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コメント
1件
よかった……めちゃくちゃいい滑り出し方だねこれ。 53人の中からたった2人を残す決断、そこに持ってくるのが「怒りを抱えた陽斗」と「弟の夢を背負った奏真」っていうのがもう胸にくる。陽斗の「俺を馬鹿にした奴等を見返したい」って言葉、尖ってるけど目が死んでないっていう通の感受性にグッときたし、奏真の弟の話は何も言えなくなったよ。まだグループ名すらない段階なのに、この2人の人生が交わろうとしてるラストにかけての温度、すごく好き。
オーディション当日
午前9時。
スターライトエンターテインメント本社。 会議室前の廊下で、野坂通は立ち尽くしていた。
野坂 通
思わず口から漏れる。 廊下には若い男性たちがずらりと並んでいた。
私服姿。 スーツ姿。 高校の制服姿。 緊張している者。 友達同士で話している者。 黙って壁を見つめている者。 年齢も雰囲気も様々だった。
通はもう一度、応募リストを見た。
応募総数、53名。
まさかこんなにも集まると思わなかった。 社長も横で驚いている。
社長
野坂 通
社長
野坂 通
通は苦笑した。 だが少しだけ嬉しかった。 愛知にも夢を持つ少年たちがいる。 その事実だけで、この企画には意味がある気がした。
午前10時。 オーディション開始。
会議室の前に長机を置き、 通と社長が並んで座る。
応募者が1人ずつ入ってくる。
自己紹介。 歌。 ダンス。 特技披露。 志望動機。
その繰り返し。
1人目。
2人目。
3人目。
10人目。
15人目。
20人目。
どんどん過ぎてゆく。
正直に言えば、 悪くはなかった。
だが、心を動かされることもなかった。
『ありがとうございました!』
応募者が頭を下げる。 退場してドアが閉まる。 通はメモを見る。 社長が小声で言った。
社長
野坂 通
通は首を傾げた。
野坂 通
社長は頷きながら言う。
社長
社長
野坂 通
夢だけでは足りない。 努力だけでも足りない。 ルックスだけでも足りない。
何か。
何かが欲しい。
27人目。 会議室の扉が開く。
入ってきた瞬間、 通は少しだけ眉を上げた。
黒髪短髪。 少し日焼けした肌。 鋭い目つき。 態度もどこか不機嫌そう。 椅子に座る動作まで雑だった。
野坂 通
天城陽斗
その瞬間だった。 通は顔を上げる。
低くよく通る声。 妙に耳に残る。
野坂 通
彼は鼻で笑った。
天城陽斗
会議室が静まり返る。 普通ならもっと綺麗事を言う。 夢とか。笑顔とか。希望とか。
だが、彼は違った。
天城陽斗
社長が少し目を丸くした。
社長
天城陽斗
通は思わず笑いそうになった。
生意気だ。 扱いにくそうだ。 問題児かもしれない。
それでも、
目が死んでいない。
そう感じたのだ。
彼が退出したあと、社長が言う。
社長
野坂 通
通は履歴書を見つめる。
天城陽斗、17歳。愛知県出身…。
名前の横に小さく丸を付けた。
午後。オーディションも終盤。 52人目が終わった。
野坂 通
通は肩を回した。 疲労が溜まっている。
野坂 通
扉が開き、 最後の男の子が入ってきた。
黒髪。 色白。 細身。 モデルのようなスタイル。
だが通が目を引かれたのはそこではなかった。
通が目を引かれたのは、まさしく目だった。
とても静かで、強い目をしている。
野坂 通
桐生奏真
穏やかな声だった。
歌唱審査。 ダンス審査。 どちらも上手い。
しかし本当に印象に残ったのは、 最後の質問だった。
野坂 通
彼は少し黙ってから、こう言った。
桐生奏真
会議室が静かになった。
桐生奏真
淡々としていた。 だがその言葉の一つひとつが重い。
桐生奏真
社長の表情が変わった。
彼は続ける。
桐生奏真
通は何も言えなかった。
その目を見れば分かる。本気だ。 誰よりも、何かを背負っている。
桐生奏真
頭を深く下げ、会議室から退場した。
しばらく続いた会議室の沈黙。
社長がポツリと呟く。
社長
通は何も答えない。
机の上には53枚の履歴書。 一枚ずつ見返していく。
10分後…。
20分後……。
30分後………。
やがて通は2枚だけを手元に残した。
天城陽斗
桐生奏真
社長が尋ねる。
社長
通は再び履歴書を見つめた。
片方は怒りを抱えている。
片方は悲しみを抱えている。
どちらもアイドル向きとは言えない。
だが、なぜだろう。
この2人なら、 何かを起こせる気がした。
通は顔を上げて言った。
野坂 通
社長が優しく微笑んだ。
社長
窓の外。 夕暮れの光が差し込んでいた。
まだグループ名はない。
歌もない。
衣装もない。
ファンもいない。
それでも。
二つの人生が、今、 確かに交わろうとしていた。