嫌いになれたら楽なのに

現在同棲中の彼氏…yanくんから

話したいことがあるって呼び出された

yanくんの隣に座ると

yanくんが私から目を逸らす

yanくんが深く息を吐いて、吸って

そう伝えられた瞬間

まるで、時が止まったように感じた

嘘、私は…こんなに好きなのに

昨日も…いつもと態度全く変わってなかったのに

……知ってる、こんな冗談…yanくん言わないよね

なら、本当に…yanくんは私と別れたいんだ

まるで、自分に言い聞かせるように

強めにそう言い放つ

っ…あぁ…

そうなんだ

私よりも、大事にしたい人ができたからなんだね

それなら…

私にとって幸せにしたい人はあなただけだったけど

あなたにとって幸せにしたい人は、私じゃなかったんだね

……前から、出てく準備してたのかな

いつから、私のこと好きじゃなくなったんだろう

etさんが部屋から出ていったあと

まるで…何か、大事なものを失った感に襲われる

本当に…別れてしまった

……、最悪だ

……俺は、まだ…好きなのに

大好きなのに

別れたくないって、言ってほしかった

泣いてほしかった

なのに、なんでっ…

…俺らの恋は、あんなあっけなく終わってしまうのだろうか

…なんて、振った側が言える言葉じゃないよな、

…家族や仕事の都合が色々と重なって、県外に引っ越すことになったから別れようって

そんなの…どうせ引き止められる、けど…

…、遠距離恋愛だなんて、俺…嫉妬しまくる嫌な彼氏になりたくないし

朝早くから玄関から物音がして

もしかしてと思い玄関に向かうと

案の定yanくんがいた

そっと、玄関に立てられている写真立てを見る

私の誕生日に2人で撮ったあの写真

他にも、家の中にはお揃いのマブカップやお互いのプレゼントが残っているけど

もう…ここの家にある意味、なくなっちゃったね

yanくんが何かを言おうとして開いた口を、そっと閉じる

なんだかそう言われると、全て見放されたような気がする

…まぁでも、当たり前か

……もう…私、yanくんの友達でもなんでもないんだから

重い沈黙に、小鳥のさえずりが広がる

yanくんがそっと振り向き、私の目を捉える

その目に私が映りたくて

ずっとずっと、頑張ってきたけど

もう……無理だったみたい

自然と口から出た言葉

でもなぜだか、焦って取り消そうとする気にはならなかった

『なに〜？急に…w』

『……俺も好きだよ』

大丈夫…大丈夫

後は、『さよなら』と言って別れよう

もう…二度と会うことはないと思うけど

『さよなら』って

『さよなら』って

『さよなら』って

そう言って、扉を開けて出ていってしまった

その場に座り込む

『さよなら』という言葉が

喉に突っかかって言えなかった

涙腺が緩み

大粒の涙が零れ落ちる

でも、それを不器用な指先で拭ってくれる人はいなくて

この恋が始まったときから終わるときまで

いつも気持ちが大きいのは私だった

ということは

こんなに気持ちが大きいのは

私だけ、か…

気持ちが落ち着き

さっき自分で言った通りに

yanくんとの思い出の物を片付ける

そっとお揃いだったはずのマグカップを手に取る

『見てこれ、お揃い可愛くないっ？』

『確かに…じゃあこのマグカップお揃いにする？』

『え、めっちゃいい！』

『…ふふっ…めっちゃ喜んでるじゃん』

『…可愛い』

1つの思い出を見ると

その思い出の物に関する記憶が溢れ出してくる

大丈夫、大丈夫っ…

なんでっ…？別れようって…

運命の人じゃなかっただけ

可愛いって言ったくせに

私たちは結婚よりも、別れる選択肢を選んだだけ

好きって言ったくせに

……いつから、別れたかったんだろう…

こんな気持ちになるのなら

最初から何もいらなかったのに

物も

言葉も

愛も

全部全部、最初からいらなかった

だけど、今までyanくんからもらったものは

間違いなく全て本物で

本物の愛情も、たくさんもらったから

その分たくさんの本物の愛情で返してたのに

愛、足りなかったのかなぁ…？

何か、私に嫌なとこでもあった…？

それとも、最初から私のこと嫌いだった…？

『……っ…etさんは、何も悪くない…っ』

どうせ別れるのなら

嫌いになりたいっ…あいつのことなんてっ…

嫌いになれ

嫌いになれ

嫌い

大嫌いだよ

っ……、好き…

大好きっ…

好き

好き

好きだよ

大好き

大好きです、yanくん