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ばたっちゅ
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#王国
星崎 ヒロア
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コメント
7件
桜城さん、第17話読了しました…。露子さんの生育歴がこれほどまでに過酷だったとは。傷ついた後にしか愛してもらえないという歪んだ愛の記憶が、慎一くんへの試し行動や破壊願望に繋がっていく描写、胸が締め付けられました。最期に慎一くんが初めて感情を露わにして泣いてくれたことで、露子さんが「愛された」と感じられたのが救いでありながらあまりに切ないです。露子さんの心の奥底にあった「慎一くんに普通の女の子として愛されたい」という本音が、この物語を一層引き締めていると感じました。丁寧な心理描写をありがとうございます。
前日譚
「境界線の迷子」一ノ瀬露子の物語
私は幼い頃から、 「汚れた子供」として扱われていた
私は当時、何も知らない年頃だったが、 街の大人たちは私を見る度に、 子供に向けるものとは思えない、ねっとりとした視線を向けてきた
私には、 それが何を意味するのかがわからなかった
ただ、 自分が周囲の人間から普通の子供として見られていないことだけは、 幼いながらに感じ取っていた
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
本能的に恐怖を感じた私は、 逃げるようにして、 その場から走り去った
しかし、 家に帰ると別の恐怖が待ち受けていた
父ちゃんが私の母ちゃん「千代子」を殴ることは、 決して珍しいことではなかった
父親
一ノ瀬千代子
怒鳴り声と物音が響くたび、 私はは部屋の隅で身を縮め、 ただ二人を見ていた
一ノ瀬露子
私は母ちゃんを助けようとしなかった
幼かった私には、 どうしたらいいのかわからなかった
父親
父ちゃんが家を出て行った後、 母ちゃんは決まって、私に優しくしてくれた
一ノ瀬千代子
一ノ瀬千代子
母ちゃんの体は、 必ずどこかしらに青あざがあった
優しい言葉をかけてくれることもあった
抱きしめてくれることもあった
一ノ瀬露子
だけど、私はその度に、 「ある法則」を覚えていった
傷ついた後には、 優しくしてもらえる
苦しめば、 誰かが自分を愛してくれる
それが、 私にとっての「愛」になってしまっていた
私が成長しても、 その考えが消えることはなかった
むしろ、 自分が傷つくことへの抵抗は、 少しずつ薄れていった
誰かに必要とされていると感じるためなら、 自分を傷つけることさえ厭わなくなっていった
一ノ瀬露子
一ノ瀬千代子
一ノ瀬千代子
一ノ瀬露子
一ノ瀬千代子
母ちゃんは、 一人で引っ越しの準備をしていた
お父ちゃんを東京に置いてけぼりにしたまま、 「夕凪村」という場所に引っ越すらしい
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
私は転校生として、 深々とお辞儀をして、自己紹介をした
不思議なことに、 緊張で心臓がバクバクすることはなく、 肝が据わっていた
席を見渡すと、 一人だけ異質な雰囲気のある男の子がいた
都築慎一
全てを見通したような瞳を持つ、 坊ちゃん刈りの少年
この時はまだ、 当然ながら一言も話していない
だけど、 私を見透かそうとする彼に興味を持つようになる
茜色の空が浮かぶ夕方
都築慎一
一ノ瀬露子
話しかけてもらえた その事実で、私の胸が高鳴る
私はそれを表に出さないように、 お淑やかな笑みを浮かべた
一ノ瀬露子
都築慎一
一ノ瀬露子
男の子は、 さっきまで冷徹だった目を、 少し見開いた
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
私は教科書を包んでいる風呂敷を持って、 自分の家の方向に走ろうとした
しかし、 その直後に私の脳が「大事なこと」を思い出した
一ノ瀬露子
都築慎一
一ノ瀬露子
そう、 私が言う「大事なこと」とは、 この少年の名前だった
少年は目を逸らし、 どこか素っ気ない態度で、 名前を名乗った
都築慎一
慎一くん 知的で洒落ている名前
心の中で、 慎一くんの名前を何度も呼んだ
一ノ瀬露子
私は慎一くんに向かって、 小さく手を振った
すると、 慎一くんは相変わらず無表情で、 何も言わなかったものの、 こちらに向かって手を振り返してくれた
こんな私にも反応してくれる子がいるんだという事実で、 私の心が温かい何かで満たされた
私の提案で、 慎一くんを含んだ同じクラスの子と、 「かごめかごめ」をして遊ぶようになった
遊ぶ場所は、 今にも動物が出てきそうな炭鉱跡地
後ろの正面を当てられなかった私は、 志乃ちゃんに「自分の腕を石で傷つけろ」と言われた
表情は変えなかったが、 痛くないわけではなかった
だけど、 自分が傷つくことに対する恐怖が、 全くと言っていいほどなかった
細くて白い腕に傷が入り、 石特有のぎこちない音だけが響く
都築慎一
慎一くんが私を心配して、 赤い液体が流れている腕を見る
慎一くんに心配されるのなら、 自分の痛みなんか大したことじゃなかった
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
私は何度も、 慎一くんの愛情を確かめようとした
慎一くんは表情を変えなかったし、 何も答えなかった
だけど、 私の元を離れることはなかったから、 その度に私は安心するようになる
「こんな私でも、見捨てられないんだ」、と
そんなある日のことだった
私がいつものように慎一くんと話していると、 どこかからか、 鋭くて野犬のような視線を感じる
古賀勲
古賀勲くんだった
私と慎一くんが仲良くする度に、 彼はあからさまの不機嫌になり、 足を小刻みに鳴らすようになる
慎一くんと勲くんが、 どういう関係なのかは知らないが、 慎一くんに対する独占欲が丸出しだった
すると、 次の瞬間
古賀勲
一ノ瀬露子
私の顔面に強い痛みが走る 私は、助走をつけた勲くんに、 本気で、思い切り殴られたのだ
私は悲鳴を上げずに、 唇を噛み締めて必死に痛さを我慢した
私は傍にいる慎一くんに、 アプローチをするかのように、 怒り狂っている勲くんを挑発する
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
古賀勲
ちょっと図星を突けば、 単純な勲くんは簡単に私の挑発に乗った
顔を真っ赤にして怒った勲くんは、 私の胸ぐらを掴んで、 床に叩きつけようとする
次の瞬間…
都築慎一
それを見た慎一くんは、 初めて怒りという感情を露わにして、 勲くんを思い切り殴り返した
私だけのために怒ってくれた、 慎一くんのその表情が、 愛おしくて堪らなかった
これだから、 慎一くんへの試し行動はやめられない
一ノ瀬露子
都築慎一
私にとっての慎一くんは、 ただの大切な子ではない
自分を見捨てないことを、 証明してくれる存在だった
だからこそ、 私は何度も慎一くんの愛情を確かめようとした
わざと自分を傷つける、 わざと困らせる、 時には他の子を傷つける
それでも私から離れない慎一くんを見ると、 心が温かくなって安心した
その度に、 自分が愛されていると信じることができた
私の提案で、 今日は閉鎖坑道で遊ぶことにした
なんで今日だけはここにしたのかというと、 今にも壊れそうだったから これに尽きる
「かごめかごめ」 「籠の中の鳥は____」
次の瞬間、 坑道全体が地震のように、 激しく揺れる
都築慎一
桑原陽一
神田志乃
一ノ瀬露子
ここで終わっちゃえば、 慎一くんはどんな反応をしてくれるんだろう
いつしか、 心の奥底で眠る破壊願望によって、 「一ノ瀬露子」という存在は壊れていた
都築慎一
一ノ瀬露子
私は突然、 瓦礫が落ちるであろう場所に走り、 くるりと慎一くんの方を向いた
一ノ瀬露子
都築慎一
次の瞬間、 岩盤が真上から落ちてきて、 私は瓦礫の下敷きになってしまった
いざ上から重いものがのしかかると、 息苦しくて圧迫される
だけど、私は不思議と、 このままでいるのが心地よかった
都築慎一
普段は無表情な慎一くんが、 血相を変えて近くまで走ってきてくれた
一ノ瀬露子
都築慎一
都築慎一
一ノ瀬露子
私のために、 慎一くんが必死になって涙を流していた
でも、 私は今頃気づいたのかな
私が自分を傷つけたりするのは、 死にたかったからじゃない
本当は普通の女の子として、 「一ノ瀬露子」として、 慎一くんに愛されながら生きたい
私の本心は、 たったのそれだけだった
都築慎一
慎一くんは私の心の中に入り込むように、 「俺と生きよう」と言ってくれた
その言葉だけでも、 私にとっては大きな救いだった
一ノ瀬露子
私は力を振り絞って、 慎一くんの名前を呼んだ
その直後に、 私は静かに息を引き取った
都築慎一
都築慎一
目も見えなくなった 体のどこも動かせない
だけど、 聴覚だけは最後の最後まで残っていた
慎一くんが、 静かに泣く声だけが、 最後に聞こえてきた
ありがとう、慎一くん あなたに愛されて、私は安心したわ
もっと一緒にいたかったけど、 私が死ぬことであなたの心に残るのなら、 それでもいい
おじいちゃんになったら、 私の元に会いに来てね