午前2時
晴翔
はぁはぁ
晴翔
間に合ったか
美月
ふわぁ
晴翔
……
晴翔
で、出た!
晴翔
お化けだ
美月
毎年、毎年会いに来といてうるさいなぁ
晴翔
うるさいって何だよ
晴翔
君が全然成仏しないから悪いんだろ
晴翔
それに君にわざわざ会いになんか来るかよ
美月
まったく
美月
酷い言い様だね
美月
それに成仏してない訳じゃなくて
美月
盆と命日のこの日だけこっちに来てるだけですぅ
美月
十分成仏してますぅ
晴翔
いいから早く完全に成仏しろよな
晴翔
毎年、俺は、東京からわざわざ星を見にこっちへ帰ってきている。
晴翔
天体望遠鏡だって担いでいるだろ
晴翔
それなのに君が出てきたら
晴翔
星を見るどころの騒ぎじゃなくなるんだよ
美月
へーえ
晴翔
何だよ
美月
前から言おうと思ってたんだけどさ
晴翔
だから何だよ
美月
君のそれで果たして星が見えるのかなぁ
晴翔
どういう意味だよ
美月
いやぁ私達が会える2時から2時半までの間
美月
君は結局、星を見ることなく私とおしゃべりするだけだよね
晴翔
仕方なくね
晴翔
君も暇だろうと思ってね
美月
その後、ちゃんと天体観測してるの?
晴翔
当たり前だろ
晴翔
それがメインだからね
美月
ふーん。
美月
じゃあさその天体望遠鏡のレンズ見てご覧よ
晴翔
全く君は何が言いたいんだよ
晴翔
……
美月
ふふっ気づいた?
美月
でしょう。
美月
埃がびっしり詰まって何も映らないはずなんだよ
晴翔
そ、それは
晴翔
今回たまたまガレージに置きっぱなしにしといて
美月
ふふっ
美月
そうなんだ
美月
因みに、私はこうして現世にいる時の記憶しかないの
美月
だから、こっちに降りてきている時の記憶ってかなり鮮明なの
晴翔
……
美月
君にとっては365日でも
美月
私にとっては
美月
たったの2日
美月
だから目立つ埃の位置も覚えちゃった
晴翔
……
美月
ありがとう、春翔
晴翔
うるさいよ……
晴翔
勝手に分かった気になるなよ
晴翔
君はそうやっていつも……
美月
ねぇ、星でも見ない?
美月
せっかく綺麗なんだから
晴翔
この汚れたレンズで?
美月
うん。その汚れたレンズで
美月
うひゃー、何にも見えなーい
美月
こりゃレンズを通り越して頭から見たほうが星が綺麗だ
晴翔
君はいつでもそうやって何でも楽しむな
美月
当たり前じゃん、何でも楽しんだもん勝ちだよ人生。
美月
って、あーずるい
美月
コーヒー一人だけ飲むなんて
晴翔
ふん、生者の特権だ
晴翔
悔しかったら
さっさと生まれ変わりでも何でもしろよな
さっさと生まれ変わりでも何でもしろよな
美月
わー、イジワルだ
晴翔
お互い様だろ
美月
星、綺麗だね
晴翔
……
晴翔
あぁ
美月
とってもきれい
晴翔
あぁ、
しばらく星を眺める二人
美月
ねぇ
晴翔
何?
美月
望遠鏡
晴翔
ああ?
美月
捨てなよ
晴翔
何でだよ。
美月
使ってもいないのに未練がましいよ
晴翔
……分かってる
美月
ならいいんだけど
晴翔
……
晴翔
……
美月
君は駄目だなぁ
美月
男の子がそんな風に泣いちゃ駄目だよ
晴翔
うるさいな
晴翔
……
晴翔
会えなくなるのか?
美月
うん
美月
今日で最期
晴翔
……
晴翔
そっか
晴翔
あーあそれじゃあ俺がここに来る理由もなくなるなぁ
美月
天体観測しに来てたのに?
彼女は穏やかに愉快そうに笑う
晴翔
あぁ
晴翔
星は見飽きた
美月
ばーか
晴翔
うるせぇ
晴翔
この際だから言わせてもらうけどね
晴翔
俺は、君のことなんか
晴翔
大嫌いだったんだ
晴翔
そう、嫌いだ、
大嫌いだった
大嫌いだった
美月
何、鼻水垂らしながら震えてるんだよ
晴翔
せいせいするなって
晴翔
やっとうざい幽霊が俺の人生から退場してくれる。
こんな嬉しいことはない
こんな嬉しいことはない
美月
ばーか
君も鼻水を垂らしながら笑う
美月
もっと早く気持ちを伝えてくれていたら良かったのに
美月
私も大嫌いだった
美月
君に付き纏って人生を邪魔したいくらい大嫌いだった
晴翔
俺もだよ
晴翔
大嫌いだ美月
彼女の体を美しい光が包む
美月
私もよ
美月
愛してる春翔
彼女は消えた 抱きしめる間すら神様はくれなかった
晴翔
やっぱり君はずるいよ
晴翔
俺だって君を……
田舎の空はさんさんと輝き一人になった俺だけを寂しく照らした