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メメント・ユウ

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メメント・ユウ

1 - なんか最後だって思うとさ、なんでもさみしく思えちゃうの、アタシ

♥

19

2023年11月12日

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ユウ

なんか最後だって思うとさ

ユウ

なんでもさみしく思えちゃうの

ユウ

アタシ

お兄さん

なにそれ

ユウ

近所のコンビニがさ、大して行ってもないのにこの前もうすぐなくなるってわかったら

ユウ

ああ、もっと行っとけばよかったなぁとか

ユウ

1回だけ見た再放送ドラマの被害者役の俳優が病死したって聞いて

ユウ

て、もう少しちゃんと見とけばよかったなぁとか思ってさ

お兄さん

めんどくさいね、それ

ユウ

ふふ

ユウ

そう

ユウ

アタシってすごくめんどくさいね

ユウ

きっとアタシが死ぬときはさ、他の人より何十倍の後悔をいっぱい抱えながら

ユウ

愛すべきどうでもいいものたちにまみれて

ユウ

わああぁ!ってなりながら死ぬんだと思う

お兄さん

ほんと、めんどくさいね

ユウ

まぁね

ユウ

でも、アタシも大概だけどさ、お兄さんもだよね

お兄さん

僕はそんなにこじれた思考回路はしていないよ

お兄さん

シンプルイズザベストが座右の銘だからね

ユウ

そういうと多少は聞こえがいいけどさ、要はただのめんどくさがりだろうよ

お兄さん

なんだそれ

ユウ

まわりを見渡してみて

お兄さん

キレイに掃除された狭いアパートの一室だ

ユウ

キレイに掃除してもらった、狭苦しいボロアパートの一室だろうが

お兄さん

……

ユウ

いいよ。べつにさ

お兄さん

……

ユウ

何もかもを失った後に悔いるから後悔なんだ

お兄さん

僕は、

お兄さん

君とは違う

ユウ

知ってるよ

ユウ

そんなこと知ってる

ユウ

アタシはお兄さんみたいに不器用じゃないもん

お兄さん

僕も

お兄さん

きみみたいにねじ曲がった性格じゃないよ

ユウ

この畳がどんどん見えなくなって

ユウ

台所に洗い物がたまって

ユウ

脱ぎ散らかった靴下に

ユウ

ハエがたかっ

ユウ

お兄さん

……

ユウ

デカい独り言に、返事がなくて

ユウ

朝のコーヒーの…匂いもしなくなって

ユウ

お兄さんの、

ユウ

名前を呼ぶ声も、き

ユウ

聞こえなくなって

お兄さん

……

ユウ

ああ、寂しい、なって

ユウ

思い知れば、いいんだ

お兄さん

……な

ユウ

泣いてないっ!

お兄さん

うん

お兄さん

分かってるよ

お兄さん

何年一緒にいると思ってるんだよ

ユウ

……うん

お兄さん

言われなくてもさ、こんなに狭苦しいボロアパートなら、1人になったって全然大丈夫だよ

ユウ

……うん

お兄さん

もともと1人で住んでたわけだしね

ユウ

……うん…

お兄さん

まぁ、生きていけるように最低限は掃除とかもするつもりだし

ユウ

うん……っ

お兄さん

だから

お兄さん

僕がユウを思い出して

お兄さん

寂しくなることも、

お兄さん

この手を離して後悔することも、

お兄さん

絶対……

お兄さん

ないよ

ユウ

…っ

ユウ

ほんと

ユウ

お兄さんって、不器用だ

お兄さん

……ユウ

ユウ

顔が見えなくても

ユウ

こんなに強く抱きしめられれば、お兄さんの思ってることくらい

ユウ

分かるよ

お兄さん

……っ………

ユウ

あの日

ユウ

まだ小さかった手を引いてくれて

ユウ

アタシを…地獄から連れ出してくれてさ

ユウ

それから、何年

ユウ

…お兄さんがそばにいてくれたと思ってんのさ

お兄さん

ユウ

お兄さん

……ユウっ

ユウ

うん。たくさん呼んで

ユウ

お兄さんがくれた名前、アタシすごく気に入ってるから

お兄さん

…ユウ

お兄さん

ユウ、ユウ…っ……

ユウ

誰がさ、なんて言ったって

ユウ

お兄さんはさ、アタシを助けてくれたの

お兄さん

……っ

ユウ

あーあぁ、ダメだなぁ…

ユウ

やっぱり、最後だって思うと

ユウ

……さみしい

お兄さん

僕は

お兄さん

知らなかったんだ

お兄さん

こんな、揺すぶられる思いなんて、めんどくさいだけで

お兄さん

…いらなかった、のに

ユウ

ふふ

ユウ

…捨てても、いいよ

ユウ

アタシが、お兄さんの分も

ユウ

何十倍も

ユウ

余分に大切にするから

お兄さん

分かってるくせに、さ

お兄さん

……ほんと、性格悪いな

ユウ

本当に

ユウ

あなたは不器用だね

お兄さん

……

ユウ

……

ユウ

ねえ、お兄さん

お兄さん

…ん、なに?

ユウ

もう一回だけ、名前を呼んで

お兄さん

……ユウ

ユウ

もう1回

お兄さん

ユウ

ユウ

もう1回だけ

お兄さん

……

ユウ

本当に、最後の1回だけ

狭いアパートの一室は、窓から差し込む光でオレンジ色に染まっていた。

僕は昔から窓の外も中もなにもかもをその色に染め上げてしまうその景色が 好きだった。

年の離れた幼なじみの、傷だらけの手を握ってこの景色を一緒に見たとき、

僕の中には大層な考えも、邪な思いもなかった。

僕はただ、

お兄さん

夕(ユウ)

ただ、この子に生きていて ほしかったのだ。

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