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第2話:火属性の告白
火曜日の放課後、コウタは体育館裏の壁にもたれ、リングを見つめていた。
右手中指に光るのは、深紅のリング。
中心には、細く鋭い炎の模様が浮かび上がっている。
コウタ・14歳、中学2年。
短めの髪に、少し太めの体格。よく「体育会系っぽい」と言われるけれど、実際は不器用で口下手だ。
「おまえさ、本気なん?火属性で告るとか、直球すぎってか燃えすぎだし」
そう言ったのは親友のレンジ。彼のリングは風属性で、渦巻くラインが涼しげだ。
「……だって、俺の気持ち、燃えてるんだからさ」
「はいはい。で、相手の子って誰?」
コウタは黙って、昇降口のほうを見た。
そこにいたのは、澄川ユメ。
肩までの黒髪、制服の上に水色のカーディガン、指には水属性リングが光っている。
ガラス玉のような石に、流れるような波模様。
落ち着いていて、やさしそうで、どこか水面みたいに掴みづらい。
「属性、真逆やん。火と水、相殺しちゃうぞ」
レンジの言葉は冗談まじりだったが、コウタの胸にはズシンと響いた。
属性相性は、今の中学生にとって恋愛の指標にもなる。
火は情熱、水は冷静。
火属性は「熱すぎる」と敬遠されがちなのも事実だった。
「でもさ。ユメの水に、俺の火が……ちゃんと届けばいいって思うんだ」
その言葉だけは、真っ直ぐだった。
放課後、ユメに話しかけるチャンスがやってきた。
「澄川さん、あの……少しだけ、いい?」
教室の隅、誰もいない時間。
コウタの手が震えているのが、自分でもわかった。
「うん、なに?」
ユメが振り向く。目の奥に、あの静かな水面が揺れた。
「これ……俺のリング」
彼は指を差し出した。
火のリングが、夕日に照らされて揺れる。
「……俺さ、たぶん、ものすごく不器用だし、暑苦しいし……
でも、ずっとユメのこと、すげぇきれいだなって思ってて……」
「……」
「だから――火でも、ぶつかっても、そばにいたいって思った」
ユメはしばらく黙っていた。
そして、すっと自分のリングを外して、コウタのリングの上にかざした。
ぱちっ――と、ほんの小さな蒸気が立った。
コウタがあわてて引こうとすると、ユメは笑って言った。
「びっくりした?水がちょっと多かったかも」
彼女は、コウタのリングに指で触れた。
その瞬間、火の模様がほんのりと波紋のように揺らいだ。
「火と水って、反発だけじゃないよ。
湯気になったり、温かくなったり……いろんな形があるんじゃないかな」
「……え?」
「ちょっとずつ、お湯ぐらいにはなれるかもしれないね」
ユメはそう言って、にっこり笑った。
リングに小さな波紋。
それは、ふたりの指先を通じて生まれた、最初の魔法だった。