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#恋愛
ばたっちゅ
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#王国
星崎 ヒロア
886
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前日譚
「心蝕の眼」都築慎一の物語
僕の3歳の誕生日に、 太平洋戦争が始まった
町には、 いつもとは違う空気が流れていた
大人たちは声を潜め、 新聞を開けば戦争の文字が並んでいる
誰もが不安そうな顔をしているが、 幼かった僕には、 それが何を意味していたのか、わからなかった
だが、 僕の父親から爽やかな笑顔が消え去ったことは覚えている
都築虎之進
慎一の母親
父親には、「赤紙」が届いていた
それを見た母も、 父も、誰も何も言わなかった
ただ、紙を握りしめる手だけが震えていた
父は戦地に行った
そして、 僕が7歳になった頃に、 ようやく父が戦地から帰ってきた
多くの方が名誉の死を遂げる中、 僕の父は奇跡的に生きて帰ってきた
本当は喜ばしいことのはずなのに、 僕には帰ってきた父が、 戦争に行く前の父と同じ人間とは思えなかった
姿が似ているだけの別人だと疑ってしまう時のあった だけど、目の前にいるのは紛れもなく僕の父だ
夜になると、父は酒を飲んだ 酒を飲めば飲むほど、顔つきが変わっていった
都築虎之進
慎一の母親
そして、父は病弱は母を殴った どうやら、母を米兵と勘違いしているようだった
乾いた音が、 狭い家の中で響いた
僕は布団の中で息を殺して、 嵐が過ぎ去るのを、ただ待つだけだった
父は母を殴った後、 しばらくその場で立ち尽くしていた
都築虎之進
都築虎之進
そして、 肩を震わせながら、 子供のように泣いた
それなのに、 父の口から出てきた言葉は、 「お前のせいだ」だった
僕は父の背中を見つめた
泣いているのに、母を責めている 悲しそうなのに、怒っている 優しいはずの父が、母を傷つけている
幼かった僕には、それが理解できなかった
…はずだった 僕は理解したくなかったが、理解してしまった
人間は、口にする言葉と、 心の中で思っていることが同じとは限らない
そのことを、 僕は7歳にして知ってしまった
都築慎一
その日以来、 僕は他人を信用できなくなった
人間が嫌いになった
そして、一番の屈辱は、 自分も大嫌いな生き物である、人間の一部だということだ
あれから時が経ち、 気がつくと僕は6年生になっていた
僕は学校内でも、 「何を考えているかわからない」 「不気味だ」などと陰口を叩かれ、 僕は孤立していた
僕は孤立しても、 何も感じなかった
むしろ、 変な虫が寄ってこないから、 好都合だとすら思っていた
都築慎一
今日も同級生たちの醜い本心を見て、 僕は心を閉ざしていた
ある日、 少し変な少年と廊下ですれ違った
古賀勲
いがぐり頭、 頬に傷跡、 鋭い目つき、 体格がいい体
彼の名は「古賀勲」
同級生や教師に怒鳴ったり、暴力を振るう少年だ 学校内では「問題児」として扱われ、孤立している
勲のことはよく知ろうとしなかった 知らず知らずのうちに、他の奴らと一緒くたにしていたから
横を通る勲を、 僕は何も言わずに見つめてやった
古賀勲
すると、勲と目が合ってしまい、 勲は僕のことを怒鳴りつけた後、 僕に向かって激しく睨みつけた
最初は無視しようと思った だが、なぜか放っておくことができなかった
こいつはただの暴れん坊じゃない 寂しさと恐怖で武装しているだけの、 普通のヤンチャな男の子だ
そして何よりも、 勲の心の底には、 「寂しい、誰かに慰めてほしい」 「弱いとダメなんだ。こうして威張らないと、見てもらえない」 そんな悲痛の叫びをあげていた
都築慎一
古賀勲
僕が首をコテン、と傾げると 勲は思考が停止したかのように、動きを止めた
古賀勲
勲は間抜けな顔をしていたが、 しばらくすると顔を赤くして、 いつもの強がりなガキ大将の顔に戻った
勲の口調は乱暴だったが、 こいつなりの照れ隠しと戸惑いの表れであることを、 僕は知っていた
僕は分かりやすく焦る勲を 鼻で笑ってやった
都築慎一
古賀勲
勲は恥ずかしさで頭が爆発したのか、 顔を真っ赤にしたまま叫びまくる
表面上では怒っているように見えるが、 「自分の気持ちをわかってくれて嬉しい」という本音が、 僕にはきちんと伝わっていた
本当に単純で、 わかりやすい奴だった
時計の針が12時を指すと、 僕たちは家に帰る時間になった
周りの騒がしさにうんざりしながら、 僕は淡々と教科書を重ねて、 風呂敷で包んでいた
すると、 ドカドカと大きな足音が聞こえた
顔を上げると、 そこには勲がいた
古賀勲
古賀勲
勲は僕の机を思い切り叩くと、 偉そうな口調でそう言った
一見すると生意気に見えるが、 本音は僕と一緒にいたい気持ちでいっぱいだった
都築慎一
古賀勲
断ったらこいつは、もっと殻に閉じこもってしまうだろう 僕は仕方なく誘いに乗ってやった
別に、嬉しかったとか、そういうではないからな ただ、勲が寂しがっていたから、 仕方なくだ、仕方なく…
都築慎一
古賀勲
僕は歯を少し見せるようにして、 口元を緩めた
僕もまだまだ子供だ 口元には本音が出ていたみたいだ
夕凪村の帰り道を歩いている間、 会話はあまりなかった
だけど、 不思議と気まずい感じはなかったし、 どうしてかわからないが、居心地が良かった
そんな下校時間の途中に、 勲が突然動きを止めて、 僕に向かって手を差し出してきた
古賀勲
僕は突然のことでびっくりして、 目を丸くしていた
古賀勲
すると、 僕の反応がなくて恥ずかしくなったのか、 勲が顔を真っ赤にして、 必死に手を突き出してきた
ここは夕凪村でも、人気が少ない場所だ こいつがこれ以上、閉じこもらないためだ
そう思っているものの、僕自身も本音を隠していた 僕は勲の冷たくて大きな手を、そっと握り返した
都築慎一
古賀勲
僕は目を細め、 口角を上げながら勲を揶揄う
僕は普段、他人に向かって、 こんな間抜けな面を見せない
だけど、勲の前なら…と思い、 僕も勲の前だと、肩の力を抜くことができた
勲はニヤニヤして揶揄う僕を見ると、 すぐにそっぽを向いた
いつもみたいに乱暴に強がっているが、 「一緒にいたい」という気持ちがバレバレだ
だけど、 勲の本心はさっきまでは喜んでいたものの、 後に真っ黒な不安が押し寄せているようだった
「男同士なのに、手を繋いでいる」 「これを誰かに見られたら、この時間が壊される」 世間や周囲に対する、強い警戒心と恐怖が、 勲の震える手元を通じて、しっかりと伝わってきた
都築慎一
世間は僕たちが思っている以上に冷たいが、 僕は君の内なる孤独を知っている
不器用な僕なりに、気遣ったつもりだった
都築慎一
古賀勲
都築慎一
古賀勲
僕が悪戯っぽく笑うと、 勲は大声を出して、僕の言葉を遮ろうとする
だけど、 僕と同じくらい不器用な奴が、 僕に心を開いてくれている
見える本心は、 悪意のない純粋な想い
勲の前でだけ、 僕は年相応でいられた
翌朝、 学校に登校した僕の前に、 勲が堂々と立ち塞がった
都築慎一
古賀勲
勲は胸を張って強がる
しかし、 人の本音が見える僕は、 その虚勢の裏にある勲の緊張や戸惑いを見逃さない
勲のデカい態度も、 叫び声も、 僕にとっては全然怖くない
都築慎一
古賀勲
都築慎一
僕に決定的な追い討ちをかけられた勲は、 恥ずかしさのあまり言葉を失い、 いつものように顔を真っ赤にする
古賀勲
捨て台詞を吐くと、 勲は大きな足音を鳴らしながら、 その場から逃げ出した
すぐに口を尖らせる勲だが、 本音は言った言葉と真逆だ
都築慎一
僕は慌てて逃げる勲を追いかけた
勲は学校の別の場所に逃げ込んでいた
先生の怒号を無視して、 全速力で廊下を走ったため、 ゼェゼェと息切れしていた
古賀勲
勲は僕の姿が見えないからって、 完全に油断していた
しかし、 僕は勲の動向を全て見透かしていた
僕は音もなくその背後に現れ、 両手で彼に触れ、勲を捕まえる
都築慎一
古賀勲
勲は情けない叫び声をあげて、 ビクッと体を震わせていた
都築慎一
古賀勲
都築慎一
そんな軽口を叩き合った後、 僕たちはなぜか、 しばらくその場から離れようとしなかった
朝の光が差し込む静かな空間で、 もっと一緒にいたいという僕の本心が、 僕を留めていた
表情を見ればわかるが、 もっと一緒にいたいと思っているのは、 勲も同じだった
勲は気まずそうに視線を逸らしながら、 ぽつりと言った
古賀勲
置いていかれるのが怖いという、 寂しがり屋な勲の弱み
都築慎一
都築慎一
僕は呆れつつも、 優しく微笑んで、 その言葉を受け入れた
知らず知らずのうちに、 僕も勲と一緒にいるのが、 楽しいと思っていたみたい
だけど、 僕にはもう一人、 気を取られるような不思議な奴が現れる
それがきっかけで、物語は破滅へ進む この時は、 そんなことすら知らなかった
コメント
1件
読了したよ〜!😭💕 慎一くんの前日譚、重たくて切なくて…でも勲との出会いがじんわり沁みる…!「寂しさと恐怖で武装してるだけ」って見抜く慎一くん、強いけど優しいね。戦争の傷跡が家庭に影を落としてる描写が生々しくて、胸が締め付けられたよ…。でも最後の「本当は一緒にいたい」って気持ちが通じ合ってるところが尊すぎる!続きの破滅フラグも気になる〜😭🌸