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【選択肢で結末が変わる】ホラー短編集

第21話 - 「イカレッテル　Cルート③」

2021年08月28日

#ホラー

#ミステリー

#短編

#短編集

#一次創作

#ノベル

さつまいも

誰かが供物に……。

俺たちはお互いの顔を見合った。

すっかり強張っていた。

代わりに死んでくれる人を。

必死に探していた。

秋斗

……。

一弥

……。

雅也

……。

アアアアアアアアアアアア　

ドスドスドスドス！！

しかし、悩んでいる時間はない。

俺はターゲットを決めた。

秋斗

……俺に、してください。

雅也

あ、秋斗……？

一弥

てめぇ、か。

そう、俺は死ぬことを覚悟した。

死にたくない気持ちは今もあるが。

しかし。

秋斗

……供物の話を考えたのは、俺です。

秋斗

それに、俺は二人に何もしてあげられなかったですから。

秋斗

今まで、後輩として先輩達に助けられたこともよくありましたが。

秋斗

……俺は、何もしてこなかった。

秋斗

だから、俺が代わりに死にます。

秋斗

後輩の顔を、最期に立たせて下さい。

一弥

……ちっ。

雅也

……そうかい。

雅也

……じゃあ、君が死ぬんだね！！

そういうと、雅也先輩は俺を強く押さえつけた。

その様子は、喜びに満ちていた。

秋斗

……雅也、先輩？

雅也

あっはは！！

雅也

いやぁ本当、どうしようかと思っていたんだよ。

雅也

僕が指名されて、僕が死ぬのかとヒヤヒヤしていた。

雅也

でも、君みたいなお人好しがいてくれて助かった！！

一弥

…おい、どうしたんだ？

一弥

お前、おかしいぞ。

雅也

死にたくないだろう！？

心外だ、と言わんばかりに絶叫した。

雅也

おかしいのは、君たちだ！！

雅也

こんな状況で、感動物語を演じてどうするんだい？

雅也

それより、代わりに死んでくれるおかげで、自分が助かったという事実が嬉しくてたまらない！！

雅也

それが、僕の本音でもあり、一弥の本音だろう！？

一弥

てめぇ。いい加減に……。

秋斗

いえ、良いんです。

一弥

あ、秋斗……。

秋斗

それが、普通なのかもしれません。

秋斗

むしろ、俺の命で先輩達が助かるならそれで良いんです。

雅也

そうかい！！

雅也

じゃあ、頼むから大人しく食われていてくれよ？

アアアアアアアアア

ドスドスドスドス

化け物は目の前にいる。

嬉々とした表情に恐怖を覚える。

死ぬのは、やはり怖い。

秋斗

ぐっ……。

雅也

あっはは！！

雅也

ほら、秋斗、お前が死んで僕たちの身代わりになってくれ！！

雅也

この化け物に骨すら残らないほど食い散らかされてね！！

秋斗

……。

ドンッ

秋斗

え？

一弥

……お前が死ぬんだよ、キチガイ。

雅也

か、かずやぁぁぁぁぁぁぁ！！

そこには、化け物の前で転がっている雅也先輩がいた。

何が起きたのかわからず、振り返る。

すると、一弥先輩は即座に俺の手を引いて駆け出した。

一弥

早く逃げるぞ！！

秋斗

え……でも。

雅也

ぎゃあああああああああ！！

一弥

……あいつのことは放っておけ。

淡々とそう言って、廊下の奥へ向かう。

そこには、格子のない窓があった。

一弥

ここから出られるな。

一弥

行くぞ。

秋斗

は、はい……。

この一瞬で、何故か俺は助かった。

罪悪感めいたものはあったが、一弥先輩に言われるままに外へと脱出した。

そして、俺は意識を失った。

……

俺は目を開けた。

……外？

俺は、一体……。

一弥

気が付いたか？

一弥、先輩。

一弥

……はぁ。

秋斗

一弥先輩、ここはどこですか？

秋斗

俺、何をしにきたのかも分からなくて。

一弥

ほう……。

秋斗

記憶が、ないんです。

一弥

それよりな。

一弥

なぁ、周りに"イかれた"やつを見分ける方法って何かわかるか？

秋斗

……え？

一弥

俺はなぁ、そこの心霊スポットてして有名な精神病院に、前に来たことがあるんだよ。

秋斗

あ、これはたしかに病院です。

秋斗

それに、鉄格子もあるから……。

秋斗

って、何で一弥先輩知ってるんですか？

秋斗

記憶があるんですか？

一弥

お前らとは別の奴らとだ。

秋斗

……話、聞いてます？

一弥

俺のをまず聞けよ。

秋斗

は、はい……。

一弥

それでな、そいつらと、この病院に行ったとき、やっぱり懐中電灯の電池が切れて知らないやつとぶつかっただの、まぁ盛り上がったんだ。

一弥

……その直後、ヤツは現れた。

秋斗

ヤツ？

一弥

あぁ。それはもう恐ろしいぜ。化け物だよ。

一弥

最初は目を疑った。心霊スポットなんてただのお遊びでしかない。初めから幽霊がどうのなんて期待してねぇ。

一弥

しかし、いたんだよ。

秋斗

はぁ……。

一弥

俺たちはパニックになった。あいつらは時間稼ぎとして、俺に殴る蹴るの暴行を加えて放っていきやがったんだ。

一弥

怖かったなぁ。化け物より、な。

秋斗

……。

一弥

そして何とか、近くの部屋に逃げ込んだんだ。

一弥

息を潜めてると、これまたビックリだ。暗闇のなか、いるはずのなかった人間の正体が出てきやがった。

一弥

そいつは、俺に記憶を見せてきやがったんだ。化け物が出てる以上、今更そんな超能力にビビらねぇけどな。

一弥

そこで分かったのは、どうやらそいつの名前は久(ひさし)ってやつで、人生をあの化け物にめちゃくちゃにされちまったみたいだった。

一弥

………いや。めちゃくちゃにしたのは、周りの人間だったんだな。

秋斗

……先輩、よくわかりませんけど、それでどうしたんですか？

一弥

あぁ。それで気付けば周りの奴らも今と同じように外で伸びてて、俺も気を失ってたみたいだった。

一弥

ただ違うのは、"記憶の有無だった"。

秋斗

……。

一弥

そう、そのあと何度も試したから分かったよ。あの久ってやつと関わると、毎度よろしく記憶を見せられて、気付けば外にいて、俺の記憶はある。しかし、周りの奴らは記憶がない。

一弥

それに、久ってやつと関わってから気を失うとな、その前に死んだはずのやつも、なぜか生きてんだよ。

一弥

久との接触で未来が変わっちまうんだ。

一体、何を言っているんだ？

一弥

逆に、久と接触もせずに逃げ出せば、"その前に死んだやつ"は二度とこの世に帰れねぇ。

一弥

"存在自体が無かったことになるんだ"

秋斗

……なんですか、それ。

一弥

それに、久と接触なしに脱出をすれば否応なしに全員のここに来るまでの記憶はなくなる。

一弥

だから、俺も記憶がないといえばない。

秋斗

じゃあ、なんで記憶が……？

一弥

それは、"俺がお前らをここに誘おうと、ずっと前から決めていた"からだ。

秋斗

決めていた……？

一弥

そうだ。

一弥

……今の話を聞いて、どう思う？

秋斗

え？

一弥

俺はよぉ、化け物なんかより周りの人間の方が怖くなったんだ。いつ簡単に裏切られるかもわからねぇ。それで一度、殺されかけたのも事実だしよ。

一弥

あいつは、俺のことをどう思ってんだ？
あいつは、俺のことをどうするつもりなんだ？

一弥

実際に殺されかけて、久の記憶を見てから俺は常に考え続けた。そして、思い至った。

一弥

それが唯一わかる方法。つまり、イかれた奴を唯一あぶり出す方法が、ここって気付いちまったんだ。

一弥

この超能力を利用すれば、本当に信頼できる人間を選別できるってな。

この男は、何を言っているんだ。

本当に、何を？

一弥

分かるか？この気持ちが。

一弥

「イカレテル」とレッテルを貼って周りを見ると、誰も信頼できなくて全員殺したくなったんだよ。

一弥

……だから、危機的状況を都合よく創り出せるこの状況で、お前らの本性をテストさせてもらった。

一弥

テストで落第したヤツは……。

秋斗

やつは？

一弥

………………なんてな。

秋斗

え？

一弥

はっはっは。秋斗、お前いまの話本気で信じてたのか？

秋斗

な、何言ってるんですか。

秋斗

信じるわけないでしょう？

一弥

お前はいつもそうだな。

一弥

俺のからかったことに対して、純粋な反応をする。

一弥

あぁ、本当に面白ぇやつだ。

秋斗

また、一弥先輩のいつものやつですか。まったく、ほら、早くこんな気味の悪いところから降りますよ。

俺はそそくさと下山を開始した。

一弥

……合格したのは、お前が初めてだよ。

秋斗

何か言いましたか？

一弥

いいや。

一弥

"供物"に感謝しねぇとなあ。

俺はなぜかその言葉の響きに。

寒気がした。

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