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伊芳臣

カタヅ、ケ?

伊芳臣

……は、ははっ

伊芳臣

なにを、ばかなこと……

渋谷大

――俺らはカタヅケ屋

渋谷大

神仏心霊による騒動に関した相談事も

渋谷大

神仏心霊からの相談事も受け付けて

渋谷大

綺麗さっぱり分別、カタヅケるのが仕事だ

渋谷大

……アンタのしたことを個人的に許せないのとは別に

渋谷大

何十年も抱えたまま、発散すら許されないその気持ち

渋谷大

カタヅケてやりたいと思うのも、本音だ

渋谷大

なぁ、ヨシトミさん

渋谷大

人を傷つけたりすることは許せないけど

渋谷大

アンタが悔しかった気持ち、全部聞くことはできるよ

渋谷大

それも、嫌か?

渋谷の問いかけに、芳臣がはっきりと動揺を見せる

伊芳臣

嫌、とか

伊芳臣

そんな話じゃ

久留間悟

わっかんない奴だな

久留間悟

こいつはアンタを助けたいって言ってんだよ

久留間悟

アンタが誰かを傷つけないなら、アンタの味方だって

色摩猛

欲しかったんでしょ?味方

色摩猛

特に、優しい優しい大ちゃんをさ

本田芙蓉

残念ながら、あなたはすでに悪霊ではあるが

本田芙蓉

それはあなたを助けん理由にはならん

本田芙蓉

……正直に申し上げると、あなたは歪んでおる

本田芙蓉

もはやそれが完全に矯正されることはなかろうよ

本田芙蓉

じゃが、このままあちらへ送っても

本田芙蓉

地獄の釜の中でさえ、恨みと後悔は消えんじゃろう

本田芙蓉

――それは、あまりにも悲しい

離れていた場所から歩み寄り、三つの影が渋谷の隣に居並ぶ

それをヘドロの目が困惑に揺れつつ眺めた

伊芳臣

なにを、なにを言ってるんだ

伊芳臣

カタヅケなんて、そんなもの

伊芳臣

必要ない、そんなものいらない

伊芳臣

僕は恨んでいるだけだ、それを晴らしたいだけだ

伊芳臣

違う、本当は分かってる

伊芳臣

助けてくれるなら縋りたくて

伊芳臣

違う、そんなわけがない

伊芳臣

僕は、あいつらを

伊芳臣

僕らを追い詰めた、あいつらを

不安定な言動を繰り返す芳臣の言葉に、渋谷の眉根が寄る

やがてなにかに気付いた様子で眞珠のいる場所を振り返ると

いつの間にか胸元に抱えられていたポストに声を張り上げた

渋谷大

ポスト!出番!!

ポスト

ッ、おうよぉー!!

スポンと音を立てるように眞珠の腕から抜け出し、ポストが芳臣に突進する

背表紙がピッタリと芳臣の背につくと、眩い光が溢れた

伊芳臣

なん……ッ!?

咄嗟に振り払いかけたその体を、渋谷が腕を掴んで制止する

渋谷大

悪いけど、我慢してくれ

渋谷大

アンタを、きちんとアンタに戻そうとしてるだけだ

渋谷大

ポスト!

渋谷大

ちゃんとした文字になるまで吸ってくれ!

渋谷大

キツいかもだけど……!!

ポスト

キツくてもやる!心配すんな!!

ポスト

でも気持ち悪くて黄ばみそう!!

ポスト

つーか、なに、コイツ……!

ポスト

めっちゃ、霊気が重い……!!

まばたきの間に、本文が音を立ててめくれていく

そこに記されたすべての文字が真っ黒に塗りつぶされ

すでに半分のページを埋め尽くしていた

それを目にし、本田の眉間に深い皺が刻まれる

本田芙蓉

……彼を彼に戻そうと……

本田芙蓉

なるほど、やりたいことは分かる。が……

本田芙蓉

……いや、これならばなんとかなるか

言うが早いか、近くに落ちていた木の枝を拾い上げ、空中に大きく円を描く

本田芙蓉

ポスト

本田芙蓉

このままではお前さんが破裂するやもしれん

ポスト

え、破裂!?

本田芙蓉

読み込む霊気が重く、情報量が多すぎる

本田芙蓉

じゃから――

本田芙蓉

稚拙ではあるが、霊気の転送魔法陣を用いる

本田芙蓉

ポストの本来の所有者、ベルフェゴール殿へのな

本田芙蓉

大量の読み込みと転送を同時にやることになるが

本田芙蓉

耐えてくれるか

ポスト

読み込みと、転送を、同時に……

色摩猛

なにそれ、どういうこと?

久留間悟

魔術かじってるのはじっちゃんだけなんだよ

久留間悟

だから俺にも分かんないけど、多分

久留間悟

……大食いしながら腹下せってことじゃないかな?

渋谷大

おいコラ悟!!

ポスト

オタクの言い方ぁ!!

身も蓋もない言い方に、二人から非難の声が上がる

しかしそのやりとりである程度緊張が取れたのか

ポストはもう四分の一ほどしか残っていない本文に書き込みながら

わずかに本田へと体を向けた

ポスト

やれる!だからやって!!

本田芙蓉

よぉ言うた

その直後、本田が描いた魔法陣がポストに貼り付いた

瞬間、黒い柱が空へと突き抜ける

渋谷大

なんだっ!?

ポスト

転送軸が太い……!!

ポスト

これならもっと引っ張り出しても……!!

ポスト

うぐぁああああ……!!

本文を埋め尽くしていた黒塗りが、空に伸びた柱に引き剥がされる

見る間に白紙に戻り、しかしその端からまた黒く塗りつぶされていく本文に

ポストは絞り出すような声を上げた

ポスト

キッツい!けど!キツくない!!

ポスト

今までみんな頑張ったんだから……!!

ポスト

これ、俺にしか、できないんだから……!!

ポスト

俺だってカタヅケ屋なんだ、頑張るって……!!

ポスト

全部、頑張るって!

ポスト

決めたんだぁああああ!!

ポストが雄叫びを上げるのと、それはほぼ同時だった

本文に記される文字が一気に判別可能なそれに変わる

渋谷大

ポスト、もういい!!

渋谷大

吸うな!!

ポスト

っ!

制止の声をきっかけにポストが芳臣から飛び退き、転送魔法陣もまた掻き消える

それを見届けて安堵の息をついた渋谷は、静かに芳臣の顔を覗き込んだ

渋谷大

……意識、しっかりしてるか?

そこにあったのは、ヘドロ色をした目ではなかった

伊芳臣

……、あ……?

渋谷大

アンタが取り込んで、記憶も思考も混ぜてた連中

渋谷大

全部、取り出した

渋谷大

もうアンタは、伊芳臣でしかないよ

伊芳臣

僕は、僕でしかない……

伊芳臣

そうか……

伊芳臣

……そう、かぁ……

落胆にも後悔にも、はたまた安堵にも似た表情だった

それを黙って眺めたあと、渋谷はゆっくりと口を開く

渋谷大

もう一回、聞くぞ

渋谷大

アンタのその恨みやモヤモヤした気持ち

渋谷大

アンタはカタヅケたいと思うか?

問いかけに、もう一度沈黙が落ちる

しかしやがて、控えめに頷いたあと

芳臣はぽつりと声を落とした

伊芳臣

認められたいんだ

諦めにも似た口調で、そう呟く

伊芳臣

羨ましがられたい

伊芳臣

賞賛されたいんだ

伊芳臣

せっかく

伊芳臣

せっかく人と違う家に生まれて

伊芳臣

希少な能力まで手に入れて

伊芳臣

本当ならもっと

伊芳臣

もっと尊敬されるはずだったのに

伊芳臣

秘密にしろとか、目立つなとか

伊芳臣

こんな力、特別じゃないとか

伊芳臣

だから誇るなとか

伊芳臣

父さんがそんなことばかり言うから

伊芳臣

僕は孤独になるしかなくて

伊芳臣

だから僕は、あいつらにバカにされて

渋谷大

アンタの不満は、やっぱりそこなんだな

渋谷大

だけど、ごめんな?俺としてはさ

渋谷大

それを羨ましがってくれたりするのは

渋谷大

ほんの少しの人間だけ、だと思うんだ

伊芳臣

……なん、

渋谷大

普通じゃないから

芳臣の声を遮った言葉に、本田や久留間、そして色摩の目も伏せられた

渋谷大

サッカーや野球がうまいと、特別だ、すごいって言われる

渋谷大

だけど霊能はそうじゃない

渋谷大

信じても信じられなくても、気持ち悪いって言われる

渋谷大

それはこの島でも、多分同じだ

渋谷大

強い霊能を持ってるなら、なおさら隠さなきゃいけない

渋谷大

……親御さんはさ、それも全部、分かってたんだよ

渋谷大

ユタ以外の友だちとか、いなかったろ?

芳臣の喉から、息をのむ音がした

渋谷大

残酷かもしれないけど

渋谷大

アンタの望みがこの島で尊敬されることだった以上

渋谷大

その不満と不幸は、回避しようがなかったと思う

伊芳臣

……絶対に?

震えた声に、苦々しくも、はっきりと頷く

それに、重い息が落ちた

伊芳臣

そうか

伊芳臣

……人を突き落として、殺してまでやろうとしたことは

伊芳臣

結局なんの結果も生まなかった

伊芳臣

……僕はただの、悪人か

伊芳臣

それなら……誰も僕の味方にならなくても、仕方ない

伊芳臣

……ッ、仕方、仕方ない……っ!!

肩を震わせ、嗚咽を漏らす芳臣にかける言葉もない

しかしその肩に、細い指先が触れた

渋谷眞珠

……話、聞いてくれてありがとう

渋谷眞珠

あの頃、私、ちゃんとあなたに救われてたよ

渋谷眞珠

誰にも言えなくて、辛かったけど

渋谷眞珠

あなただけに打ち明けられた。聞いてくれた

渋谷眞珠

――それだけは、本当だからね

渋谷大

姉ちゃん

伊芳臣

眞珠

本田芙蓉

……芳臣殿

本田芙蓉

あなたはご自身を悪人と言い、救いのなさを諦めておられたが

本田芙蓉

自覚ある悪人こそを救おうとなさる方もおられる

本田芙蓉

冥府の裁判がどうなるかは分からんが

本田芙蓉

その方に、すべて預けてはいかがかな

伊芳臣

……悪人こそを、救う?

伊芳臣

本当に?

静かに首肯する本田の姿に、芳臣の目がわずかに潤む

やがて静かに目を閉じ、唇を噛み締める様子に

本田は両手で印を結び、祈るように口を開いた

本田芙蓉

オン アミリタ テイセイ カラ ウン

とたん、芳臣の体が浮き上がる

伊芳臣

……なんだろう、温かい

伊芳臣

そうか、僕が悪い人間だからこそ、助けてくれる人もいるのか

伊芳臣

世の中ってのはむずかしい

伊芳臣

……カタヅいた気がするよ。まだ、悔しさはあるけどね

伊芳臣

だから感謝の言葉は辞めておこう

伊芳臣

……じゃあね

渋谷大

うん。……またな

再会があるような言葉に首を傾げながら、やがて芳臣の体が空に溶けていく

それを渋谷は血みどろの腕を掲げながら、最後まで見送っていた

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コメント

12

ユーザー

これまでずっと芳臣のことを「なんだコイツ」「最低かよ」なんて思ってました()けど...こうして動機(?)とか聞くと、根っからの悪ではないとわかり...なんだか切ない気持ちになりました... そして、これまでずっと悪いことを繰り返してきた芳臣に対しても、他の霊と同じように丁寧に接するカタヅケ屋のメンバーの優しさがもう、画面越しに伝わってきて...!

ユーザー

悪役も少しは救ってあげたいという渋谷さん、優しすぎやしませんか…😢 ポストは今日も可愛かったです 一生懸命頑張ったポストをとても褒めてあげたいです…!! 最終決戦は主要キャラみんなの見せ場があって、とても好きでした…!   次回でもう最終回になってしまうのですね 本当に毎週毎週楽しませていただいて…!! 次回も楽しみに待っています!!😭

ユーザー
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