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激しい動悸と冷汗で眠ることが 出来そうにない
いつになっても忘れることの出来ない記憶が頭を駆け巡る
恵
努力は必ず報われるという訳では無い
そう知ってからずっと
自分の努力にはあまり期待できなくなってしまった
でも負けたくはない
不安と葛藤がせめぎ合う中
夜に身を任せるように
明日を待っていた
第3話 青と追憶
涼しい風が吹く快晴の下
11月が肌を滑っていく
澄
澄
皆
紘時
恵
恵
紘時
紘時
澄
紘時
澄
春紀
紘時
澄
憧埜
澄
憧埜
澄
澄
憧埜
いくつもの足が
同じ方向へ踏み出した
晴天の下の戦場は
戦士の熱意で満ち満ちていた
それでも空は青く光っている
男子100m
この種目で今大会が幕を開ける
憧埜
恵は笑顔で手を振る
紘時
憧埜
スタート位置へ着く合図が響いた
緊張感が張りつめる
深呼吸をしてからスタート位置に着く
恵
静けさが肌を削ぐ
痛いほどに
強く打つ鼓動が耳に届いている
パンッ
日々の努力を乗せた1歩目は地面を強く踏みきった
澄
紘時
風を切って強く前へ
地面を抉る程強く踏んでいく
仲間の声援が鮮明に聞こえてくる
煩いほど高鳴る鼓動
全身に行き渡る活力と脈
その姿は空の下で輝き続ける
そして最後の1歩を踏みしめた
途端に歓声が湧き上がった
10.78
恵
何度目を凝らして見てもそこに示される数字は同じだった
紘時
憧埜
憧埜は親指を立てて笑っている
憧埜
恵
涙と笑顔を浮かべながらピースサインを 高く掲げた
紘時
憧埜
憧埜
紘時
紘時
憧埜
紘時
憧埜
憧埜
憧埜は少し口を噤んで何も 言わないでいた
今はあの日の暗さが嘘のように空が 輝いて見える
きっと今の自分は
孤独じゃないから
そう教えてくれた人がいたから
そして蘇るのは
あの日の記憶だった
あの日の景色だった
父
恵
人生最後の全中
毎日
毎日
休む時間も削り
友達との時間も削り
この日に全てを捧げてきた
がむしゃらに走って
走って
走って
死にものぐるいで前に進む
恵
自分への期待
周りからの期待に押し潰されそうだ
少し目眩を感じた
それでも立ち上がる
決勝
自分のレーンへ足を進めた
そこで見えた景色は未来への希望 のようで
高揚感が鼓動に変換される
生を強く刻んでいる
恵
歓声が耳の奥を差す
そして競技場は静まり返った
15秒ほどの静寂の後
発砲音が鳴り響く
観客
0.01秒先へ0.01m前へ
強く地面を蹴っていく
あと20m
1つの後ろ姿が視界に入った
その姿を見た瞬間
悟ってしまった
努力と才能の果てしない差を
自分の無力さを
いつの間にか100m地点を通過していた
結果は2位
一般的には素晴らしいことなの かもしれない
でも自分にとっては何の価値もない
ただの数字のようだった
自己ベストは更新
それでも足りない
自ら削り取った時間も友情も
縛られたままの自由も
これじゃ埋められない
頭が真っ白になった
恵
境 稜佑
境 稜佑
稜佑は手を差し出した
恵
手を伸ばした瞬間
視界が突然暗転した
バタッ
境 稜佑
境 稜佑
自分の名前を呼ぶ声が
次第に遠のいていく
何も聞こえなくなっていく
目を開くと救護室の天井が目に映った
境 稜佑
境 稜佑
父
母
ゆっくりと体を起こした瞬間
あの景色が目を覚ました
恵
境 稜佑
恵
恵
境 稜佑
病室には俺一人だけ
まだ孤独な方がマシだった
稜佑は中1から陸上を始めた
その前もスポーツはやっていなかった
なのに
僅か2年で10秒台
俺が必死に6年間食らいついて たどり着いた領域
それなのに
最後の最後で打ち負かされた
恵
俺の不断の努力は
きっと意味を成さなかったんだろう
まだ足りなかったんだ
才能を超越する努力が
俺には足りなかった
まだやらないと
まだ
まだ
恵
前へ踏み出そうとしているのに
体が言うことを聞かない
涙が止まらない
悔しさと悲しさが心をかき乱す
そんな時に病室の扉が開いた
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
憧埜
恵
少しの間沈黙が続いた
憧埜
恵
恵
恵
恵
憧埜
憧埜
恵
恵
恵
憧埜
憧埜は少し怒った口調で言う
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜の言葉は少し怒っているようで
でも温かかった
恵
それでも気持ちが追いつかない
恵
恵
恵
憧埜
憧埜の顔は虚ろになってしまう
恵
恵
恵
恵
憧埜
涙で視界が開かない
恵
憧埜
無言で憧埜は病室を去っていった
そして本当に独りになってしまった
大会が終わってもう一週間
ずっと走り続けた
体調は未だに優れない
走らなければ不安は消えない
でもそんなことはどうでもよくて
生きた心地がしない
負けたくない
ライバルにも
自分にも
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
憧埜
恵
憧埜
憧埜
憧埜
恵
憧埜
憧埜
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜が紡ぎ出した言葉は
何よりも真っ直ぐだった
孤独が消える音がする
憧埜
恵
涙を堪えられない俺は
やっぱり強くなくて
強くある必要もないんだろう
もうひとりじゃないんだから
ゆっくりでもいいから
前に進んでいけばいい
憧埜
恵
憧埜
憧埜は楽しそうに笑っている
その横で俺は泣いている
暮れた夕日に向かって2人は歩き出した
憧埜
恵
恵
憧埜
恵
憧埜
憧埜
憧埜
恵
他愛ない
だからこそ儚い
それでいい気がした
1つ気がかりだったのは
憧埜の後ろ姿に
孤独の匂いをほんの少しだけ 感じたことだった