久々に聞いた『人妻』というワードに、ゾクゾクすると同時に、ガッカリしている純がいる。
(え…………恵菜って女、既婚者……かよ……)
純の落胆ぶりをよそに、部下は呑気に『さて、残り半日、頑張っていきましょ〜!』と、ゆるゆるな言い草で、さっさと職場へ戻ってしまった。
あの女、綺麗だったし、男がいてもおかしくはない、とは思っていたが。
まさか、結婚していたとは。
(さすがに人妻に手を出すのは……ヤベェだろ……。俺があと五年若かったら……手を出してたかもしんねぇけど……)
来年の四月、純は三十五歳になる。
いい加減、女と適当に遊んでいる場合ではない。
友人たちも次々に結婚し、コイツは絶対に独身貴族だろう、と『最後の砦』のように思っていた奈美の夫、本橋豪も二ヶ月前に結婚した。
奈美が高校を卒業した直後、彼女の父が他界したため、彼らの結婚式で、奈美とバージンロードを歩く大役を務めた純。
「…………俺は、あの夫婦の世話焼きオヤジか……?」
そろそろ、本気で恋愛したい、という気持ちは、もちろん彼の中にある。
過去に真剣に付き合ってきた恋人も、数人いた。
だが、振られてしまったり、別れを告げられるのは、決まって純である。
自分の性格とノリが軽いせいか、別れた恋人たちには『男として見られなくなった』やら『彼氏、というよりも友達って感じ』と言われてきた。
(女に本気になっても、どうせ振られるんだったら、恋愛感情抜きのドライな付き合いした方がマシじゃね……?)
立て続けに振られてきたせいか、恋愛に対して臆病になっている気持ちを隠すように、純は、バーなどで気に入った女がいると声を掛け、ワンナイトの関係を持った事が多々あったし、セフレがいた時期もあった。
「今年の締めは最悪だったが、来年こそは……本気の恋ができたらいいよな……」
純は、前髪をクシャッと掴んで掻き上げると、急いで職場へ戻った。
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