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四月の風が、まだ少し冷たい
川口風夏は、新しい教室のいちばん後ろの席で、
ぎゅっとマスクの端を指で押さえていた
──また、始まるんだ
新しいクラス、新しい人たち
でも、変わる気はしない
どうせ、またうまく話せないから
???
???
後ろの席でくすくす笑う声
聞こえないふりをしても、胸の奥がきゅっと痛む
窓の外、桜の花びらが一枚、風に乗って舞い込んできた
教科書の上に落ちたそれを、風夏は指先でそっとつまむ
でも、それを見ていた子が、また笑った
???
その瞬間──
実央
声がした
振り向くと、隣の席の女の子がこちらを見ていた
黒髪のボブカット
ぱっちりとした瞳が、まっすぐに風夏を見つめている
風夏
実央
彼女はふっと微笑んだ
実央
風夏
実央
その言い方が、あまりにも自然で
風夏の中で、何かが少し動いた気がした
実央は、ノートを開きながら言う
実央
風夏
実央
風夏の指先が、机の上で震えた
ほんの少し、マスクの奥で息が漏れる
風夏
その日、川口風夏は初めて“友達”という言葉の意味を知った
教室の外には、春の風
それはまだ冷たかったけど、確かに“あたたかさ”を運んでいた