コツ コツ コツ …
レン
人間が好きだ。
美味しそうだからだとか、 滑稽だからだとか、 そういう悪魔らしい理由ではなくて。
ただ本当に、 心から愛おしく思っている。
母親
幼体期のレン
幼体期のレン
母親
幼体期のレン
幼体期のレン
母親
幼体期のレン
きっかけは、幼い頃母さんがよく俺たちに聞かせてくれた昔話だった。
昔話というよりかは、過去の暖かい思い出を恋しく思った母が、振り返りと気の紛らわしを兼ねて語るエッセイだな。
母さんが笑い交じりに語る人間は、凄く暖かくて、優しくて。
故郷の魔界では決して見られない、感じられない世界に、強く惹かれた。
当時、何に対しても興味の薄かった俺が唯一強く関心を持ったものらしく、 最初は母親が話し始めていたのに、段々と俺の方からねだり始めたくらいに興味を示していたんだとか。
母の話や本から人間を知っていく度に、俺は『人間と友達になりたい』という思いが強まっていった。
そしてまぁ、幼い頃の夢を今までずっと大切に抱えた結果。 悪魔の俺、レンは、現在人間界を拠点とし暮らしている。という経緯だ。
人間界での暮らしはとても良いもので、どこを歩いていても殺し合いや食い殺しはなく、平穏無事な日々を送っている。
幼い頃から大好きだった人間界で、大好きな人間と暮らせている俺は幸せ者だ。
レン
レン
角真
角真さんは俺と同じブースで働く研究員。 どうやら、研究所の休憩スペースに着いたばかりのようだ。
手元には通勤用のバッグを持って…
レン
角真
レン
角真
レン
角真さんが、手に取った紙コップをドリンクバーの機械に置き、「コーヒー HOT」のボタンを押すと、機械が注ぎ込んでいる間に資料を見る。
不安になりながらも顔を見ると、眼鏡で見えにくいが、目の下にかなり隈が出来ていた。
角真
レン
角真
レン
角真
角真
角真
角真
レン
角真
レン
角真
レン
レン
レン
角真
角真
角真
レン
角真
角真
角真
角真
角真
そう怒鳴ると、角真さんは手元のコーヒーが入ったばかりの紙コップをこちらに投げた。
レン
直撃を避けようと横を向いたものの、右側の顔を中心に熱々のコーヒーが顔にかかった。
その瞬間、右の視界が失われる。
角真
角真さんは、はっとしたような顔をしてその場を去った。
見えにくいが、床がコーヒーまみれだ。
レン
とりあえず、トイレに行って。処置しないと。火傷の。治そう。
じゃないと、床の掃除が出来ない。
バタンッ
ドアを優しく閉めることもままならず、トイレの洗面台に左手をつく。
右腕が想像を絶する程に痛い。 声を出さずにはいられず、痛みに喘ぐ声がどうしても漏れてしまう。
レン
とにかく、えっと。どうすればいいんだっけ。 やばい、あんま頭回んねぇ。
ひとまず、白衣とシャツを脱いで。そしたら、冷やすんだったか?
ベリッ
レン
バカ。やばい、これ服脱いじゃダメなやつだ。
布が肌に張り付いてる。 無理に脱いだら皮膚全部破れるやつ。
レン
レン
ふと正面の鏡を見ると、そこには
右側の顔がほとんど黒く変色し、原型が見えないほどに皮膚が爛れている自分の姿があった。
レン
なんだよ、これ。
淹れたてのコーヒーかかっただけでこんなんなんの?
こんなになっても、なんで全然痛まな…
…そういえば、火傷には段階があって、 一番酷いⅢ度は皮膚組織まで熱傷してるから痛みを感じにくいんだっけか。
いや今そんなことはどうだっていい。とりあえず冷やさないと。
能力で治せるけど、今の状態だと、治す段階で無理やり服が剥がされるか体に布や髪が入ってしまう。
前者は死ぬほど痛いだろうし、後者は傷の治りが遅くなる。
普通に痛いのは嫌だから、まずは布の上から冷やそう…。
レン
ジャー……
レン
…角真さんは、
角真さんは、相当ストレスが溜まっていたんだと思う。
あの人は真面目で責任感が強い。 そして、最近プロジェクトチームのリーダーを任されていた。
そんな大変な時期に、髪も目も耳も派手な男が絡んできてミスをしていたら…そりゃコーヒーもぶつけたくなる。
……本当に、申し訳ないことをした。
レン
レン
レン
レン
顔の上にかかったガーゼを外し、前髪をかきあげ、改めて自分の顔を見る。
…やはり酷い有様だ。
あの時、周りに人が居なくて本当に良かった。
もし今が、定時から6時間ほど過ぎていなかったら、角間さんが批判されていたかもしれない。
また、俺の他にも火傷をしていた人がいたかもしれない。
レン
俺は別に、自分がどうなろうとどうだっていいんだ。
俺が火傷しようが、四肢が欠損しようが、職場に利用されてようが、
それが誰かの利益に繋がるならそれで良い。
この通り、傷は治せるし、感情を上書き出来るから苦しさを表に出さないことも出来る。
もちろん、治さないことも出来るし、感情を表に出しているように見せることも可能だ。
誰かがそれを望むなら、俺は喜んでそれに従う。
俺は人間が大好きだから。
それに、どれだけ痛かろうが、どれだけ辛かろうが、これは俺が選んだ道だ。
人間を好きになったのも、 意思があるもの全てを好きになったのも、 人間界に住もうと決めたのも、
全て俺が選んだことだ。
だから、境遇に抵抗することや、誰かと分け合うことは違うと思う。
どんな境遇に逢おうと、受け止める以外選択肢は無い。
俺は人間がこうであることを知った上でここに来て、ここに留まることを選んだのだから、今更取り消すなんてしない。
これは俺だけの運命だ。 そして俺だけの罰だ。
背負うのも戦うのも、俺だけでいい。
パンっ!
レン
能力で治した両頬を叩いて喝を入れる。
水を受け止める大きな容器と床に浸された水を能力で回収し、能力で創造した服に着替え、 駆け足気味で廊下に出た。
火傷や後片付けを通して思うが、この時ばかりは本当に能力が使える悪魔で良かったと思う。
ロッカーから掃除用具を取り出し、休憩スペースへと向かう。
喝を入れたお陰か、なんだか清々しい気分だ。
もしかしたら、単純にさっきまで水浸しになってたから清々しいのかもしれないが、雰囲気的にお門違いだからそんなことはないと思う。
俺は幸せだ。
幼い頃に夢見ていた場所で暮らせて、幼い頃から大好きな人間と共に平穏な生活を送れて。
理解のある家族がいて、仲良くしてくれる友人がいて、悪魔であることを知った上で働かせてくれる職場で働けて。
これほど幸せなことはない。 これ以上何を望むというのか。
だから、これから先どんな目に遭うとしても、 この世界で俺は生き続けたい。
俺は今日も、人間界で生きていく。
レン
レン
レン
コメント
10件
誰かにおめでとうー!! って言われるんじゃなくて自分で言って祝ってるとこに孤独を感じた あるぇえええ?前見たエレントきゅんの誕生日はとてつもなく平和で幸せだったのになぁ!?!?(歓喜) 角間さんビジュ好きだし、中身も好きそうな雰囲気してる 謝罪しなかった罰にコーヒーに世界一辛いなにか入れてあげる
人間だったら人によって自〇に走るかもしれないのに。すごいな、人外って おめでとう!…ん?11月?
君達ってさ、もしかして誕生日の子を酷い目に合わせるのが好きなの??? おめでとうレン。痛みの表現がエグすぎて見てるこっちまで火傷しちゃった。あっち!あっち! 大変とはいえ熱々のコーヒーかけるのはよくないよ角間さん ストレス溜まってたとはいえ謝罪もしないのはよくないよ角間さん 疲れてたからって人(?)に「低学歴が」なんてよくないよ角間さん