あの日の俺はまだ服作りを楽しんでいて、
布に触れてそれを服にするのが楽しくて仕方がなかった
At
今日はどんな服を作ろうかなー♪

暇な時間はいつも服のことを考えて、
時間さえあれば紙とペンを取り出して洋服のデザイン画を描く
休日は、一日中ミシンと布に向き合って自分のデザインを形にする
俺はそんな幸せな時間を過ごしていて、
親も俺の熱意や才能を知って夢を応援してくれていた
正直言って、俺はそれなりに発想力も才能もあるし、
機会さえあればいつでもデザイナーになることができただろう
才能や熱意だけじゃどうにもならないような、
それこそ物語のような都合のいい力がなければ抗えないような、
そんな不条理で理不尽なことが、この世には存在してしまうのだ
俺にとってそれは、、、上級市民という中途半端な身分だった
モブ男(身分高い)
おい、Atはいるか!?

親が大事に経営しているサロンの扉を乱暴に開けて俺を呼んだのは、
同じ学校に通っているどこかの貴族のドラ息子だった
身分の差で人への態度をコロコロと変えるのはもちろん、
気に入らない男に対してとにかく当たりが強くて乱暴
そのくせ目上の人にはヘコヘコするし金も権力もあるしで
俺も通っている学校で好き勝手暴れているそいつに、
昔から見目が良くて女子からモテてた俺は異様に敵視されていた
At
いますけど、、、どうかしました?

モブ男(身分高い)
お前、オレの彼女に手を出しただろ!!

At
……え、誰のことですか?

モブ男(身分高い)
お前まさかあの子のことがわからないっていうのか?

モブ男(身分高い)
しらばっくれるな!!

モブ男(身分高い)
お前の隣の席にいるだろ、すっごく可愛い女の子が!!

At
んー、そういえばいたかも、?

モブ男(身分高い)
あの子はオレと付き合う予定だったんだ!!

モブ男(身分高い)
それなのにオレが告白したら、
Atくんが好きだから無理だって断ったんだっ!!

At
(そんなふうに人の気持ちを
ベラベラ勝手に話すから引かれてただけだろ、)

At
それで、、、その子が俺のことが好きなのは
一旦置いておくとして、どうしてそれが
俺がその子に手を出したってことになるんですか?

モブ男(身分高い)
あの子はオレのことが好きだったんだっ!!

モブ男(身分高い)
それなのにオレからの告白を恋を理由に断るなんて、
お前があの子を口説いたからだとしか思えないっ!!

モブ男(身分高い)
一体お前はあの子に何をした!?

モブ男(身分高い)
まさか無理やり押し倒して、、、

At
(誰がそんな品のない行動をするかっ!!💢)

At
そんなことはしてませんけど、、、

At
あの子と話したこといえば、
その子の新しい髪型が可愛かったから褒めたとか、?

モブ男(身分高い)
絶対嘘だ、お前絶対あの子の純潔を散らしただろ!!

モブ男(身分高い)
許さないっ、許さない!!

At
(めんどくさ、、、)

呆れてそっぽを向いた俺の行動を申し訳ない故の行動だとでも曲解したのか、
彼は俺に向かってふふんと自信ありげに笑って告げた
モブ男(身分高い)
でもまあ、オレは寛容だからな

モブ男(身分高い)
お前がオレに協力するなら許してやる

At
(どこが寛容なんだか、、、)

At
(それに、自分に利用されたら許すだなんて、
女の子の気持ちを本当は尊重してないってことじゃん)

At
(本気で俺があの子にそういうことをしたんだと思ってるなら、
それでこいつが本当にその子のことが好きなら、
許すなんてありえないはずなのに、、、)

At
(結局、こいつは自分勝手な妄想癖なんだな)

モブ男(身分高い)
お前さあ、オレがこの国でも有数のデザイナーを輩出してる
偉大なる貴族の出だってことは知ってるだろ?

At
……あー、確かにそうでしたね

モブ男(身分高い)
それで、その跡取り息子である
天才的なオレが今度のデザインコンテストで
自分の作った服を出すことになったんだ

At
そうなんですか?

At
それは頑張ってください

そう適当な応援の言葉を告げた後このお客様にはお帰りいただこうと
俺が洋服作りの作業に戻ると、その男は焦った様子で言い募る
モブ男(身分高い)
待て待て待て、話を終わらそうとするな!!

At
え、他に何かあるんですか?

At
あなたの好きな女の子に関して
俺に文句を言いに来たわけではなく?

モブ男(身分高い)
本題はそこじゃない!!

At
(つくづくクソみたいな男だな、、、)

モブ男(身分高い)
だがしかしだな、
オレはどうやらまだ才能が開花してないようで

At
(努力してないの間違いだろ)

モブ男(身分高い)
コンテストに出せるような服が作れないんだ!!

At
……。

なんとなく話の展開が読めた俺は、
やっぱりこいつとは性格や根本的な価値観が合わないと
この話をさっさと切り上げることにした
At
断ります

At
そういうことは自分でやったものを
正々堂々と提出するべきです

At
今その場しのぎで俺に影武者をやらせても、
あとからあなた自身が苦しいだけですよ?

At
それはあなたも嫌でしょう

モブ男(身分高い)
うるさいうるさい、とりあえずオレには今が大事なんだっ!!

At
でも俺はあなたのために、、、

モブ男(身分高い)
黙れ!!このサロンの醜聞を全国民に吹き込まれたいのか!?

At
!!

モブ男(身分高い)
お前はさっき自分はあの子に強制的な体の交わりを
強いてなどいないと言っていたがな、オレは偉いから
証拠を偽造してお前を訴えることもできるんだぞ!?

モブ男(身分高い)
もしその証拠が偽造でも、オレは司法に口が効くんだ

モブ男(身分高い)
それこそ、王子様じゃないと抗えないくらいに強くな

モブ男(身分高い)
もしこんな廃れた平民向けの
サロンの跡取り息子が問題を起こしたということが
事実でなかったとしても公になったら、、、、

モブ男(身分高い)
お前の両親は、食いつなげなくなるかもな?

At
お前っ、!!

モブ男(身分高い)
おっと平民さん、
貴族であるオレに向かって少々口が汚いんじゃないか?

モブ男(身分高い)
大好きなパパとママのためを思うなら、
大人しくオレのいうことを聞くんだな

At
っ、

こういう奴らのやり口は、本などでも読んでいたからある程度は予想できる
おそらくこいつに協力したら俺は二度とデザイナーにはなれないし、
もしも俺の作品が誰かに漏れたらパクリだなんだと騒がれるに違いない
目の前で権力を振りかざしてニヤニヤと笑っている男は、
自分の力量を誤魔化すと同時に将来脅威になりかねない開きかけのつぼみを
まだ世界が気付かぬうちにとむしり取りに来たのだろう
At
(本当、貴族なんてPr以外みんな爆ぜればいいのに)

苛立っていた当時の俺はそんな乱暴なことを考えていたものだが、
頭の中は自由でもそれを行動に移すだなんて愚かなことはしないし、
目の前の理不尽が都合よくどこかに行ってくれるわけでもない
それどころか、この恨みや怒りがどこからか誰かにバレれば
馬鹿を見るのは立場の弱い平民の方だ
物語というのは、つくづく中心にいる誰かに都合よくできているものである
とはいえこいつの話に頷かないと痛い目を見るのは大切な両親なので、
俺は目を伏せて理不尽なお貴族様に了承の返事を返した
At
……わかりました、期限はいつですか?

モブ男(身分高い)
明後日だ

At
は!?明後日!?

At
そんなすぐにできないですよ!!

モブ男(身分高い)
だってオレ、服作りにかかる時間とかわかんなかったし

モブ男(身分高い)
なんとか終わらせろよ、明後日取りにくるからな

モブ男(身分高い)
その時までに終わってなかったら、、、
どうなるかわかるよな?

At
……。

うつむいて唇を噛み締める俺を見るその男の顔は、
汚い愉悦で満たされていて心底気持ちが悪かった