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夜明け。青白い光。

パソコンの光が、目の奥を刺す。

チャートは見慣れた動きなのに、今日は「違う匂い」がする。

昨日仕入れた古酒を飲み過ぎたせいかもしれない。


「なぁ育代、今月からマンションの返済額が少し増えるが、心配いらん。俺が動かしてる資金がもうすぐ倍になる。」


最初はそれで済む。

でもその「匂い」が一度気になった瞬間、

仕事のすべてが「雑味」に思えてくる。


取引は連敗。

焦りではなく、気味の悪さが残る。

彼は自分の世界の「新酒」を失った。

マウスのクリックも、キーボードの音も、

まるで狂った杜氏のように味がズレ始める。


──理恵の「ジムノペティ」が、リビングから聴こえてくる。

静かな旋律に合わせて、チャートが滑り落ちる。

辰彦の指は止まらない。

……そして終わる。


震える指。流れる汗。止まらぬ電話。

部下の林の悲痛な叫び。

モニター越しに響く、山下の怒号。

たった一日で会社の資金が、何億も飛んだ。


理恵の音を、奇跡だと信じてしまう。

もう才能とか努力じゃない。

理恵の音が、「世界と繋がる唯一の音」に聞こえてくる。


家事の途中で、料理の音・時計の音・雨の音、

全部が理恵の曲に聞こえていく。

生活音が「旋律」になる。


やがて育代は気づく。

「理恵が弾いていない時でも、音が聞こえる」。


リビングのピアノの前に座り、

理恵の弾き方を思い出しながら、

誰もいない鍵盤にそっと手を置く。

……音が鳴る。


そして微笑む。

「理恵……あなた、やっぱり特別だわ……」


……………………………………………………

「静けさとは、何もないことじゃない。

音が消えたあとに残る“記憶”のことだ。」

― 坂本龍一(インタビュー『音のゆくえ』より)

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汚れた顔の天使〜十一個目スピンオフ〜

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