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激しい動悸と冷汗で眠ることが 出来そうにない

いつになっても忘れることの出来ない記憶が頭を駆け巡る

…はぁ

努力は必ず報われるという訳では無い

そう知ってからずっと

自分の努力にはあまり期待できなくなってしまった

でも負けたくはない

不安と葛藤がせめぎ合う中

夜に身を任せるように

明日を待っていた

第3話 青と追憶

涼しい風が吹く快晴の下

11月が肌を滑っていく

今年最後の大会です

みんなそれぞれ自分が納得する結果を出せるように頑張りましょう

はい!

紘時

今日は風穏やかだな

それな助かった

てか調子良さそうだな

紘時

もう絶好調

紘時

120%出し切る

それは有言実行してもらわないと

紘時

あったりまえじゃないですか

すごい自信だな

春紀

あんま力むなよ

紘時

はい!

中村

憧埜

はい!

体調大丈夫そうか?

憧埜

ばっちりです

よかった

この2日間頑張ろう!

憧埜

頑張りましょう!

いくつもの足が

同じ方向へ踏み出した

晴天の下の戦場は

戦士の熱意で満ち満ちていた

それでも空は青く光っている

男子100m

この種目で今大会が幕を開ける

憧埜

恵ファイトー!

恵は笑顔で手を振る

紘時

リラックスできてるな

憧埜

だな

スタート位置へ着く合図が響いた

緊張感が張りつめる

深呼吸をしてからスタート位置に着く

はぁ

静けさが肌を削ぐ

痛いほどに

強く打つ鼓動が耳に届いている

パンッ

日々の努力を乗せた1歩目は地面を強く踏みきった

恵がんばれー!

紘時

いけー!!

風を切って強く前へ

地面を抉る程強く踏んでいく

仲間の声援が鮮明に聞こえてくる

煩いほど高鳴る鼓動

全身に行き渡る活力と脈

その姿は空の下で輝き続ける

そして最後の1歩を踏みしめた

途端に歓声が湧き上がった

10.56

何度目を凝らして見てもそこに示される数字は同じだった

紘時

ナイスー!

憧埜

恵ー!

憧埜は親指を立てて笑っている

憧埜

最高!

…ありがと!

涙と笑顔を浮かべながらピースサインを 高く掲げた

紘時

自己べ10.70だったよな恵って

憧埜

うん

憧埜

全中の時の記録だったかな多分

紘時

ずっと疑問だったけど

紘時

全中で2位の選手がなんでこの高校来たんだろ

憧埜

まあ恵なりに色々考えた結果だと思う

紘時

どうゆう事?

憧埜

恵にとって最悪の大会だったんだよ

憧埜

あの大会は

憧埜は少し口を噤んで何も 言わないでいた

今はあの日の暗さが嘘のように空が 輝いて見える

きっと今の自分は

孤独じゃないから

そう教えてくれた人がいたから

そして蘇るのは

あの日の記憶だった

あの日の景色だった

調整出来てるか

うん大丈夫

人生最後の全中

毎日

毎日

休む時間も削り

友達との時間も削り

この日に全てを捧げてきた

がむしゃらに走って

走って

走って

死にものぐるいで前に進む

はぁ

自分への期待

周りからの期待に押し潰されそうだ

少し目眩を感じた

それでも立ち上がる

決勝

自分のレーンへ足を進めた

そこで見えた景色は未来への希望 のようで

高揚感が鼓動に変換される

生を強く刻んでいる

よし

歓声が耳の奥を差す

そして競技場は静まり返った

15秒ほどの静寂の後

発砲音が鳴り響く

観客

頑張れー!

0.01秒先へ0.01m前へ

強く地面を蹴っていく

あと20m

1つの後ろ姿が視界に入った

その姿を見た瞬間

悟ってしまった

努力と才能の果てしない差を

自分の無力さを

いつの間にか100m地点を通過していた

結果は2位

一般的には素晴らしいことなの かもしれない

でも自分にとっては何の価値もない

ただの数字のようだった

自己ベストは更新

それでも足りない

自ら削り取った時間も友情も

縛られたままの自由も

これじゃ埋められない

頭が真っ白になった

…はぁはぁはぁ

境 稜佑

一緒に走れてよかったよ

境 稜佑

ありがと恵

稜佑は手を差し出した

うんこちらこそ

手を伸ばした瞬間

視界が突然暗転した

バタッ

境 稜佑

恵?

境 稜佑

おい!大丈夫か!

自分の名前を呼ぶ声が

次第に遠のいていく

何も聞こえなくなっていく

目を開くと救護室の天井が目に映った

境 稜佑

恵?

境 稜佑

大丈夫か?

まだ気分悪いか

…よかった

ゆっくりと体を起こした瞬間

あの景色が目を覚ました

…うっ

境 稜佑

無理すんなって

…ごめん

一旦1人にしてくれ

境 稜佑

…わかった

病室には俺一人だけ

まだ孤独な方がマシだった

稜佑は中1から陸上を始めた

その前もスポーツはやっていなかった

なのに

僅か2年で10秒台

俺が必死に7年間食らいついて たどり着いた領域

それなのに

最後の最後で打ち負かされた

…くそ

俺の不断の努力は

きっと意味を成さなかったんだろう

まだ足りなかったんだ

才能を超越する努力が

俺には足りなかった

まだやらないと

まだ

まだ

…っ

前へ踏み出そうとしているのに

体が言うことを聞かない

涙が止まらない

悔しさと悲しさが心をかき乱す

そんな時に病室の扉が開いた

憧埜

…恵

…憧埜

憧埜

ちょっと話そ

…稜佑は?

憧埜

今日は帰ってもらった

憧埜

お父さんとお母さんには2人で話させてって言っといたよ

…そっか

少しの間沈黙が続いた

憧埜

見てたよ恵の100m

全然だめだった

足りなかったんだ

俺もっと努力しないと

憧埜

それ以上無理したら本気で身体
壊すだろ

憧埜

ちょっと休もうよ

…追いつけなくなるだろ

俺にはあいつみたいな才能なんか無い

だから…!

憧埜

何言ってんの

憧埜は少し怒った口調で言う

憧埜

才能なしで100mを10秒台で走れるわけないじゃん

憧埜

自分のこと責めすぎ

憧埜

もっと自分のこと大切にしてよ

憧埜

あと

憧埜

もっと自分のこと分かってあげな

憧埜

お前にはこの世界で誰にも負けないような努力する才能があるだろ

憧埜の言葉は少し怒っているようで

でも温かかった

…ごめん

それでも気持ちが追いつかない

やっぱ俺無理だ

前に進めない

…進みたくない

憧埜

憧埜の顔は虚ろになってしまう

怖いから

…俺はみんなが思うほど強くない

努力も実力も自分も

もう何も信じれない

憧埜

…恵

涙で視界が開かない

…ごめん憧埜

憧埜

…わかった

無言で憧埜は病室を去っていった

そして本当に独りになってしまった

大会が終わってもう一週間

ずっと走り続けた

体調は未だに優れない

走らなければ不安は消えない

でもそんなことはどうでもよくて

生きた心地がしない

負けたくない

ライバルにも

自分にも

憧埜

やっぱいた

憧埜

まあ座ろうよ

…なんで

憧埜

どっかで練習してるかなーって

いやそうじゃなくて

憧埜

もしかして怒られるとか思った?

…うん

憧埜

ほんとはそうしたいんだけどね

憧埜

その前に話したいから

話すことなんかないよ

憧埜

あるよ

憧埜

実はさっきの嘘

憧埜

大会終わってから馬鹿みたいに走ってるってこと知ってた

…何だよ

憧埜

気持ちが追いつかないのはわかるよ

憧埜

でも死ぬまで走る気持ちはわからない

憧埜

怪我したらそれこそ無駄になるじゃん

…不安だから

憧埜

何が?

…周りに置いていかれるのが

憧埜

置いて行かれないよ

なんで言い切れるんだよ

憧埜

僕が置いていかないから

憧埜

恵はひとりじゃないから

憧埜

それだけ

憧埜が紡ぎ出した言葉は

何よりも真っ直ぐだった

孤独が消える音がする

憧埜

もう前に進めそう?

…うん

涙を堪えられない俺は

やっぱり強くなくて

強くある必要もないんだろう

もうひとりじゃないんだから

ゆっくりでもいいから

前に進んでいけばいい

憧埜

泣くなよw

…泣いてないし

憧埜

そうですか

憧埜は楽しそうに笑っている

その横で俺は泣いている

暮れた夕日に向かって2人は歩き出した

憧埜

お疲れ恵

うん

400m何時から?

憧埜

14時から

結構時間あるな

憧埜

それな暇

憧埜

寒いしアップ行ってくる

憧埜

ちゃんと応援しとけよ?

わかってるって

他愛ない

だからこそ儚い

それでいい気がした

1つ気がかりだったのは

憧埜の後ろ姿に

孤独の匂いをほんの少しだけ 感じたことだった

いつかのさよならを君に。

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