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#そのじん
ヌシ
457
快くんの家に着き、快くんが鍵を開ける。扉を開いて中に入ると、リビングの扉の向こうから足音が聞こえる。
そして、リビングの扉が開き、零斗が歩いてくる。
「快、おか…」
笑顔でそう言いかけたが、俺を見て零斗は表情を変える。
「…なんでお前がいんだよ」
「零斗と話したくて恭也と快くんにお願いしたの」
「…帰れよ。言ったろ? 俺は話すことなんかねぇ」
そう言ってリビングに戻ろうとする零斗に頭を下げて言う。
「酷いこと言ってごめんなさい」
顔を上げ、快くんの方を見る。
「快くんもごめんなさい。酷いことも言ったし、突き飛ばしちゃった事、本当に反省してます」
「いえ。大丈夫ですよ。陽煌さんのせいなんですもんね。仕方ないです」
快くんの言葉を聞いて、零斗が振り向く。
「仕方なくねぇだろ。またなんかするかもしんねぇ。お前の意思じゃねぇなら尚更止めれねぇんだから会わねぇのが一番だろ」
「それはちゃんと兄ちゃんと話す。俺の独占欲を元に戻してもらえるようにちゃんと話すから、快くんには二度と危害を加えないよ」
「もし戻してもらえなかったら?」
「戻してもらう。絶対に」
「それじゃ答えになってねぇよ」
そう言って再びリビングに戻ろうとする零斗さんの手を、快くんが掴んだ。
「零斗さん」
零斗は後ろを向いたまま、立ち止まる。
そんな零斗を見て、快くんが続けて言う。
「お願いします。陽雅さんの事許してあげてください」
「無理なんだよ」
「零斗さん」
「お前もちょっとは危機感持てよ。次は何があるか分かんねぇんだぞ。もし快になんかあったら俺…本当に陽雅の事許せなくなる」
「零斗…」
「だから…嫌いになるくらいなら、今のまま離れた方がマシなんだよ」
その場に沈黙が走る。
少しして、後ろから声がする。
「零斗さんは強いですね」
「あ?」
「だって俺、陽雅さんの束縛の話を聞いても、傷付けられてでも一緒に居たいって思ったんです。だから、嫌いになるかもしれないから離れるとか出来ないです。でも零斗さんは、嫌な事は嫌だってちゃんと言えて。大事になる前に引くべきだって判断も出来て。俺は絶対、出来ないです」
「そんなの、俺だってホントは…陽雅と一緒に居てぇよ」
「じゃあ、一度だけ俺の事信じてくれませんか?」
「あおを…?」
「俺も陽雅さんと一緒に陽煌さんを説得しに行きます。それでも無理だったら、絶交でもなんでもしてください」
恭也の言葉を聞いて、零斗は考える素振りを見せる。
「…分かったよ。じゃあ一旦仲直りな」
零斗はそう言って、俺に手を差し出す。
そんな零斗の手を、俺は握った。
「うん。ありがとう」
手を離すと、泰輝の事を思い出し、俺は言う。
「そういえば、泰輝が零斗に会いたがってたよ」
「あ? アイツが?」
「うん。零斗は変態でうるさいから苦手だけど、いないといないで寂しいって言ってた」
「へ〜。アイツも可愛いとこあんじゃねえか。しょうがねえから会いに行ってやるか」
「こっちには戻ってこないの?」
「まぁ、完全に仲直りした訳じゃねえし。あと、快と離れたくねぇからな」
零斗の言葉に、快くんがフフっと笑う。
「別にいつでも会えるのに。零斗さんはホント寂しがり屋さんですね」
「うっせぇ。俺は泰輝に会いに行くけど、快は来るか?」
「零斗さん。正直に”一緒に来て欲しい”って言ったらどうですか?」
「あー…よし快。一緒に来い。強制な」
「しょうがないですね〜」
快くんがそう言って笑うと、零斗もニコッと笑う。
「あっ。でも、泰輝も兄ちゃんの所に居るんじゃないかな」
「じゃあ快は来ねぇ方がいいか。また倒れるかもしんねぇし」
「大丈夫です。ヤバそうだったら離れます。でも、感情を共有した方が説得しやすいと思うので、出来そうなら俺も協力します」
「ありがとう。快くん」
「よし。じゃあ、準備してしゅっぱ〜つ!」
「ちょっと快。何テンション上がってんの」
「なんかこの展開、ドラマみたいでワクワクする」
「お前…俺と陽雅の今後の関係が決まるってのに、そんな呑気な事言いやがって」
「大丈夫です。俺は陽雅さんの事も恭也の事も信じてますから」
快くんは俺達を見て、ニコッと笑う。
「ありがとう。快くん」
「いえ。頑張って陽煌さんを説得しましょう」
「ちょっと〜、それ俺のセリフ。快は説得しないでしょ?」
「まぁでもほら、感情は伝えるから」
「あんまり無理しないでね?」
「うん。まぁ、もし倒れても零斗さんが受け止めてくれるし大丈夫。ね、零斗さん」
「まぁ、それはそうだけど。倒れる前に離れろよ」
「は〜い」
そして俺達は快くんの家を出て、兄ちゃんの家に向かった。
チャイムを鳴らすと、泰輝が出てくる。
「陽雅さん。来てくれたんですね」
そう言った後、俺の後ろを見る。
「みんな来たんですね」
泰輝がそう言うと、零斗が身を乗り出して言う。
「あぁ。寂しがってる泰輝の為に変態でうるせぇやつが来てやったぜ」
「…陽雅さん。なんで言っちゃったんですか」
「あっ。言っちゃマズかった?」
「…まぁ、いいですけど。陽煌さん、まだ帰ってきてないんで中で待ってて下さい」
「分かった。ありがとう」
中に入ってしばらく待つと、玄関の扉が開く音がする。
足音がこちらに近づき、リビングの扉が開いた。
「陽煌さん。おかえりなさい」
「ただいま」
兄ちゃんはそう言った後、俺達の方を見る。
すると、後ろから快くんが小声で言う。
「不安のオーラと警戒のオーラです。多分、陽雅さんに対しての感情です」
「分かった。ありがとう」
俺は、兄ちゃんの前まで歩いていく。
「兄ちゃん。俺の話、聞いてくれる?」
「いいよ。何?」
「兄ちゃんの本音が聞きたいの。だから、嘘つかないで、正直に答えて欲しい」
「分かったよ。正直に答える」
「ありがとう」
俺はそう言った後、小さく息を吐く。
「兄ちゃんは俺の事、好き?」
「好きだよ。母さんの事も父さんの事も嫌いだけど、陽雅だけは大好きだよ。だって、いつも俺の事気にかけてくれてたから。でも陽雅、俺の事嫌いなんだよね?」
兄ちゃんの目が、不安そうに揺らぐ。
「嫌いだと思ったよ。あの時は本気で。でも、やっぱり俺、兄ちゃんの事嫌いになれなかった。だから俺は、兄ちゃんの事好きだよ」
俺の言葉を聞いて、兄ちゃんは目を見開く。
「本当?」
「うん。本当」
「じゃあ、俺の事だけ愛してくれるって事?」
兄ちゃんは、期待に満ちた顔でそう言う。
「その事なんだけど…俺は兄ちゃんの事を愛してる。でも、恭也の事も愛してるの。だから、二人とも愛してるっていうのじゃダメかな?」
俺の言葉を聞いて、兄ちゃんの表情が変わる。
「ダメだよ。だって、いつか恭也くんばっかりになって、俺の事なんてどうでもよくなるかもしれないでしょ?」
「そんな事ないよ。俺は絶対に、兄ちゃんの事どうでもよくなったりしない」
「嘘だ。だって父さんも母さんも俺の事どうでもよくなったでしょ?」
「母さん達はそうだけど、俺はどうでもよくならないよ」
「嘘だ。信じれない」
「兄ちゃん。俺の事信じて」
真剣な顔でそう言うと、兄ちゃんは黙り込んだ。
コメント
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うわあ…読み終えて、ちょっと息が詰まった感覚です。 零斗の「嫌いになるくらいなら離れた方がマシ」って言葉、重かったなあ。それだけ陽雅くんのこと本気で大事に思ってるんだろうけど、それが切なくて。でも最後に手を繋げて、みんなで陽煌さんに会いに行く流れになって、少しだけ光が見えた気がしました。 陽雅くんが「二人とも愛してる」って言った時の陽煌さんの「信じれない」って返し。親のトラウマ抱えたままの彼の脆さが滲んでいて胸が痛みました…続き、気になります。