うらた
うらたんの声から始まる、毎週月曜のこの配信は私達にとっては日課となっていた
「あ、始まった〜!」
「最高の癒し」
配信が始まると、我先にと次々にcrewの皆様がコメントを打ち込む
ほんと、ありがたい。
坂田
坂田がぼそっと呟く
「確かに笑」
こんな小さな呟きでも、視聴者には聞こえるもの。
「まーしぃがうるさくないなぁw」
志麻
うらた
うらたんが、まーしぃの頭にチョップをいれる
志麻
まーしぃはみんなに聞こえないよう、声を殺しながら頭をさすった
「年上組、最高かよ...」
「あれ、ラマンは?」
うらた
目に入ったコメントにうらたんが答える
坂田
うらたんの真面目さとは反対に坂田が呑気に言った
センラ
志麻
突然、扉から顔を出すセンラにまーしぃは驚いたようすで身構える
坂田
「めっちゃナイスタイミングw」
驚くまーしぃが面白かったのか、坂田は笑いながら机を叩く
バンッ! バンッ!
部屋にはその音が響いた
うらた
うらた
うらたんが机を叩く坂田を静止する
志麻
「wwwwwwww」
その言い方があまりにも面白く、crewや、まーしぃはツボにハマる
田所
田所
ついでに私も。
「タドロコ居たんだ笑」
「居たんだ」
田所
そんな、なんでもない言葉は 今の私にはひどく刺さった
坂田
坂田が私の目を覗く
田所
坂田の顔をどかし、マイクに顔を向ける
田所
私は口の端を無理やり上げた
センラ
着替えたセンラが隣に座る
志麻
志麻
まだ思い出し笑うまーしぃに 全員がつられ、また笑う
______________
うらた
坂田
パタンっと電源を落とし、うらたんが背伸びをした
うらた
うらたんは眼鏡を外し、目頭を抑えながら聞く
田所
シフト表を確認しながら私は応えた
坂田
志麻
センラ
うらた
了解。と返事をしたうらたんは、じゃあ解散〜 と眠たそうに目を擦り、部屋へ戻っていった
坂田
志麻
センラ
田所
各自が部屋へ戻っていったのを見送り、私はソファに座ろうと歩く
田所
ため息を吐きながら深く腰掛ける
「タドロコ居たんだ」
さっきからずっと頭を谺響する 言葉を改めて考えた
田所
結んであった髪をぼさぼさと乱暴に解く
田所
浦島坂田船の「田」担当
そんなの分かってる
田所
私は意味もなく目を閉じた
うらた
うらたんが私に手を差し伸べる
田所
私はその手を握り立ち上がった
志麻
志麻
偉そうな目でまーしぃは私を見る
田所
私はぴしゃりと言い放った
センラ
初めてのライブ。
舞台袖でセンラは引き締まった顔で私に話す
田所
緊張しているであろうセンラの手を握り、にっこり笑う
田所
センラ
坂田
坂田
坂田と私は会場から出てすぐに抱き合った
汗で少し濡れた坂田の髪が頑張りを物語っていた
田所
パチッ.....
うらた
目を開けるなり、うらたんの顔が目に入った
田所
髪をくくりながら返事をする
うらた
素っ気ない返事を残し、うらたんは朝ご飯を作りにキッチンへ向かった
田所
それだけかよ。
昔は気を使ってくれたのに。
うらたんの背中を見ながら思い出す
最初こそは楽しかった
アンチがきたってみんなで手を取り合って支え合った
そうやって行った初ライブはたくさんのcrewを目にし、頑張れた
そんな日常が楽しかった
でも、今は違う
期待に追われるような毎日。
「居たんだ」とまで言われるようになった
正直、嫌気がさしてきている
田所
私の頬を涙が伝った
バイト先の先輩
田所
先輩に頭を下げ、家に帰る道を辿っていった
田所
私はイヤホンを耳につけ、スマホをひらく
坂田
センラ
うらた
志麻
イヤホンからは楽しそうな4人の声が聞こえた
田所
私はヒントを探し、チャットを見る
「今日、タドロコおらんのかな?」
気になるコメントを見つけ、私は手を止めた
「おらんっぽいね。」
私はどんどん読み進めていく
「てか、タドロコ要るか?w」
田所
「それな!要らんよな」
私は言葉を失った
「マジで消えて欲しいwww」
「抜けてくんないかなぁ」
だんだん、チャット欄が私への 誹謗中傷で溢れていく
「要らないヤツって分かんないかなw」
田所
あるコメントを見つけ、私の中でなにかが吹っ切れた
田所
私は地面に倒れ込み、上を見た
その時は、無理やり口角を上げることなく、自然に笑えていたと思う
????
????
田所
私の頬をぺちぺちと叩く
????
私を軽々と持ち上げた
その温かさに、懐かしさを感じた
田所
????
目を開けるなり、綺麗な男性の顔が目に入った
田所
田所
その顔を見て安心した私は口元を緩める
まふちゃん
まふちゃんは頬に手を添え、高い声で返事をした
まふちゃん
まふちゃん
田所
顔を ズイッ と近づけるまふちゃんから苦笑いで目線を逸らす
まふちゃんは、ハァ.....。と分かりやすくため息をついたあとスマホを取りだした
まふちゃん
田所
まふちゃんを遮り、声を上げる
まふちゃん
田所
まふちゃんの震えた声で我に返った
田所
田所
まふちゃんのスマホをそっと伏せ、笑ってみせる
まふちゃん
申し訳なさそうに下を俯いたまふちゃんはまた、スマホをひらき、
まふちゃん
と、発信履歴をみせた
たぬき : 11:56 発信
田所
私はまくらに抱きつき項垂れる
まふちゃん
まふちゃんは背中をさすってくれた
いつもより低くて優しい声に、今はただ包まれていたかった
田所
でも、そんなことは出来る訳ないから。
田所
私はまふちゃんの頭を撫で、ゆっくりベットから立ち上がった
ピーンポーン
チャイムの音が響く
田所
私はまふちゃんの頭から手を離し、重い足で玄関に向かった
まふちゃん
そう言ったまふちゃんは私の後ろをついてくる
ガチャッ....
うらた
うらたんはスマホから目を離し、私を見たあと、すぐに目を戻した
田所
私はドアの前で立ち尽くす
センラ
センラ
センラは頭をいっぱいに下げ、まふちゃんに謝り続ける
まふちゃん
そんなセンラの頭をまふちゃんは精一杯上げさせようとしている
なんか、シュール。
志麻
まーしぃはそっぽを向き、ぼそぼそと文句を言っている
坂田
坂田は私の手を握り、引っ張ろうとした
田所
「帰る」
そんな何気ない日常会話に、私は抵抗を覚えた
まふちゃん
思い出したように言いながら私の手首から坂田の手を引き剥がし、まふちゃんは私の肩に手を置いた
まふちゃん
まふちゃんは私の目をじっくり見てそう言った
田所
私もまふちゃんに応えるよう、大きく頷く
田所
まふちゃん宅に背中を向け、私はうらたん達の所へ歩いた
うらた
田所
うらたんの低い声に身を縮める
家に帰るまで、ずっと、こればっかり。
センラ
田所
志麻
田所
まーしぃの聞こえるぐらいの大きさの舌打ちに拳を握った
坂田
田所
その言葉は、1番聞きたくなかったなぁ。
じめじめとした湿気に、どんよりとした空気が流れた
最悪。
坂田
この空気を壊すためか、なんにも考えてないのか知らないけど、
坂田はうらたんの肩にどすんと腕を預ける
うらた
うらたんは腕を退け、適当な返事を返した
志麻
センラ
軽蔑したような目でまーしぃを見ていたセンラは
そういえばこんな奴だったわ。と納得した様子でまーしぃのあとに続いた
田所
私も慌てて追いかけようとするが
「要らない。」
田所
また、あの言葉が頭をよぎり足を止めた
前を見ると、顔をお互いに見合いながら笑い合う4人の姿に、元あった傷がえぐられるようだった
田所
私はそのまま立ち尽くした
それでも足を止めない4人に、距離を感じる
田所
私は近道で家に帰った
田所
田所
私はベットにダイブして枕元のぬいぐるみを抱きしめた
大昔にうらたんから貰ったのだ
確か、クレーンゲームでなかなか取れなくて、代わりにとってくれたんだっけ。
今ではそんなことすら懐かしく感じる
田所
私は何度目かのため息を吐く
いつからだろう。
「大丈夫?」の一言もなくなってたのは
いつからだろう。
遅れた歩幅に気づいてくれないのは
いつから、いつから
田所
きっとみんなは知らないだろう。
私が涙でぬいぐるみを濡らしていることも
ずたずたになった心も。
田所
私はカーテンから差し込む朝の光に目を細め、体を起こす
田所
思いっきり背伸びをしてベットから出ようと立ち上がった
冷たいフローリングの床は私の足の温かさで生ぬるくなっていく
私はそれを感じる前に早足でリビングへと向かった
扉を開け、リビングを覗いても誰もいなかった
田所
私は恐る恐る足を踏み入れ、ソファに座る
窓からは涼し気な風が優しくカーテンをなびかせた
カサッ.... カサッ...
そんな静かなリビングから響くはずのない音が鳴る
田所
私はゆっくりと振り向き音がしたテーブルを見た
カサカサ...と紙の端が揺れていた
紙は置き手紙だったらしく、文字がうっすら見える
田所
私は手紙の内容に落胆する
4人で買い物に行ってきます 適当にしてて。
「4人で」ね。
殴り書きのように書かれた文字が表すようにみんなにとって私はそれくらいなんだろう
田所
私は手紙をゴミ箱に投げ入れたあと、服を着替え、身支度を始めた
田所
私はケースに入ったアイスを見つめる
店員さん
田所
不審者を見るような目で注文を要求する店員さんに気づき、急いでアイスを指さした
田所
自信満々に言った私はお金を渡す
店員さん
お金を受け取った店員さんはケースを開けてアイスをカップへ入れていく
店員さん
少しして店員さんは手を伸ばし、私にアイスを渡す
田所
私はそれをパシッと手に取り、早足で公園へ向かった
田所
私はすべり台の上で足を伸ばし、アイスをほうばる
田所
やっぱアイスはシンプルなバニラが1番だわ
次々にアイスを口に入れていき、ふと私は空を見上げた
田所
私は空を手で煽ぐ
ぼろっぼろの私の心とは正反対に見上げた空はただ美しく、広がっている
田所
パシッ.....!!
田所
頬を自分で叩いておきながら、私は痛がり、頬をさすった
田所
私は呪文のように唱える
今日が最後なんだから。
強がっていよう。
泣いたら「負け」みたいになっちゃうから。
今は泣かないでおこう
私はその後、すべり台をおりて
「人生最後」を楽しんだ
田所
田所
私は苦笑いでさっき越えた柵に手をかけた
田所
柵をしっかり掴んで崖下を眺める
ひどく冷たい風に吹かれ、スカートがふわりと広がった
田所
田所
薄い感動になんとなく手をあげた
見出しを見たリスナーやcrewは大喜び。
あと、4人も。
悲しんでくれる人なんているんでしょうか。
「タドロコが居なきゃ意味ないよ。」
そんなこと言われたい人生でした。
田所
私は咄嗟に上を見上げた
目から出てくる滴を零さないように
田所
見上げた意味も虚しく、滴は頬を濡らした
顎の先で一瞬止まり、涙は足元にぼたぼた落ちる
坂田
田所
志麻
田所
センラ
田所
うらた
田所
田所
頭の裏側に閉じこもってた「思い出」が目の前に蘇ってきた
でも、もうそうやって笑ってたみんなは居ないから。
まふちゃん
まふちゃんには悪いけど、さっさと飛んじゃお
田所
私は目を閉じて足を浮かせた
否、浮かせようとした
???
田所
聞き覚えのある声に驚き、地面を踏む
うらた
田所
センラ
田所
坂田
志麻
案の定、そこには息を切らし首元の汗を強引に拭いながらこちらを見る4人の姿があった
田所
坂田
坂田は呼吸を整えながら説明しようとするが
志麻
田所
あっさりまーしぃに取られる
私はまーしぃの一言が引っかかる
田所
田所
うらた
うらたんは俯き服の裾を掴んだ
田所
私は4人を睨んだまま髪を耳にかける
田所
4人に背中を向け、口を開いた
田所
センラ
田所
田所
坂田
田所
あー、もう
さっき泣いたばっかなのに
私の目には涙がたまった
田所
震える声で最後を告げる
田所
静かに笑った私は今度こそ、足を宙に浮かせた
体がふわりと軽くなる
こぼしそうになった涙も上へのぼっていく
こんなに呆気ないんだなぁ
ガンッ!!
田所
崖の側面からとびでる石たちに体を思いっきりぶつける
うらた
恐る恐る見上げた先には、歯を食いしばり私の腕をがっちり掴んでいるうらたんがいた
田所
私には理解ができなかった
田所
やっと絞り出した声でそう叫ぶ
田所
田所
田所
きれいな星空の下、私の声がこだました
志麻
まーしぃが簡単に言い放つ
志麻
田所
私の考えはまーしぃのたった一言で塗り替えられた
坂田
坂田もうらたんを精一杯引っ張りながら引きつった笑顔でそう言う
センラ
続けてセンラも柵から身を乗り出しながら訴えかけるように言い出した
田所
うらた
何度も、何度も突き刺さったうらたんの低い声が
うらた
今は嫌じゃないんだ。
パシッ....とうらたんの腕を掴み返した
うらた
うらたんは ニッと笑う
坂田
志麻
上から言い合う声が聞こえてくる
センラ
センラ
センラの応援が2人の声をかき消した
志麻
坂田
うらた
お前ら、私は不安だぞ?
うらた
うらたんの声が聞こえた時、私の体は再度、軽くなり上にあがった
ト サッ......
そんな音がして、私は地面に倒れ込んだ
うらた
うらたんの暖かい声で我慢していたものが一気に溢れ出す
田所
涙で顔をぐっちゃぐちゃにしてうらたんの胸へ飛び込んだ
うらたんはそんな私に一瞬驚いたが、またすぐに笑顔になり私の頭をいっぱいに撫でた
少し大きなうらたんの手。
泣きじゃくっている坂田も後ろから私とうらたんをまとめて抱きしめる
久しぶりの感覚が心地よかった
坂田
冷たい背中が坂田で温かくなった
志麻
私は声を出すことも出来ず、ただただうなづいた
センラ
「5等分」
私は1人じゃないんだ。
田所
うらたんの胸。
坂田がいる背中。
不器用すぎるまーしぃの優しさ。
めっちゃクサイことしか言わない、センラ。
ちょっと変かもしれないけど
こいつらがいないと駄目なんだろう。
私はゆっくり目を閉じた
さっきとは違う、温かさの中で
うらた
うらた
うらた
────数年後────
坂田
田所
坂田
坂田
坂田
坂田
うらた
志麻
センラ
うらた
志麻
坂田
うらた
田所
センラ
志麻
うらた
うらた
うらた
・
・
・
田所
田所
田所
田所
今なら胸を貼って言える
「私は1人じゃない。」
コメント
4件
2回読んで2回泣いた笑 タドコロちゃん推したいなぁ〜 仲間か…欲しいな
感動やわ… 仲間と支え合うか〜… スゲ〜な〜… タドロコちゃん強いな… オムレツさん お疲れ様です! 久しぶりの投稿嬉しいです! 次の投稿も楽しみにしてます!
凄いなぁ…仲間って大切。と再確認できました!