テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
読ませていただきました!今回の戦闘シーン、すごく熱かったです…!スピリタスが「集まる前に潰せばいい」って即決するところ、彼の将としての判断力が冴えわたってて痺れました。特にバルカのカンナル戦を彷彿とさせる包囲戦術を逆に仕掛ける展開、鳥肌ものです。ただ、あと一歩でハスドルバルを取り逃がしたのが悔しい…。逃げるタイミングを読んだハスドルバルの老練さも光ってました。次が気になります!
バルカ陣営の三将と、その軍勢はいまだ健在だった。
ハスドルバル。
マーゴ。
ビスコーネ。
三将が率いる軍には、ほとんど損害らしい損害もない。
それでも――。
たった一日で、彼らはあまりにも多くのものを失った。
首都スパル・ノヴァ。
六百タラントの軍資金。
大量の武器と穀物。
軍船と輸送船。
そして何より――
人質によって繋ぎ止めていた、スパルーニャ諸部族の支持。
ハスドルバルはバエクルに四万の兵を集結させた。
「マーゴとビスコーネに伝えろ。」
「全軍をもって、バエクルへ集結せよ。」
スパル・ノヴァを奪還する。
三将の軍が集まれば、その兵力は十二万。
敵は三万余り。
四倍である。
今度こそ、逃げ場はない。
――そのはずだった。
ところが。
「スピリタス様!」
「敵三将がバエクルへの集結を開始しています!」
「合流すれば、総数およそ十二万!」
報告を聞いたスピリタスは、地図を眺めた。
「ふーん。」
「十二万か。」
シラヌスが尋ねる。
「スパル・ノヴァの防備を固めますか?」
「なんで?」
「……は?」
スピリタスは地図の上に置かれた三つの駒を見ていた。
ハスドルバル。
マーゴ。
ビスコーネ。
「集まられると面倒だな。」
一つずつ、指で弾いた。
「だったら――」
「集まる前に潰せばいい。」
スパル・ノヴァ攻略によって、戦略目標は変わった。
もはや首都の攻略ではない。
スパルーニャ全土の制圧。
スピリタスは三将を各個撃破すべく、軍を率いて出陣した。
#シェイプシフター
柊遊馬
5,227
#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
196
#軍師
眠狂四郎
153
スピリタスは、マーゴとビスコーネの軍がまだイリパへの途上にあると知ると、迷わなかった。
「今だ。」
合流されれば十二万。
だが、今ならば――ハスドルバルは一人である。
スピリタスは全軍を率い、バエクルへ進撃した。
ハスドルバルは丘陵地帯に陣を敷いていた。
高地を押さえ、斜面を登ってくるグラン軍を迎え撃つ。
地形は明らかにハスドルバルに味方していた。
「来るなら来い、スピリタス。」
高所から降り注ぐ矢。
斜面を駆け下りる兵。
グラン軍の中央は、次第に押し込まれていく。
ハスドルバルの口元に笑みが浮かんだ。
「所詮は若造か。」
だが――。
戦場を見渡したハスドルバルの表情が変わった。
「……右翼はどうした。」
返事がない。
「左翼は!」
その時だった。
右翼からラエリウスの軍旗が現れた。
ほぼ同時に、左翼からスピリタスの軍が回り込んでくる。
いつの間にか中央で戦っていたグラン軍は、敵を倒すための主力ではなくなっていた。
ハスドルバル軍を、その場所へ釘付けにするための餌だった。
右翼。
左翼。
そして正面。
三方からグラン軍が迫る。
「なん……だと。」
ハスドルバルは茫然としていた。
この陣形を、知っている。
いや――。
知らぬはずがなかった。
かつて兄バルカが、カンナルでグラン軍を葬った陣形。
その包囲が今、自分へ向けて閉じようとしている。
敵陣の先頭で、スピリタスが剣を抜いた。
「教えてやろう、ハスドルバル。」
若き将軍は笑った。
「お前さんはバルカの弟かもしれないが――」
剣先が、ハスドルバルへ向けられる。
「俺はバルカの一番弟子なんだよ。」
包囲は完成しようとしていた。
その時――。
両陣営へ、ほぼ同時に急報が飛び込んだ。
「イリパ方面より敵軍!」
「急行軍で、こちらへ向かっております!」
スピリタスの表情から笑みが消えた。
マーゴとビスコーネ。
ハスドルバルを救うため、二将の軍が迫っている。
このまま包囲を続ければ、今度は自分たちが背後を突かれる。
あと少し。
あと少しで、ハスドルバルを仕留められる。
スピリタスは奥歯を噛んだ。
「……包囲を解け。」
ラエリウスが振り返る。
「ですが!」
「分かってる!」
スピリタスはハスドルバルの将旗を睨みつけた。
「分かってるから、言ってるんだ。」
「全軍反転! 新手を迎え撃つ!」
断腸の思いで、スピリタスは包囲を解いた。
だが――。
この機を逃さなかった男が、もう一人いた。
「北へ向かう。」
ハスドルバルだった。
「援軍との合流はなされないので?」
「しない。」
「今ならスピリタスは援軍へ向かっています。我らが加われば――」
「だからだ。」
ハスドルバルは即座に残存兵をまとめた。
「奴が援軍と戦っている今しか、逃げる機会はない。」
敗残兵を率い、ハスドルバルは北へ向かった。
その途上で各地に残された兵を糾合しながら、さらに北へ。
兄バルカのいるグラン本土を目指して。
一方――。
スピリタスは迫り来る援軍を待ち構えていた。
イリパからの急行軍。
その言葉が意味するものを、彼は理解していた。
敵は急いでいる。
ハスドルバルを救うため、一刻を争っている。
ならば――。
「先頭の部隊が見えました!」
「後続は?」
「まだです!」
スピリタスの口元がわずかに上がった。
「そうか。」
十二万の大軍。
まともにぶつかれば勝ち目は薄い。
だが今、目の前にいる敵は十二万ではなかった。
「全軍、突撃。」
グラン軍は、到着したばかりの先鋒へ襲いかかった。
長い急行軍で疲弊し、後続も揃っていない軍勢に、陣形を整える時間など与えない。
先鋒は瞬く間に崩れた。
やがて後続部隊が到着する。
だが、そこに待っていたのは救援を待つハスドルバルではない。
戦闘態勢を整えたスピリタスの軍だった。
「敵、新手!」
「数は!」
「およそ一万! さらに後方にも続いています!」
スピリタスは剣を肩に担いだ。
「十二万じゃなかったのか?」
ラエリウスが呆れたように彼を見る。
スピリタスは笑った。
「一万ずつ来てくれるなら――」
剣を振り下ろした。
「一万ずつ倒せばいい。」
先頭から順に。
到着するたびに。
隊列すら整わぬ敵軍を、グラン軍は散々に打ち破っていった。
バエクルの戦い。
スピリタスはハスドルバルを包囲し、救援へ駆けつけた大軍さえ各個に撃破した。
誰が見ても、鮮やかな勝利だった。
ただ一つ――。
ハスドルバルを取り逃がしたことを除いて。