小悪魔な月ちゃんは陽センパイにだけ勝てない

だらりと血を流しながら、彼はヘラっと笑って見せた

止血して、絆創膏を貼る

チラリと覗き見た顔に違和感を感じて、言葉にする

言ってから顔をしかめた彼の服装を見て悟った

また目を潤ませる彼にげ、と心の中で言いながら後ずさる

まだ5月なのに何を、とうんざりして去ろうとすると腕を掴まれる

そのころからかわいいと有名だったわたしは

そんなことなんて知らない彼に少しだけ、気を許した

自分で第一印象をつくれることが、嬉しかった

かわいいって有名な人、から始まるのはもう嫌だったから

桃尾くんは満面の笑みで頷いた

あのあとわたしはすぐに桃尾くん…否、茜くんとはばいばいした

思い出した過去が、紡いだ記憶が…怖かったからだ

今までかわいい、って言ってくる人はみんな下心が見え見えで

でも茜くんのはただ、思ったことを率直に言っただけって感じで

それ以上もそれ以下もない気がして、心地が良かった

茜くんは陽くんとはまた違う、親友、みたいな感覚だった

陽くんみたいにドキドキしたりはしないけど、落ち着く

異性とか自分の性格とかなにも気にせずにいられた、そんな存在

…だから茜くんもそうだと勝手に思ってしまっていた

知り合って数ヶ月

夏休み前、最後の登校日

その必死な表情に、嫌な予感がした

…でもそのときにはもう、遅かった

…わたしに友達は、できないのだろうか