一つしか歳が違わないのに
兄貴は
オレに持ってないモノを
たくさん持っていた
容姿端麗
頭脳明晰
そんでもって
次期社長
対してオレは
単なる次男坊
顔も成績も
至って普通
勉強や運動を頑張っても
”さすが、真彦さんの弟!”
”お兄さんのように出来るんだね”
”お兄さんに教えてもらったんだろ?”
”出来の良いお兄さんがいて羨ましいよ”
”お兄さんもこれぐらいできたんだから、君も出来て当然だろ?”
ああ
うるせぇ
どいつもこいつも
兄貴しか見ていない
オレがどんなに努力しても
その道はすでに兄貴が通った道で
オレはその後を歩いているだけ
そう思われるのが
嫌だった
……
兄貴の目に
オレなんか
一度だってまともに映っちゃいなかった
その他大勢の中の一人
血を分けた弟だからといって
特別扱いすることもければ
自慢の弟だと
誰かに紹介することもなかった
兄貴は
別にオレのことなんて
どうでもよかったんだ
オレは
どんなに努力しても
誰にもその存在を認めて貰えなかった
だから
それはちょっとした悪戯のつもりだった
兄貴の大事な息子がいなくなれば
大騒ぎになるだろう
完璧な兄貴が慌てふためく姿を見たいがために
オレは兄貴の息子を誘拐し監禁した
すぐ返すつもりだった
最初は
だが、想像した以上に
兄貴は慌てふためいた
あんな姿初めて見た
そして
初めて兄貴はオレを見た
”息子を知らないか”
”息子を探すのを手伝ってくれないか”
ああ
兄貴がオレを頼ってくれている
こんなしがない弟に
頭を下げている
それが嬉しくて
それが
堪らなく心地よくて
心の中でざまぁみろと
嘲笑った
弟の存在をないがしろにするから
こんな目に遭うんだと
ちゃんと周りを見ていないから
大切なモノを見失うんだと
兄貴に似て出来の良い甥っ子は
腹が立つ存在でしかなかった
声を殺して泣いている子供に暴力を振るうことに
多少なりとも罪悪感はあったが
ボロボロになった太郎を見て
オレは今悪いことをしているんだ
ずっと
良い子にしてないといけない
ずっと
兄貴の弟としてちゃんとしなきゃいけない
そう思っていた心の枷が外れた瞬間だった
ああ
今
オレは
悪いことをしている
オレは
悪いヤツなんだ
息子を心配している兄貴に
オレは平然と嘘を並べ
大丈夫だと励まし
家に帰れば
兄貴の息子に暴力を振るう
その背徳感に
オレは、はまってしまったのだ
・
・
兄貴を殺すつもりはなかった
……
なんて言えればよかった
それは両親に対する復讐だったのかもしれない
子を失えば親はうろたえ
勝手に自滅する
兄貴が良い例だった
なら
もし
完璧な兄貴を失ったら?
両親はどうなる?
兄貴の息子はいないし
残ったのは
平凡なオレ
きっと
両親はうろたえるだろう
ああ
そんな両親を見てみたい
勝手に自滅していく姿を見てみたい
そう思っていたタイミングで
悪魔だという男と出会った
オレは太郎を贄として捧げる契約をして
兄貴を殺してもらった
……
それなのに
あの悪魔は嘘を吐いただの
騙したなどと言って
オレもオレの妻も殺した
まぁ
あんなブスで何も出来ない女
死んでくれてよかったんだが
なんでオレも殺されなきゃいけないんだ
オレは一言も太郎が実子なんて言っていないのに
理不尽だ…
世の中はいつだって理不尽だ
こんな最期納得いくわけないだろう
みんなまとめて地獄に落としてやろうと思ったのに
兄貴の魂は見えないし
両親も意外としぶとく生きてやがるし
太郎は別の悪魔に保護されて
幸せそうにしてやがるし
何もかも
納得がいなかなかった
なんで
なんでオレだけこんな目に遭わなきゃいけないんだ
ならせめて
手に届くところにいる
太郎だけでも
地獄に引きずり込んでやろうと思った
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太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎
太郎は差し出された真っ白な手を掴む。
サタン
ぬぅっと暗闇の中から
サタンが現れ
真っ白な腕を掴んだ。
太郎
サタン
太郎
太郎
太郎
サタン
太郎
サタン
太郎
サタン
太郎
サタン
サタン
太郎
そして、
サタンはポケットからタナキエルから貰った
ガラス玉を取り出す。
サタン
サタン
サタン
サタンはガラス玉を握りつぶし、
溢れ出た光の粒子が
太郎の額へと吸い込まれていった。
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