テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3月16日、金曜日
桜がポツポツと咲き始めている中
はなもり幼稚園には、いつもと違う静けさが漂っていた
つい昨日まで園庭や教室を元気に駆け回っていた年長組はもう登園しない
凜叶、凜音、四葉、姫恋、乱兎の5人は、この日から小学校の準備期間に入るのだ
元気に大きな声を響かせていた凜叶も
凜叶の後ろで静かに支えていた凜音も
優しく絵を描いていた四葉も
姫恋の控えめな笑い声も
乱兎のぼそりとした一言も──
もうここでは聞けないのだと思うと、教室は広く感じられた
椅子の数も変わらないのに、遊具の並びもそのままなのに
──何かがすっぽり抜け落ちてしまったような空気
その違和感に気づいた祐希が、ぽつりと口にした
四宮 祐希
清本 來
四宮 祐希
松澤 絋
松澤 絋
鏡狂 花
しんとした教室に響いた会話
それはみんなの胸に、同じ寂しさを広げていく
将風は、しばらく黙っていたが、窓の外を見ながらゆっくり言葉を紡ぐ
古寺 将風
松澤 絋
古寺 将風
古寺 将風
四宮 祐希
四宮 祐希
清本 來
清本 來
清本 來
清本 來
鏡狂 花
四宮 祐希
松澤 絋
子供達の声は少しずつ明るさを取り戻していくが、どこか心細さも混じっていた
そんな様子を見ていたすうあが、優しく手を叩いて子供達の視線を集めた
吹雨希 すうあ
吹雨希 すうあ
子供達は目をぱちくりとさせ、すうあの言葉を待つ
吹雨希 すうあ
その瞬間、花がぱっと顔を輝かせ、勢いよく手を挙げた
鏡狂 花
鏡狂 花
隣にいた來も、満面の笑みで大きく頷く
清本 來
清本 來
清本 來
四宮 祐希
四宮 祐希
松澤 絋
将風も、少し考えるように目を伏せた後、小さく頷いた
古寺 将風
子どもたちの声が次々と重なり、教室の空気がぱっと明るさを取り戻していく
吹雨希 すうあ
こうして、年長組を驚かせるための「お別れ会」の準備が始まったのだった
Ep.38 お別れ会でありがとうを伝えよう
その日から、子どもたちは「お別れ会」に向けて少しずつ準備を始める
最初に取りかかったのは──お手紙作り
すうあが机に色とりどりの便箋と色鉛筆を並べると、子どもたちはわくわくした顔で椅子に座った
吹雨希 すうあ
吹雨希 すうあ
子供達は少しだけ考えたあと、顔を上げる
鏡狂 花
松澤 絋
清本 來
四宮 祐希
古寺 将風
吹雨希 すうあ
吹雨希 すうあ
清本 來
四宮 祐希
それぞれ相手を決めると、真剣な顔つきで鉛筆を握った
まだたどたどしい字ながらも、「だいすき」や「ありがとう」の文字を書き連ねていく
色鉛筆を使って、手紙の端に花や星、ハートを描き添える子もいた
鏡狂 花
鏡狂 花
清本 來
松澤 絋
吹雨希 すうあ
すると祐希は大きな声で宣言する
四宮 祐希
しかし書こうとして手が止まり、首をかしげた
四宮 祐希
すると、隣に座っていた來がにこにこと覗き込む
清本 來
來は“友だち”と紙に書き、祐希に自慢げに教える
四宮 祐希
四宮 祐希
清本 來
清本 來
四宮 祐希
祐希は得意げに大きな字で教えてもらった字を書き込む
「見て見てー!」と声を弾ませる子どもたちの手元には、それぞれの気持ちが込められた、世界に一枚だけのお手紙が少しずつ出来上がっていく
古寺 将風
古寺 将風
古寺 将風
『おゆうぎかいをいっしょにやったとき、たのしかったね。しょうがっこうがんばってね。』
お手紙づくりが一段落すると、すうあは次の材料を机に並べた
色鮮やかな折り紙の束だ
吹雨希 すうあ
吹雨希 すうあ
カラフルな紙を見た途端、子どもたちの瞳がきらきらと輝く
鏡狂 花
嬉しそうにピンクの紙を選び、真剣に折りはじめる
清本 來
來はしばらく考え込んだあと、紫の紙をぐしゃぐしゃと折り曲げて、にやっと笑う
清本 來
四宮 祐希
清本 來
その場がどっと笑いに包まれる
祐希は得意げに青い紙を手に取り、首をかしげながら折り続ける
四宮 祐希
出来上がったのは細長い、いびつな折り紙
将風が隣からじっと見つめ、ぽつりと一言
古寺 将風
四宮 祐希
松澤 絋
四宮 祐希
そのやり取りにまた子どもたちが笑い出す
絋はオレンジ色の紙を折りながら、胸を張って言った
松澤 絋
鏡狂 花
花に聞かれると、絋は作ったものを開いて頭に乗せる
松澤 絋
松澤 絋
清本 來
子どもたちは顔を見合わせて大笑い
すうあはそんな様子を微笑ましく見守りながら、優しく声をかける
吹雨希 すうあ
吹雨希 すうあ
教室の机の上には、きれいな鶴や花、そしてよくわからない形の折り紙たちが少しずつ並んでいった
それはどれも、子どもたちの「ありがとう」の気持ちが形になった宝物だった
折り紙が机の上に並んでいくと、次は教室の飾り付けが始まった
色紙で作った長い輪っかの鎖を手に、子どもたちは壁や棚のあちこちに飾りつけていく
鏡狂 花
花が椅子の上にちょこんと立ち、壁に輪っかをぺたりと貼り付ける
松澤 絋
背伸びをしながら、色とりどりの鎖を壁にペタペタ
紙が少し斜めになっても気にせず、得意げに胸を張った
來は窓のほうで、桜の花びらの形に切った色紙を貼りつけていた。
清本 來
清本 來
窓から差し込む光に透けた花びらが、春の訪れを予感させる
祐希は大きな声で名乗りを上げるように言った
四宮 祐希
四宮 祐希
そう言って脚立のそばへ駆け寄るが──
吹雨希 すうあ
にこやかに腕を広げて制され、祐希はしょんぼり肩を落とした
四宮 祐希
古寺 将風
鏡狂 花
鏡狂 花
将風や花に注意されるとぷくっと頬を膨らませる
四宮 祐希
脚立には危なくて登れないとしても、子供達は手の届く範囲で一生懸命飾りをつけていく
壁も窓も少しずつ華やかになり、気づけば教室全体が春色に染まっていた
──そして迎えた前日
壁いっぱいに輪っかの鎖が揺れ、窓には桜の花びらが舞うように散りばめられた教室は、すっかり華やかな雰囲気に包まれていた
祐希はその光景を見回し、胸をぐっと張って声を上げる
四宮 祐希
四宮 祐希
清本 來
來も笑顔で両手を広げてくるりと回る
その横で、将風は少しだけうつむきながら小さな声を漏らした
古寺 将風
心配そうなその呟きに、花はぱっと顔を上げて大きな声で返す
鏡狂 花
鏡狂 花
両手をぎゅっと握りしめるその姿に、将風の表情もわずかに和らいだ
すうあはそんな子どもたちのやりとりを見守りながら、静かに微笑んで言葉をかける
吹雨希 すうあ
その声に、子どもたちは一斉に顔を上げて頷いた
鏡狂 花
清本 來
松澤 絋
四宮 祐希
古寺 将風
元気な返事が教室に響き渡り、その胸には期待と緊張が入り混じった高鳴りが宿っていた
こうして子どもたちは、心を弾ませながら帰路につく
──いよいよ明日はお別れ会
年中組が一生懸命準備したサプライズが、年長組に届けられる日である
コメント
3件