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三月もそろそろ終わるかというその日、東京の中心を地震が襲った。
とはいっても、そこまでの揺れではなく、家具や食器がガタガタと揺れる程度。
夜の十一時頃だったので、僕、藤澤涼架は、自宅でそろそろ寝ようかと準備をしているところだった。
ゆらゆらと横揺れを感じて、取り敢えず近くのダイニングテーブルを掴んで、何も動けずにただじっとしていた。すぐに揺れが収まり、慣れない足元から揺れる動きに、ドキドキと高鳴った心臓を胸の上から押さえる。
「…あー、ビックリしたぁ…結構揺れた…?」
やだなぁ、と思いながら、テレビを付けると、普段通りの番組はやっているが、ニュース速報が上部に出た。
『東京都心部で 地震発生』
『◯◯区 震度4』
僕の住んでいる場所の震度は四、この地震では最大震度の場所だった。
「…4かぁ…4って、どのくらい…?」
自分でも訳わかんないことを口走りながら、スマホを探す。テレビ前のセンターテーブルからスマホが滑り落ちたようで、かなりの時間をかけてあちこち探した後に、着信音と共にソファーの下から見つけ出した。
画面には、統括マネージャーの仲村さんの名前。
安否確認かな、と、通話ボタンをタップした。
「はい、藤澤…」
『あ、よかった!大丈夫ですか?!』
「え?はい…。え、そんな揺れました?」
『いえ…、あの、怪我とかも無く?』
「はい、特には。」
『お部屋も、大丈夫ですか?』
「はい…。」
『…良かった…。』
仲村さんの、鬼気迫る感じに違和感を覚えながら、その後ろからザワザワと人の声が聞こえるのが気になった。
「…あの…。」
『藤澤さん、落ち着いて聞いてくださいね。』
うわ、ドラマとかでよく言うヤツじゃん。
僕は、頭の中で何故かそんな事を考えた。
『…大森さんが…』
連絡を受けた現場マネージャーさんが、マンションまで僕を迎えにきてくれた。
僕は、流石にパジャマで外に出るわけにはいかず、適当なトレーナーとズボン、上着にキャップを被って、おそらくコーディネートなんて皆無な格好をして、駐車場で待っていた。
目の前に停まった車に駆け寄ると、機械音が鳴り、ゆっくりとドアがスライドする。
「お疲れ様です!」
「お待たせしました、では、病院へ向かいます。…落ち着いて、運転します。」
「すみません、よろしくお願いします。」
二列シートの間を通って、最後部のベンチシートへ座る。
「涼ちゃん…。」
「若井…、大丈夫だよ、大丈夫。」
窓際に、僕より先にピックアップされた若井が座っていて、両手を強く握って少し震えているようだった。僕は隣に座り、両肩を包み込むように支えて、ゆっくりとさする。
『…大森さんが…自宅で倒れていました…。』
統括マネージャーの仲村さんからそう告げられ、一気に血の気が引いて、痺れる手からスマホを落としてしまいそうだった。
「…え、ど、どういう…。」
胸を押さえて、物理的に強い鼓動を押さえようとするが、声が震えてしまう。
『…まず、電話連絡をしたのですが、揺れの直後は繋がりにくく、その場合は可能なら直接安否確認をするという規約がありまして。』
「うん。」
『で、距離の近い大森さんから、と思って来たんですけど、エントランスで全然応答なくて。スケジュール的には在宅してるはずなので、管理人さんにお願いして、部屋を開けてもらったんです。そしたら………はい?』
急に、マネージャーの声が遠くなる。恐らく、誰かに話しかけられ、スマホを押さえてそちらの対応をしているのだろう。
『…はい………わかりました…呼んで大丈夫なんですよね?…はい………わかりました………お願いします…。すみません藤澤さん。』
「いえ、大丈夫ですか?今どこに…。」
『今、救急車で、運ばれる病院が決まったので、そちらに迎えを寄越します。』
「…はい、下で待ってたらいいんですね?」
『そう…ですね、はい。よろしくお願いします。』
「はい、失礼します。」
そのまま、僕はソファーに積んだままの洗濯物から適当に服を掴んで急いで着替え、スマホと鍵だけポケットに突っ込んで家を飛び出した。
「ドア、開けますね、気を付けて。」
「ありがとうございます。」
病院のエントランス前のロータリーで、僕と若井は降ろしてもらえた。エントランス前には、仲村さんが待ってくれている。背後に見える、ガラス扉の向こうの病院内は、薄暗く、夜間の最低限の光しか灯されていなかった。
「夜間入口はこっちなんです、行きましょう。」
仲村さんが先導して、病院の建物の横手に周る。『夜間救急』の文字が光り、それだけで訪問者を不安にさせる空気か醸し出されていた。
「あの、元貴は…?」
「今、検査受けてまして、とりあえず中に入ってからお話ししますね。…大丈夫ですか?」
話している僕らの少し後ろから、自分の身体を抱きしめながら歩く若井を、仲村さんが心配する。
「わかんない…震えが止まんなくて…。」
「大丈夫?とりあえず座れるところまで頑張って。」
僕が若井を抱きかかえ、確かに小刻みに震えている彼の身体をしっかりと支えながら、仲村さんに着いていく。
元貴…元貴…!頑張れ…!
何も状況が分からない中で、頭の中で必死に元貴へ呼びかける。これが力になるように、何かの足しになるように、とにかく元貴へ呼びかけ続けた。
病院内へ入り、『検査中』と光る部屋の前で、ベンチに座る。
「若井、大丈夫?なんか飲む?」
「…多分吐く…。」
若井は項垂れたまま小さく首を振る。
「一人で待てる?ちょっと水だけでも買ってくる。」
こくん、と頷いた若井の肩を優しくさすって、僕は立ち上がる。仲村さんに目配せをすると、僕に着いてきてくれた。
「…若井にはもう話したんですか?」
「あ、はい、藤澤さんより先に連絡がついたので…。」
「そっか。すみません、歩きながら教えてもらえませんか。」
「わかりました。えー…。」
「管理人さんと中に入った、ってとこまで…。 」
「あ、そうですね。それで、部屋の中を探して、洗面所を開けたら、大森さんが倒れてて、頭から…血を、流してて…。 」
その光景を思い出してしまったのか、仲村さんも唇が薄く震えている。
「…なんで…。」
「…まだ、多分あとで警察が現場検証してからわかると思うんですが、僕が見た感じでもいいですか?」
「もちろん。」
「踏み台が、置いてあって、洗面台の前に。で、吊り棚に入ってた洗剤とかのストックがいくつか落ちてたんです。だから、多分、洗剤か何か取ろうとしてた時に、たまたま地震が来てしまって、倒れた拍子に後ろの棚に頭を打ったのかな、と…。」
「…そっか…運悪いなぁ…。」
「…まさかですよねぇ…。」
自販機の前について、スマホを使って若井のために水と、自分にコーヒーを買う。仲村さんがお金を出そうとしてくれたが、ついでなんで、と彼にも、コーヒーを渡した。
急いでベンチに戻ると、若井がさっきと変わらない姿勢で、項垂れていた。
「…お水…。」
一応、そっと若井にペットボトルを差し出すと、泣きそうな顔を僕に見せて、ありがと、と力無く言って受け取った。
しばらく僕らは黙ったまま手を繋いで、寄り添うように座って待っていた。仲村さんだけは、少し離れた場所に立ったまま、忙しそうにあちこちへ連絡していて、大変なお仕事だなぁ、と頭でぼんやり考える。
『検査中』のライトが消え、中からベッドに横たわったままの元貴が運ばれて行った。一瞬だったのであまりよく見えなかったが、頭に包帯を巻かれていた気がする。
「しばらく、こちらでお待ちください。」
看護師さんが、立ち尽くす僕らにそう伝えて、どこかへ急いで消えて行った。
「だいぶ待つことになるとは言われたんですけど、お二人はすぐに来たいかと思いまして…。」
何本目かの電話を終えて、仲村さんが申し訳なさそうに僕たちへ言った。
「うん、ありがとうございます、助かります。」
若井が、ペットボトルを開け、少し水を口にした。ふぅ〜…と大きく息を吐いて、少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
「ごめん、涼ちゃん、ありがと。」
「うん。」
そのまま、またベンチに腰掛けて待つこと数十分。先程とは別の看護師さんが僕らを呼びに来てくれた。
「…医師の方から少し説明があるそうです、こちらへどうぞ。」
家族じゃなくても、大丈夫なのかな…。そんな考えが少し頭をよぎるが、話してもらえるならありがたい、と、そこは敢えて口にしない事にした。
診察室の一つに、僕と若井と仲村さんが通された。
「検査の結果、特に異常は見られませんでした。血腫などもないですね。」
「そうですか…。」
「まあ、頭部なので、後から何か出てくる可能性ももちろんゼロではないです。経過観察していきましょう。」
「…意識はあるんですか?」
前方に座る仲村さんの後ろから、僕が先生に訊く。
「検査の後、病室に運ばれた際に、目を覚ましていますよ。」
ワッと僕らは安堵の声を上げた。
「あの、会えますか?」
若井が、僕の隣の椅子から身を乗り出す。
「はい、この後、ご案内させますね。」
「ありがとうございます!」
先生と一緒に、看護師さんに着いて、病院の上階にある個室へと案内された。
「少々お待ちください。」
「はい。」
僕らは、三人並んで、病室の前で待つ。
「少し眠っておられましたが、目を覚まされましたよ。」
先生が入り口から、中へ入るよう僕らを招く。
若井が、僕を優しく押して、先にどうぞ、と促してくれた。
「失礼します…。」
そろりと中へ入ると、目を瞑って仰向けに横たわる元貴がいた。やはり、頭には包帯と、保護ネットが掛けられている。
腕からは点滴の管が伸びていて、何やら機械も付いていた。
「元貴ー…。」
そっと肩に触れて、声を掛ける。なんだか気持ちよさそうに眠っているから、申し訳ない気もするが。
ゆっくりと目を開けて、少し顔を歪めながら、ほんのわずかに顔を傾け、僕を見た。
「…りょ…ちゃ…。」
酷く掠れた声で、でも確かに、僕の名前を呼んだ。少し目は虚だが、眠気のせいだろうか。先生が何も言わないから、多分大丈夫なのだろうけど、否応なく心配になってしまう。
「涼ちゃん。」
隣から、若井が僕の肩を優しく叩く。若井の方を見ると、若井が指で自分の両目を指差して何かを僕に伝えた。僕は自分の目の辺りを触ると、指先が濡れる。僕の両目からは、涙が出ていた。
「え…!」
本当に、全く気付かなかった。え、いつの間に泣いてたの、僕。
へたりと力が抜けて、咄嗟に若井が僕を支える。仲村さんが急いで椅子を持って来てくれて、そこに座らせてもらった。
「…ごめん。」
「ううん、涼ちゃん、気ぃ張ってくれてたんだね、ごめんね。」
「…違…、元貴…よかったぁ…。」
若井の言葉に涙が溢れ、元貴の身体の横の僅かな布団の隙間に突っ伏して、嗚咽を漏らす。安心したら、どっと感情が溢れて止まらなかった。
頭上から、若井の鼻を啜る音も聞こえて、余計に涙が溢れた。
腕に、何かが当たる。とん…とん…と何度か。顔を挙げてみると、元貴が目線だけ僕に向けて、動かしにくそうに手を何度か僕の腕に当てていた。
僕は、そっとその手を両手で包み、自分の頬の横に持っていく。
「…こう?」
ほんの少し、元貴の口角が上がる。微笑んでくれてるみたいだ。
「ごめんね、起こしちゃって。ありがとう。ゆっくり寝ていいよ。」
手を握ったまま、片手で元貴の肩を撫でる。
若井も反対側に周って、元貴の手を握った。
「…俺、今日は帰るけど、明日また来るから。」
元貴が、ゆっくりと若井を見る。若井も、元貴に優しく笑いかけて、手をポンポンと叩くと、鼻を啜って、仲村さんや先生たちと一緒に部屋を出て行った。
きっと、僕に気を遣ってくれたんだな、若井。自分も元貴のそばにいたかっただろうに、ごめん、ありがとう。
「元貴…。」
ほとんど閉じかけの瞼を薄く開けている元貴の顔に、僕の顔を近づける。そっと、優しく触れるキスをして、もう一度椅子に座った。
「おやすみ、元貴…ここにいるからね。」
また両手で元貴の手を包み込む。元貴は、ゆっくり眼を閉じて、やがてすうすうと寝息を立て始めた。
僕は、元貴の邪魔にならない程度に、布団の端に腕を組んで頭を乗せさせてもらい、手を繋いだまま眼を閉じた。
明日、起きたら、また沢山名前を呼んでもらおう。二人きりになれたら、沢山キスさせてもらおう。
なんともなくて、本当に良かった。
ありがとう、元貴。
精神的に余程疲れていたのか、すぐに意識が深い眠りへと落ちた。
こんこん、と病室のドアがノックされる。
もぞ、と身体を起こすと、首が痛い。腕が痺れる。背中も痛い。
息を吸いながら、痛い所を伸ばすように、ゆっくりと身体を起こしていく。
薄く目を開けると、カーテンから漏れる眩しい朝陽が見えた。
「おはようございます、朝の検診です。」
看護師さんが部屋に入って来て、点滴のチェックをする。
「大森さーん、おはようございまーす。」
看護師さんがカーテンを開けながら声を掛けると、元貴が顔を顰めて眼を覚ました。僕は、ホッと胸を撫で下ろす。
「お熱測りますね。失礼します。」
看護師さんが、慣れた手つきで入院着の隙間から、元貴の脇に体温計をセットする。血圧を測る為のチューブを腕に巻き、空気を入れていく。テキパキと朝の仕事をこなす看護師さんに、しばらくボーッとされるがままだった元貴の眼が、だんだんしっかりと力が入ったように開かれていく。
「良かったら、お水飲ませてあげてください。」
看護師さんにそう言われ、僕は吸い飲みを用意した。
「…それは尿瓶ですね。」
看護師さんが、こちらです、と吸い飲みを僕に渡してくれた。すみません…と言って、昨日仲村さんが用意してくれたのであろうペットボトルの水を、吸い飲みに入れていく。
「元貴、飲める?これ、身体起こしても良いんですか?」
「ご本人に無理ないようでしたら、大丈夫ですよ。」
「いける?」
元貴がこく、と小さく頷いたので、僕が背中の隙間に手を差し込んで、ゆっくりと元貴の身体を起こ…そうとするけど難しい。
「…このボタンで、ベッド上がりますよ。」
看護師さんが、僕にリモコンを手渡してくれた。またも、すみません、と会釈して、ベッドの上昇ボタンを押した。ゆっくりと、元貴の身体が起き上がっていく。
「このぐらい?」
「…ん…。」
元貴がニコッと微笑んだ。僕は、元貴の左手を持ち、吸い飲みを一緒に支えて、口元に持っていく。ゆっくり傾けると、こく、こく、と喉を鳴らして、全て飲み干した。
「もっといる?」
「…ううん…。」
先程より、声を出しやすそうに、元貴が返事をした。僕は洗面台に行って、吸い飲みを軽くすすいでタオルの上で乾かしておく。
元貴を振り返ると、自分の手を握ったり開いたりして、動きを確認しているみたいだった。
「どう?」
「…動く。」
「それは良かった。」
僕はにこっと笑いかける。その時、体温計が鳴った。
「はい、貰いますね。では、またすぐに先生が来ますので、そのままでお待ちください。」
「はい、ありがとうございます。」
看護師さんが出ていった後、僕はスマホを確認した。あれから特に連絡はないが、一応僕から仲村さんに、今の様子を伝えておこうと、椅子に腰掛け、スマホを操作する。
「…ねえりょうちゃん。」
「んー?」
頭の中で考えた文章を指先でメッセージに書き込んでいく。えー…言葉も、はっきりし、て、い、て、…。
「それスマホ?」
「ん?うん。」
「いーなー。りょうちゃんスマホ持ってんだあ。」
………ん?
僕は、文章を打つ手を止めて、顔を上げる。
「それ、なんかゲーム入ってる?」
「…まぁ…。」
「何してんの?」
「…マネージャーにLINE…。」
「マネージャーって何?」
「…元貴?」
「うん?」
「…どうしたの?なんか、喋り方…。」
「何が?」
なんだろう、なんだか、変だ…。胸がザワザワして、ドキドキする。
「元貴、僕のことわかる?」
「りょうちゃん。 」
「フルネームは? 」
「フルネーム?ってなんだっけ?」
あはは、と屈託なく笑う。僕が、固まって言葉を失っている間に、ドアをノックして、先生が入って来た。
「あ、身体起きれてますね、おはようございます。」
「…だれ?」
「ん?」
「せ、先生…!」
僕は、立ち上がって先生に話しかけた。
「なんか…元貴が、変です…。」
「…言葉ですか?」
「…なんて言うか…変、です。」
「…少し、席を外して頂けますか?」
「はい…。」
僕が、スマホを持って部屋の出入り口に向かうと、背後から声が飛んできた。
「え、待って!りょうちゃんどこ行くの!」
僕は、恐る恐る振り返る。元貴が、不安な顔でこちらを見ていた。
「待って、こわい!」
「大森さん、落ち着いてください。」
「やだ!」
僕は元貴に駆け寄って、肩に手を置く。元貴が、少し震える手で、僕の手に縋り付く。
「ねえりょうちゃん、行かないで、ここにいてよ。」
「…先生、これ…。」
「…少し、記憶の混濁があるようですね。藤澤さん、ですよね。」
「はい。」
「ここにいてもらえますか、このまま少し検査します。」
「わかりま」
「検査?検査っていたいやつ?」
僕は絶句して、元貴を見下ろす。
「…い、痛くない…ですよね?」
「うん、大森さん、痛くないですよ、お話するだけです。」
「…りょうちゃんもいる?」
「…うん、いるよ。」
ぎゅう、と強く握られて、手が少し痛い。
大丈夫大丈夫、と元貴の背中をさすっている間に、先生が看護師さんにいろいろ指示を出して、にわかに病室内が慌ただしくなる。
僕も、元貴に片手を握りしめられている状態で、なんとか仲村さんと若井に連絡をする。片手だから、打ち損じて変な文章になってるけど、直してる余裕がない。
「ねー、りょうちゃん、ユーチューブ見せて。」
「…後でね。」
「えー。ねぇ、何してんのっ!」
「…若井にLINE。」
「…わかい?」
僕は、驚きの表情を浮かべて、元貴を見た。
「…若井だよ。」
「わかいー?だれ?」
「…嘘でしょ…。」
その時、何人かの病院の人が部屋に入って来て、その内の一人が元貴のそばに座った。
「大森さん、こんにちは。今おいくつですか?」
「…えー?」
「…何歳ですか?」
「10才。」
みんなが、少しざわつく。元貴はその空気に怯え、僕の手に縋り付いた。僕は、倒れてしまいそうになり、隣の棚に手をつく。
それに気付いた看護師さんが、僕に椅子を差し出してくれたので、ありがたく元貴の隣に座った。
「…そっか。10歳か。僕の名前はね。田中、って言います。よろしくね。」
「…うん。」
「じゃあねー、今からクイズしようか。」
「…クイズ?」
「絵を見て、名前が分かったら、答えてね。」
「うん。」
その後、いくつかの検査をしていると、病室の外で声がした。若井と仲村さんだ。
「ごめん、元貴、ちょっといい?」
「元貴くん、僕ともうちょっと遊んどこうか。」
「うん、いいよ。」
元貴が、だいぶ緊張が解けたのか、僕の手を離してくれた。先生たちに会釈をして、急いで病室を出る。若井と仲村さんが、僕を見て一斉に口を開く。
「あ、りょ」「ふじ」
「しー!」
僕が口に指を当てて、若井たちに静かにするようお願いしてから、こっち、と少し病室から離れた。
「…元貴に聞こえると、不安がるかもしれないから。 」
「…涼ちゃん、これどういうこと?」
『もときがこどもをになっとゃった』
若井のスマホのLINEを見せられた。僕が片手で急いで送った文章だ。
「…えっと、色々あって、まだ先生たち検査中なんだけど…。」
「うん。」
「…多分、元貴、10歳になっちゃった…。」
「…は?」「…え?」
朝を迎えて賑やかになってきた病院の廊下に、僕の声と、若井と仲村さんの素っ頓狂な声だけが、やけに響いた。
コメント
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あ、そっか。そりゃそっか、、、、頭打って出血してたんだもんね、、何も無いわけないですよね。若井さんのことも忘れちゃったかぁ、、尿瓶えぐいです天然発動してますよふじさわさん
めっちゃ見るの遅れた~泣きたい😭 新しい視点過ぎる、、!最初❤️さん倒れてヒヤヒヤしたけど、目覚ましてよかった~!と思ったら、これってショタ化ってことでよろしいでしょうか?((殴🤛 なにもわかってない❤️くんの「10歳」にやられましたね🫠 コメディ!!もうどんどんかいちゃってください。おかげでこちらも新しい扉開けまくってますからね!七瀬さんが無理してなければ続きがみたいかも、、🫶
10歳♥️くん、可愛いです🤭 私も他の皆さんと同じく、良ければ続き読みたいです🫶 💛ちゃんだけ認識してるとこが💕 確かに吸い飲みのクダリから、コメディ感じます🤣笑