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上司

ったく、お前は本当に使えねぇな!

晴朗

……す、すいません

上司

大きい声でしゃべれよ!

晴朗

すいませんでした!!

上司

お前の代わりなんて、いくらでもいるんだからな!!

提出した書類に不備が見つかり、晴朗(はるあき)は上司に呼び出され、これでもかと言うぐらい暴言を浴びせられていた

晴朗

(……ダメだ。眠い…………)

就業時間内では、とても終わらせなさそうな仕事量で残業は当たり前

自宅へ帰れるのは夜の12時すぎ。翌日の準備などで就寝は夜中の2時。そして朝は6時起床…………

そのせいで、ここ1、2ヶ月はまともに寝てない

上司

おい! 聞いてるのか?

晴朗

(……休み取ったの、いつだっけ…………?)

頭がボーっとする

晴朗

……もう、ダメ…………

バタン

晴朗はその場で崩れるように倒れ込んだ

晴朗

晴朗

……ん…………

ぱちり

晴朗が目を覚ますと──

晴朗

……え?

なぜか川のほとりにいた

晴朗

(……川?)

晴朗

(……さっきまで、職場にいたのに…………)

晴朗

…………もしかして、三途の川……?

そう理解している冷静な自分がいる

川には橋がかかっていた

晴朗

……渡ったら、楽になれるかな?

まともに睡眠を取れていない彼にとって、それは魅惑的に思えた

そして、なによりも────

晴朗

上司から、罵倒されなくてすむかも…………

橋を渡ろうとした瞬間──

ガシッ

ちょっと待って、お兄さん

渡るのはまだ早すぎるよ

晴朗

……!?

腕を掴まれ、振り返ると──

黒装束をまとった男とも女とも見える、中性的な顔があった

晴朗

晴朗

かなりの美人──

思わず見惚れ、口から出てしまった

一応、生物学的には男なんだけどね

まぁ、それはともかく──

お兄さん、生者でしょ?

橋を渡りたいんなら

天寿を全うしてから、また来てね

晴朗

……へ?

いろいろと限界を超えていた晴朗は慌てて抵抗する

晴朗

……い、嫌だ〜〜!

晴朗

二度とあそこには戻りたくなーい!!

なんとか腕を振りほどこうとしたが、びくともしない

晴朗

大量の書類なんか見たくなーい!!

晴朗

しかも上司からの罵詈雑言なんてごめんだ〜〜〜〜!!

──とりあえず、あそこの休憩所で話でもしようか

晴朗

え? あ……、ちょっ……!

引きずりられるように、連れていかれた

紅紫

ボク、紅紫(こうし)っていうの。よろしく

休憩所に連れてこられ、開口一番そう言った

紅紫の人懐っこそうな笑みに絆され、これまでの経緯(いきさつ)を話していた

上司のパワハラ、連日の残業、休日返上の出社などなど────

晴朗

休暇なんて、最後いつ取ったかなんて覚えてないし…………

晴朗

ここ最近は、まともに眠れてないんだ

一通り話し終わると、晴朗はため息をついた

紅紫

今までよく耐えてたね

紅紫

すごいよ、きみは──

晴朗の頭に手を乗せ、撫でまわした

晴朗

?! なにすんだよ!?

紅紫

撫でまわしてんだよ

晴朗

やめろって……!

紅紫

そんなに元気なら、大丈夫そうだね♪

晴朗

…………

溜め込んでいたものが吐き出されたのか、さっきよりもマシになったような気がする

紅紫

顔色もよくなったみたいだし

晴朗

(か、顔が近い──)

ドギマギした

じー

晴朗

(……なんか、見つめてくる)

晴朗

……あの?

紅紫

あ、ゴメンね

紅紫

きみの目元が少し、“あいつ“に似てたからさ

晴朗

“あいつ“?

紅紫

──阿左美慎哉(あさみしんや)

紅紫

元天才ピアニストだった男

晴朗

……

紅紫

紅紫

さて、そろそろ──

紅紫

きみをうつし世に還さないとね

紅紫

忘れ物はない?

晴朗

──大丈夫

紅紫

それじゃあ行こうか

その瞬間、晴朗の背中に突き刺さるような視線を感じ、後ろを振りかえった

晴朗

紅紫

どうしたの?

晴朗

晴朗

……いや…………

振りかえったときには、視線は感じなかった

晴朗

(……気のせいか?)

紅紫

着いたよ

目の前に重厚そうなドアがあった

紅紫

このドアをくぐれば

紅紫

帰れるから♪

ドアノブを掴み捻る

ギィ

開くと、真っ白な空間が広がっていた

紅紫

今度はちゃんと──

紅紫

天寿を全うしてから、来るんだよ

ドン

晴朗

……!

背中を押される

紅紫

ばいばい。お兄さん♪

バタン

ドアを閉めた

紅紫

紅紫

──さて、戻るか

紅紫

“あいつ“が癇癪を起こす前に

晴朗

晴朗

……っ…………!

晴朗!

気がついたか!

晴朗

……父さん…………?

晴朗

…………おれ…………

ここは病院だ

晴朗

……病院

お前が倒れたと聞いたときは

肝を冷やしたぞ

晴朗

……母さんも、来てるの?

もちろん。今売店へ行っている

晴朗

……なんか、ゴメン

晴朗

心配かけて…………

いいから、ゆっくりしとけ

三日後、無事退院した

そして数日経ったある日、晴朗は今の職場を辞め、ほかの会社へと転職した

1年後

晴朗

(そういえば、シャンプー切れてたな)

晴朗

スーパーによってから帰るか

通行人とすれ違う瞬間──

紅紫

紅紫

元気そうでよかった

晴朗

え?

視線を向けたときには、すでにいなかった

しばらく立ち尽くしていたが、にこりと笑った

晴朗

──ああ。おかげでな

前進するように、晴朗は一歩を踏み出した

まとめ【短編集】

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コメント

3

ユーザー

画像を使って表現するのが凄く分かりやすくてよかったです! あと、ピアニストの存在が凄く気になりました。

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