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「私が怒ってるのは一人で勝手に行ったこと。こないだ来た時に梨田さんの話してたでしょ? それが気になってね。だからあの店の子になんかあったら連絡くれって言ってたの」
麗華さんだって十分変なところに気がつくじゃないか。
「だから聞きたいことがあれば言ってくれればよかったのに。そうしたら今回みたいなおおごとにならなくて済んだのよ?」
「それは……」俺は言い淀んだ。まだはっきりしたことは分からない。それにこれは俺が勝手に思ったことで麗華さんを巻き込んでいいことだとは思えなかった。
「──石川さんがなんで死んだか気になってる?」
俺は答えられなかった。警察はブラジル人の売人だって発表してるし、それが違うという証拠もない。
「碧もヤクザだもんね。忘れそうになるけど」そう言って麗華さんは薄く笑った。
「石川さんが死んじゃったこともショックではあるけど、私は碧が死んじゃうのも嫌なの。だからもし協力できることがあるなら協力したいのよ。今日のことだって私に聞いてくれれば調べてあげたのに。わざわざあんな危ない橋を渡ることもなかったのよ?」
そう言って麗華さんは俺をじっと見つめた。俺はなんだか落ち着かなくてコーヒーを手に取った。
「──梨田さんのことはよく知らないけど、それとなく聞くことはできたから」
それってどういうことなんだろうか? 梨田のことはよく知らないのに誰に聞くんだろう?
「常連さんにね、梨田さんの上の人がいるの」
「上?」俺は組織図を頭の中で描く。梨田は〈極翠会〉では若頭だ。その上って……
「もしかして〈極翠会〉のトップ?」
俺がそう聞くと麗華さんは頷いた。
「碧は梨田さんに石川さんのことを聞いたんでしょ?」俺は頷いた。
「それくらいなら真中さんにも聞けたと思うわよ」
「真中さん?」
「〈極翠会〉の組長さん。真中さんから石川さんの話は聞いたことはないわ。それに梨田さんが真中さんに何も言わずに勝手に敵対する組の人間を殺すとか思えないけど?」
「え!?」俺は危うくコーヒーを吹き出すところだった。
「どうして……」
「どうしてもなにも。碧の行動見てたらそれしか考えられないじゃない?」
どうやら麗華さんは俺が思っているよりも勘のいい人らしい。いや、よく観察してるというべきか。さすがナンバーワン女王様というべきか。
「──正直まだ分からないんだ。けど警察が発表してるたまたま取引き現場に遭遇して撃たれたっていうのはあり得ないと俺は思ってる。上の人達は『梨田の情婦にちょっかいをかけたからだ』って言ってたけど……それも違うと思った」
「碧はそれも違うと思ってたのね?」
「うん、違うとは思ってた。けど違うと思ったのから潰していくしか方法はなかったから」
「だったら」麗華さんはソファに座り直して、俺のほうに身体を向けた。
「余計に相談して欲しかった! 真相に辿り着く前に碧になにかあったら元も子もないでしょう?」
「──ごめん」
麗華さんの言うとおりだ。真相を知る前に俺が死んじまったら石川の汚名は晴らせない。