないんだが…入れるよね?」
少し心配になったものの、このままここで立ち止まる訳にもいかず、ジャパーニア皇国への入国の列に並ぶのだった。
「次の者っ!前へっ!」
どこの国境にもいる兵士が俺を促した。
「入国証を出してくれ」
「えっ…?そんなのないんだが?」
えっ?なにそれ?パスポート的な?
「それだとジャパーニア皇国には入れないぞ?他国の者か?」
「あ、あぁ。でもそんな話は聞いていないんだが」
「?誰かに聞いたのか?」
「聖十字連合神聖国の魔族のパレス達にだな」
俺がそう言うと兵士は慌てて剣を抜いて構えた。
「は…?」
なんで?
「き、貴様!どこでそれをっ!?お前達こいつを連行しろ!!」
兵士が剣を抜いた瞬間、周りの兵士が俺を取り囲んでいた。
数は10人ほど。
事前に行っていた魔力探知でそこまで気になる奴はいなかったから何とでもなりそうだが……
俺は大人しくドナドナされることを選択した。
だってこの方が無難に入国出来るのだもの。ひじり。
「うーん。どうやら魔族って単語はあまり大っぴらに使っちゃいけなかったようだな」
それならあの3人も教えとけよなぁ……
俺が入出国場の近くの詰所にある地下牢でそうぼやいていると、期待していなかった返事が返ってきた。
「そうだ。この国の者でも国に仕えていないと知らない程度には秘匿されている話だ」
ん?軍服?
この世界では初めて見るな。まぁ地球でもテレビでしか見たことはないけど。
軍服を着た体格の良い壮年の男性が俺の独り言を拾った。
「俺は皇国軍国境総司令であるベッターだ。
お前が会った魔族というのは誰だ?」
「俺はセイという。パレス、エゼル、ゼクスの3人に会って、ジャパーニアに行けと言われたよ」
「…どうやら報告通りのようだな。先ずはその魔力を使って暴れなかったことに感謝しよう。
これが何かわかるか?」
ベッターと名乗った白髪混じりの短髪の男は懐から何かが描かれた紙を取り出し、鉄格子越しに俺へと見せてきた。
ぶっ!!?
「ミ◯キーマ◯スやんけ…」
「おおっ…やはりわかるか…」
ベッターが見せてきたのは地球で知らない人を探す方が難しい某有名キャラクターだった。
お袋でもわかるぞ……
俺の言葉を聞いて、ベッターは備え付けのベルを鳴らした。
飛び込むように入ってきた完全武装の兵士に・・・
「この者は皇国の客人である。速やかに牢から出すように」
「はっ!」
俺は無事に(?)ジャパーニア皇国へと入国することが出来た。
最近こんなのばかりだな。
もっとこう…お姫様とか、美女・美少女に、『この方は悪い人ではありませんっ!』的なヤツないかな……ないよな……