美晴がブラジャーを外そうとした、そのとき。
浩太
待て!
浩太
今、聞こえなかったか!?
大島
何も聞こえませんね
大島
時間稼ぎなど──
浩太
違う!
浩太
たしかに聞こえたんだ!
圭一郎
何が聞こえたんだ?
浩太
あれは、クマの唸り声だった
大島
この期に及んでハッタリですか
大島
動物に疎い私でも知ってますよ
大島
今の時期、クマは冬眠中でしょう
浩太
普通はな
浩太
日本最大のクマ被害、三毛別事件は知ってるか
大島
聞いたことはありますね
浩太
それが起こったのは、今と同じ12月
浩太
冬眠しているはずのヒグマによって引き起こされた
圭一郎
そ、そうなんだ…
浩太
冬眠できなかったクマは
浩太
『穴持たず』と言われる
浩太
穴持たずは、通常のクマよりも
浩太
はるかに凶暴で、危険なんだ
大島
ほう…
浩太
さっきクマの唸り声が聞こえた
浩太
穴持たずがいるかもしれないんだ!
大島
しかし、私には何も聞こえ──
浩太
静かに!
瞬間、山小屋に静寂が訪れた。
風の音、4人の呼吸音が響く中──
グルルル…
圭一郎
聞こえた!
美晴
あ、あたしも聞こえたよ!
大島
…………
大島は窓に近づいていった。
銃を構え、外を窺っている。
浩太
…………
浩太
(作戦通り…!)
浩太
(今の唸り声はフェイク)
浩太
(ロンの動画を再生しただけだ)
浩太
(山小屋の中は薄暗いし)
浩太
(大島と俺との間には、美晴が立っている)
浩太
(この位置なら、スマホを触ってもバレないからな)
浩太
(ここまでは順調だ)
浩太
(後は、奴が外に気を取られている隙に)
浩太
(銃を奪う!)
浩太は音を立てないよう、そっと大島のバッグに近づいていった。
浩太
(あと少し…!)
大島
なーんてね
急に大島が振り返った。
浩太
…っ!
大島は、浩太に銃を向けてくる。
大島
残念でした
大島
そんな子どもだましには引っかかりませんよ
浩太
ぐっ…!
大島
中々面白い作戦でした
大島
大いに楽しませてもらいましたが
大島
私は、小賢しいガキが大嫌いなんです
浩太
!
大島
一足先に、あの世に行ってもらいましょう
圭一郎
や、やめろ!
美晴
何でもするから、それだけはやめて!
大島は、不気味な笑みを浮かべた。
大島
さようなら、賢い坊や
浩太
(く、くそう…!)
浩太
(みんな、ゴメン…!)
浩太が死を覚悟した、そのとき。
バリンッ!
突如として窓が割れた。
大島
誰だっ!
大島は咄嗟に窓から離れ、銃を外に向ける。
圭一郎
まさか本当にクマ!?
しかし、窓の外には何もいなかった。
浩太
(た、助かった…)
床には雪の塊が転がっている。
これが窓を割ったのだろう。
浩太
(誰かが助けてくれたのか?)
浩太
(でも、誰が?)
浩太は割れた窓を見た。
雪と暗闇のせいで、人影らしきものは何も見えない。
大島
ふむ…
大島
どうやら、雹(ひょう)で窓が割れたようですね
浩太
(えっ?)
浩太
(あの雪の塊が、雹だって?)
浩太
(実際に見たことはないけど、雹ってあんななのか?)
浩太
(俺にはただの雪玉にしか見えないけど…)
浩太
…………
大島
自然の脅威ってやつですね
大島
とりあえず、割れた窓を塞ぎましょう
大島
賢い坊や、太っちょ
大島
隣の部屋に薪があるので、それを使って窓を塞ぎなさい
圭一郎
は、はい!
浩太
(何はともあれ、命拾いした…)
大島の命令で、浩太と圭一郎は窓を塞いだ。
大島
興がそがれましたので、ストリップは中止にしましょう
大島
もう服を着ていいですよ
美晴は慌てて服を着始めた。
大島
時間も時間ですし、そろそろ休みましょうか
3人は、小屋にあった縄で手足を縛られ、猿ぐつわもされてしまう。
大島
それではおやすみなさい
大島
また明日、楽しみましょう
しばらくして、大島から寝息が聞こえてきた。
浩太
(何とか抜けだせないかな?)
浩太は身をよじってみたが、解けそうになかった。
浩太
(このままじゃ無理だ)
浩太
(何か道具でもあれば…)
浩太
(……ん?)
浩太は『あるもの』に気づいた。