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「あの善悪様コユキ様、私は骨と魔核に戻ってお供すれば宜しいのでしょうか?」
スキピオが二人に向けてキラキラした瞳を見せていた。
コユキは丸投げする気なのだろう、肘で善悪の腕をつつき、つつかれた善悪は顎の下で拳を握り考えながら答える。
「うーん、そうでござるなぁ? それよりも生まれたてで面も割れていない事を活かして、ニブルヘイムの内偵(ないてい)とかして貰った方が助かるのでござるが…… どう? 頼めるかな?」
「も、勿論です! 初めてのご下命、命を懸けて、いやもう死んでますから、えっと、魔核が砕け散ろうとも完遂して見せますっ!」
コユキが慌てて嗜(たしな)める。
「馬鹿ね、作戦名は『命大事に』よ! そうね、あっちに行ったら協力者を探し当てるのよ、ルキフゲって悪魔がいる筈だから助力を求めなさい」
「ルキフゲ、ですか? 判りました! 仰せのままに致します」
アスタロトが怪訝(けげん)な顔を浮かべながら端的に聞く。
「ルキフゲ? 誰だそれは?」
善悪が当たり前の様に答える。
「ん? アスタもバアルも会っているでござろ? ほら僕チン達に従っていてくれた影でござるよぉ! ルキフゲ・ロフォカレ、拙者達がまだ一柱の悪魔、ルキフェルだった頃、足元でいつも支えてくれていたでござろう?」
バアルが言う。
「ああ、あの子か! いつも隠れて付き従っていたよね? 見た事ないけどね、薄らとした気配だけは、妾は察していたよ♪」
アスタロトは驚いている。
「え、エエー? そんなの居たのか? 我、全然気が付かなかったんだけど……」
コユキが答えた。
「居たよ? ってかずっとアタシたち二柱に従ってくれててさ、永く果てしないんじゃないかと思える世界を巡る旅に従ってくれた、稀有(けう)な存在がルキフゲ君だったんだよ? 超感謝じゃないのぉ!」
バアルが珍しく大きな声を張り上げて問い質したのである。
「二柱? 二柱って何? 何なの? 受肉した後なら分かるけどさっ、その前なの? 二柱って何なの?」
キョトンとしているコユキに変わって善悪が答える。
「え? そんなの、弟のサタナキア、サタンに決まってるのでござるよぉ! 世界を巡る旅の最中、宛も無く彷徨う(さまよう)拙者に付き従ったのは影たるルキフゲと、身を分けたサタン、その二柱だけだったのでござる!」
ん? んんん? バアルと分かり合った事で更なる記憶が呼び戻されたのだろうか? なんか、爆弾発言をシレっと告げる善悪であった。
コユキが追随した。
「あ、ああ、そっかそっか! 偽ルキフェルってサタンちゃんの事なのねん! なら納得だわん! あの子が頑張ってくれているんだねぇ! んま、今のアタシにとっては障害にしかならないんだけどぉ! 困った物ねぇ!」
アスタロトとバアルは声を揃えるのであった。
「「サタン? って誰?」」
と……
憮然(ぶぜん)とする善悪とは対照的に、嬉しそうな笑顔を浮かべて言うコユキ、その発言はこうであった。
「ああ、そっかそっか、サタンちゃんて言うのはね、地上に激突した後、その衝撃でアタシ達から分かれた弟、まあ、一卵性双生児の事でねぇ? つまり、四人目の兄弟って事なのよぉ」
「んまあ、サタンは殆ど(ほとんど)後ろをついて来ただけでござるし、我々が受肉する時にも無言を貫いていたのでござるから、側近として影たるルキフゲを残したんだけど…… おかしいな? ルキフゲなら茶糖の人間が我輩たちと関わっている事位分かりそうなものでござるが? 何でござろ? 取り敢えず、皆、分かったぁ?」
うん、分かった、けどこんな爆弾発言を聞かされて、すぐさま言葉を返せるものなど皆無であったのである。
と言う訳で発言の主、コユキが言葉を続けた。
「オルクス君に命令してアタシの家族を襲わせて、バアルを騙してアタシ達を探らせたり邪魔したり、そこら辺を考えるとルキフゲが近くにいないか居ても発言権が無いとか? かしらね…… 取り敢えず、サタンちゃんには真意がわかる迄は接触しない事にして、さっき言った通りルキフゲを探してね、スキピオ君、暗がりに居れば会えると思うからさ」
「そうでござる、何かあったら『存在の絆』で連絡してくれればいいのでござる」
「承知しました」 『聞こえますか? 善悪様コユキ様』
「うん、感度良好でござるよ」
「オケイねん」
その様子を見ていたアスタロトがバアルに言った。
「お、そうだった! なあバアル、我かトシ子に掛けた通信阻害のジャミングな、あれ解除してくれよ」
バアルが首を傾げて答える。
「ん? 妾、ジャミングなんて掛けていないよ?」
「え……」
絶句したアスタロトの肩に飛び乗ってポンポンと優しく慰めるように叩くパズス。
恐らく以前の自分とチロに置き換えて同情、いいや惻隠(そくいん)の情を感じたのでは無かろうか、優しい。
「じゃあハンニバル、スキピオ君にニブルヘイムへの隠し通路を教えてあげて! んじゃ皆も後はよろしくね、コユキプスッと頼むね」
「あいよっ! プスッとな」
大量の黒い霧を噴き出して姿を赤い石、魔核へと変じたバアルを大切そうに両手で受け止めるハミルカルである。
バアルの魔核はアスタロトの物より一回り小さかったが、反して赤い色は一際濃密で魔力量の多さを感じさせるのであった。
善悪がアスタロトとネヴィラスに確認した所、レバノンには一旦戻ったムスペルヘイムのクラックの一つがベイルートに繋がっているらしく、それを経由して向かうとの事であった。
一応楽器ケースなんかが必要なのでは? そう考えていたコユキも胸を撫で下ろすのであった。