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日本の名作シリーズ 夢十夜

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日本の名作シリーズ 夢十夜

7 - Re:夢十夜(第四夜) 1

2022年11月12日

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語り手

広い土間の真中に涼み台のようなものを据えて、

語り手

その周囲に小さい床几(しょうぎ)が並べてある。

語り手

台は黒光りに光っている。

語り手

片隅には四角な膳を前に置いて爺さんが一人で酒を飲んでいる。

語り手

肴は煮しめらしい。

語り手

爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。

語り手

その上顔中つやつやして皺と云うほどのものはどこにも見当らない。

語り手

ただ白い髯をありたけ生やしているから年寄と云う事だけはわかる。

語り手

自分は子供ながら、この爺さんの年はいくつなんだろうと思った。

語り手

ところへ裏の筧(かけひ)から手桶に水を汲んで来た神(かみ)さんが、

語り手

前垂で手を拭きながら、

お神さん

御爺さんはいくつかね

語り手

と聞いた。

語り手

爺さんは頬張った煮〆を呑み込んで、

爺さん

いくつか忘れたよ

語り手

と澄ましていた。

語り手

神さんは拭いた手を、細い帯の間に挟んで横から爺さんの顔を見て立っていた。

語り手

爺さんは茶碗のような大きなもので酒をぐいと飲んで、

語り手

そうして、ふうと長い息を白い髯の間から吹き出した。

語り手

すると神さんが、

お神さん

御爺さんの家はどこかね

語り手

と聞いた。

語り手

爺さんは長い息を途中で切って、

爺さん

臍の奥だよ

語り手

と云った。

語り手

神さんは手を細い帯の間に突込んだまま、

お神さん

どこへ行くかね

語り手

とまた聞いた。

語り手

すると爺さんが、

語り手

また茶碗のような大きなもので熱い酒をぐいと飲んで前のような息をふうと吹いて、

爺さん

あっちへ行くよ

語り手

と云った。

お神さん

真直(まっすぐ)かい

語り手

と神さんが聞いた時、

語り手

ふうと吹いた息が、障子を通り越して柳の下を抜けて、河原の方へ真直に行った。

語り手

爺さんが表へ出た。

語り手

自分も後から出た。

語り手

爺さんの腰に小さい瓢箪(ひょうたん)がぶら下がっている。

語り手

肩から四角な箱を腋の下へ釣るしている。

語り手

浅黄(あさぎ)の股引を穿いて、浅黄の袖無しを着ている。

語り手

足袋だけが黄色い。

語り手

何だか皮で作った足袋のように見えた。

語り手

爺さんが真直に柳の下まで来た。

語り手

柳の下に子供が三四人いた。

語り手

爺さんは笑いながら腰から浅黄の手拭を出した。

語り手

それを肝心綯(より)のように細長く綯(よ)った。

語り手

そうして地面(じびた)の真中に置いた。

語り手

それから手拭の周囲に、大きな丸い輪を描いた。

語り手

しまいに肩にかけた箱の中から

語り手

真鍮(しんちゅう)で製(こし)らえた飴屋の笛を出した。

続く

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