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及川side (過去)
及川 徹
及川 徹
中1の練習試合の帰り道
俺は、1人電車に揺られて家へと帰っていた
外は夕方で、電車の中でもあり日差しがなくて肌寒かった
いや、例え日差しがなくても、まだ夏
寒いと感じるのは、普通はおかしい
原因は自分で分かっていた
実は朝から熱があったから
でも、朝測ってみたら37.5度と微熱だったからせっかくの練習試合を蹴りたくなかった
だから、誰にも言わずにこっそりと練習試合に参加した
そうしたら見事に悪化
自分でもバカなことしたなって思う
及川 徹
こう言う時に頼れる岩ちゃんは、親戚のお葬式があるとかで今日はいない
なんて言う最悪なタイミングで....
でも、結局は自己管理不足
自分の失態だから、誰かに頼るわけにはいかないし、中学生だからスマホも持ってない
俺に残された手段は、最寄り駅まで我慢するだけ
だが、状況は最悪に最悪が重なって満員電車
そして俺は座ることができなくて、立つことになってしまっている
正直言うと、立っているのもつらいくらいには悪化している
でも、こんな若々しい中学生に席どうぞって譲る人なんているわけない
まだ最寄り駅まで1時間程度あるのに、本当に最悪な事態だった
でも、どうすることもできない
だから、心を無にして俺は立つことに専念した
立っていること十分くらい
先程までなかった頭痛が加わり気分もダウン
不規則に揺れる電車が頭に響く
及川 徹
そう後悔しても、もう遅い
我慢我慢と、心で唱えていた時
?
自分が立っている前に座っていた小柄な女の子がそう聞いて来た
俺より全然小さいけど、顔が整っていて大人びた顔つきに年上か?と思った
可愛らしい高い声に、じっと俺を捉えて見つめてくる大きな瞳
自然なウェーブのかかった綺麗な長髪
透き通るような透明感あふれる肌
熱で正常に働かない頭でも、見惚れてしまうほどに彼女は綺麗だった
眉尻を少し下げて心配そうに見つめてくる表情が、なぜか心臓を煩くさせた
及川 徹
及川 徹
本当は大丈夫なんかじゃないけど、こんな小さな人を逆に立たせるのはちょっと気が引けた
?
及川 徹
?
?
そう言ってからニコッと優しい笑みを浮かべて来た
体調が悪いと涙腺がバカになるって言うのはこう言うことで、優しくされた反面涙がじわりと滲んだ
でも、そんなカッコ悪いところをなんだかこの人に見られたくなくて
溢れそうになるものをグッと堪えて深く頭を下げた
及川 徹
?
?
彼女はまた微笑んで、席を立ち、変わってくれた
席を変わった時に顔が近づいて、その時にふわっと髪からか服からかした良い香りが鼻をくすぐる
及川 徹
?
満面の笑み浮かべて、彼女は俺の前に立った
席に座ると、立っているよりもずっとマシで、すっと眠ってしまった
次に目覚めたのは、自分の最寄駅の2本前の駅で停車した時
体調は良いとは言えないが多少回復して、これなら家まで歩いて帰れそうだった
車内はほぼ人がいなくなっててガラガラだった
さっきの人はどこに行ったんだろ、と思って周りを見渡す
でも、そこに彼女の姿は見当たらなくて、きっとどこかの駅で降りてしまったんだと悟った
もう一回ちゃんとお礼を言いたかったのに
と言うのは半分口実であって、彼女と少しだけ普通に話してみたかった
なんでかなんてわからない、ただの気分かもしれない
それでも、彼女と話してみたかった
そう思いなが、しゅんと、視線を下げた時
自分のバックの上にピンク色の小さな付箋が置かれていたことに気がついた
及川 徹
そう思いつつ折りたたまれている付箋を開いた
そこにはこう書かれていた
さっき席を譲ってくれた彼女が書いて置いて行ってくれたこともすぐにわかった
女子らしい可愛い丸みを帯びた字
この手紙に何故か笑みがこぼれた
寝ないで、彼女とお話ししたかったな、なんて思ってしまった
もっと仲良くなりたかったなって
自分で自分の考えがどうかしてるな〜なんて思う
女の子はみんな可愛くて好きだけど、別に興味があるわけじゃない
ただ、寄って来るならまぁいいか、みたいに考えて接してたから
しかも、全くの赤の他人
同じ学校でもなく、友達でもなく、知り合いですらない人に
もっと、近づきたいだなんて
おかしな話だ
でも、思ってしまった
君と同じ学校に通えたら楽しそうだとか
もっとたくさんお話しして、彼女のことを知りたかったなとか
こんな考えどうかしてるけど、それでも思ったから
もっと彼女を知りたいって思ってしまったから
こんな気持ち初めてで、彼女に何か引き寄せられるような
胸がギュッとするような
でも、心地よい
この感情に、何か名前をつけるとしたら
きっとそれは
恋以外の何者でもなかった
俺はピンク色の付箋をじっと見つめながら口元が緩んだことを自覚した
これが恋なんだって
初めて知ったから
及川 徹
及川side (現在高校3年生・及川の部屋)
結局、あの電車の時以来彼女とは会えなかった
名前も学校も年齢も何もかもわからない
生きているかさえ、知らない
なんの手がかりもないのに、ずっと思い続けるのはやっぱりおかしいのだろうか
恋に落ちてから6年が経つ
何も動かない、この恋
でも、なんでかあきららめられないんだ
どんなに彼女を作っても、あの時の感覚、気持ちを再現できることなんてなくて
これが恋なんだって思えるものも一つもなかったから
だからきっと、俺はあの人がいいんだ
名前も知らない、年もわからない
そうだとしても、彼女が好きなんだ
鮮明に覚えてる、綺麗な容姿と、可愛らしい文字と、素敵な性格
何もかも、忘れられない
ほんの5分くらいで落とされた俺の恋心
人生で初めての感覚と感情
そして、一目惚れ
どうしても諦めたくない
諦めきれない
彼女ともう一度会えることを、俺は願い続けた
主
主
主
主
主
主
主
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