Atに美容の基礎中の基礎を教えてもらってそれにも慣れてきた頃、
サロンにやってきたオレに笑いかけてくれたAtは
なんらかの見覚えのない道具をたくさん持っていた
Mz
Atおはよ、それ何?

At
いらっしゃい、Mz

At
それって、、、これのこと?

Atが手に持っていた道具たちを持ち上げて見せたのでオレがこくりと頷くと、
彼はニコッと笑って説明してくれる
At
これはね、メイク用の道具だよ

Mz
メイク?直前まで女性客でも来てたの?

At
いや、俺が今持ってるメイク道具はMz用

Mz
オレ男だけど、、、?

At
メイクって、何も女の子だけがやるわけじゃないんだよ

At
Tgとかも軽いメイクとか全然やってると思う

Mz
え、そうなの!?

At
うん、俺もある程度はメイクしてるよ

そう言って柔らかく微笑んだAtがずいっとオレに顔を近づけ、
「ほら、ここ」と言いながら瞼を閉じ、
まつ毛の生え際に沿ってその目元を指先でそっとなぞる
よーく観察してみると、茶色の線がすぅっと入っていた
Mz
この茶色い線なに?

At
アイラインって言って、目をくっきり見せるためにやるんだよ

At
俺のメイクスタイルだと
そこまでしっかり線を引くわけじゃなくて、まつ毛とかの影を
ちょっと濃く見せるみたいなイメージで軽く引くんだよね

Mz
そっか???

Atが言っていることを理解しきれずにオレが疑問気味に答えると、
彼は楽しそうに笑って付け足した
At
ここはまだちゃんとわかんなくていいよ、
ちょっとずつ教えるから

At
とりあえずは初心者向けのメイクを教えるから、
まずは頑張ってそこを自分のものにしてね

At
今からファンデの使い方や眉毛の整え方、
アイラインとリップクリームくらいの最低限のメイクを伝えるね

Mz
わかった!!

その後Atに簡単なメイクを洗髪方法の時と同じくらい丁寧に教えてもらい、
オレはAtが伝えてくれたポイントをメモにまとめていく
一通り説明が終わった後、オレはパタンとメモを閉じて
Atの色違いの瞳を見つめながら言った
Mz
覚えること多くて大変だけど、ちょっとずつ練習していくわ

At
それでいいよ、
一瞬でメイクが上手くなる人なんてそうそういないから

At
少なくともMzは真剣に話を聞いてくれたし、
この調子ならちゃんと吸収できると思うよ

Mz
ありがと!!

オレが満面の笑みでAtにお礼を言うと彼は優しく笑い、
「それで」と声に出してこんなことを言ってきた
At
この前簡単なスキンケアとヘアケアを教えて、
今初心者向けのメイクを教えたから、
Mzがそれらに慣れるまで新しい知識は教えないんだけど、、、

At
そろそろ、見た目だけじゃなくて
振る舞いも練習した方がいいと思うんだよね

Mz
振る舞い?

At
そう、振る舞い

At
ちょっとした仕草で意識するところとか、目線の動かし方とか

At
そういうところも、
美しいとか可愛いにすごく影響してくるんだよ

Mz
要するに、所作ってこと?

At
そういうこと

At
背筋の伸ばし方や歩き方、
ちょっとした手の動き方で結構印象って変わるんだよね

At
だから、今からそこを教えていこうかなって

Mz
なるほど

オレが理解を示す言葉を返すと、
Atはお姫様をエスコートする王子様のようにオレに手を差し伸べて、
オレは少し戸惑いながらその手を取る
戸惑っているオレにAtは少しおかしそうに笑いながら、
オレを椅子から立ち上がらせてオレの背中に手を添えた
Mz
!?///

At
ごめん、びっくりさせちゃった?

At
こっちの方が教えやすいんだけど、、、嫌だったら離すよ?

Mz
あ、えっと、それは大丈夫

Mz
ちょっとびっくりしただけで

At
そっか、今度から気をつけるね

At
背中、ちょっと手を置いてもいい?

Mz
いや事後報告草

At
ごめんごめんw

オレのツッコミに笑いながらそう返したAtは、
オレの背中に手を当ててその手のひらに少し力を込める
At
背筋はね、スッと伸ばすと全然見た目が変わるんだよ

At
胸を張るに近いけど、
あまり大袈裟すぎるても不自然だから、
自然に真っ直ぐっていうのがポイントかな

Mz
うーん、難しい、、、

Atのサポートを得ながら背筋を伸ばす練習をし、
それが少し板についてきたあたりで、
彼は「じゃあ次は歩いてみようか」とオレに話しかける
At
歩く時は焦らずに、一歩一歩足の裏全体を使って歩くんだ

At
そうすると歩き方が柔らかくなって、見栄えもグッと良くなる

Mz
一歩一歩、足の裏全体を使って、、、こう?

At
うーん、ここはもうちょっとこうしたほうが、、、

Mz
これでどうだっ!!

At
おっ、今のすごくいいね!!

Mz
他のポイントはどんなのがあるの?

At
あとは、手の動かし方かな

At
急にガサツに動かすんじゃなくて、指先まで意識するといいよ

At
まるで、ダンスの一部みたいに

Mz
ダンスなんてしたことがないからわかんないな、、、

Mz
ちょっとお手本を見せてくれる?

At
もちろん

オレのお願いを満面の笑みで了承してくれたAtは、
Ktyのところまで歩いて彼に仕事の要件を伝えたあと、
オレの元に戻るという往復で美しい歩き方を見せてくれた
今まで意識してAtの動きを見るなんてしたことがなかったから
気づいていなかったが、彼はその綺麗な所作を自然と心得ていて
まるで生まれた時から知っている当たり前のことのようにそつなくこなす
だけどそれは決してわざとらしくなくて、彼の気品のある雰囲気と
センスを感じる完璧なファッションセンスをさらに引き立て、
Atをオレが見てきたどの男性よりも美しく見せた
Mz
すご、、、

At
なんとなく、掴めたものがあった?

Mz
自分に活かせるものであるかどうかはわからないけど、、、

Mz
動き方ひとつで、印象がかなり変わるんだなとは思った

At
そうなんだよね、せっかく見た目が良くても
姿勢や動きがガサツだったり乱暴だったりすると
もったいないくらい輝きが失われてしまう

At
可愛いとか綺麗って、見た目だけじゃないんだよ

Mz
元々Tgとそれについて話してたから、
なんとなく頭ではそうなんだろうなと思ったけど、、、

Mz
それが今Atの動きを見て、直感で理解できた感じ

At
それだけでもすごくいい学びだと思うよ

At
それを理解している人としていない人とでは、
所作のレッスンの吸収スピードが全然違うから

そう言って穏やかな笑みを浮かべるAtはどの角度から見ても綺麗で、
こういう人を本当の美男というのだろうと思う
オレに綺麗になる方法を教えてくれる師匠で
綺麗な男性の具体例である彼に尊敬と憧れが混ざった
キラキラした目線を送っていると、Atがおかしそうに笑った
At
Mz、何その顔w

At
大好きなアイドルを見てるファンの子みたいになってるよ

Mz
だって、すごいって思って

Mz
Atのその所作とか見た目の美しさ、
生まれ持った顔立ちとか雰囲気とかもあるんだろうけど

Mz
さっきの動き方とか見て、それが自然に意識できるくらい
努力を重ねたからこんなにかっこいいんだなって思ったから

At
……え、

Mz
あ、悪い

Mz
なんか、、、嫌な感じの言い方になっちゃった?

At
いや、違う、そうじゃなくて

Atはいつも穏やかな光を灯しているその色違いの双眸を揺らしながら、
ちょっとオレから目線を逸らして恥ずかしそうに言った
At
……その、努力してるとか初めて言われたから

At
みんな、俺のことは生まれた時から
完璧な美貌を持ってるみたいにいうんだけど

At
一応自分の見た目が最大限に光る努力はしてたから、
気づいてもらえたのが嬉しくて

At
なんか、、、恥ずかしいな

Mz
確かに、誰かに褒められると恥ずいよな

Mz
オレもスラスラ文章を読んでる自分をTgに褒められた時
めちゃくちゃ恥ずかしくてまともに目合わせられなかったもん

At
あと、誰かを綺麗にする腕と見た目以外を
直球で褒められたこと
あんまりないからちょっと慣れないのもある

Mz
Ktyとかは?

At
あいつは昔から知り合いだけど、
お互いにお互いを褒めるなんて
なんか恥ずかしくってやったことないよ

Mz
あー、相手を褒めるのも自分が恥ずい時あるよな

At
わかる、めっちゃわかる

二人でそんなことを話しながら笑い合っていると、
隣の席のブースからニヤニヤしたTgがひょこっと顔を出した
Tg
ちょっとちょっとぉ?

Tg
お二人さんめちゃくちゃいい雰囲気になっちゃってるじゃーん?w

Mz
は!?///

初めてからかわれるという経験をして混乱しているのか
少し熱くなっている顔がなんだか恥ずかしくて
それを繕いながら、オレは楽しそうに笑っているTgに目を向ける
At
別に、普通に雑談してただけだけど、、、

Tg
その割には二人とも視線泳いでない?

Kty
ちょっ、Tg、笑いすぎてお腹痛いからやめてっ、w

At
……気のせいじゃない?

Mz
そーだよ、お前はいつもすーーーぐ恋バナに持っていくんだから

Mz
ちょっと仲良く会話してただけでからかうとか小学生かよ

Tg
ちっちゃいので小学生でーす

Mz
こういう時だけチビなの誇りやがって、、、

Kty
待って、もう無理っ、!w

Tg
ちょっと待ってKty?

Tg
Ktyもおれと同じくらい身長低いんだから
自分関係ないみたいな顔やめてね?

Kty
でもTgよりは高いよっ!!

Tg
ちょっとだけでしょ!!

At
……俺から見たら二人とも変わんないけど、、、(小声)

Mz
ブフッw

Kty
Atちゃん???

Tg
なんか言いました???

At
いや、別になんも、、、w

Atの反応にオレが笑いを堪えていると、
Tgがこちらをじとっとねめつけながらオレにこんなことを言ってくる
Tg
Mzたんも身長高い方ではないよね???

Mz
まあ平均よりは下だけどお前らよりはマシ

Kty
ちょっとMzち???

At
(どんぐりの背比べ、、、)

Mz
At今絶対全員チビだとかそんなこと考えてただろ

At
いや、、、、、、別に?

Tg
それならその間は何っ!?

Kty
www

Ktyの笑い声を合図に四人全員が笑い声を上げているこの場所は心地よくて、
いつの間にかこのサロンで過ごす時間が
オレにとって心安らぐ瞬間になっていることに気がついた
Mz
(楽しいな、、、)

At
あ、そういえばMz

Mz
どうした?

At
綺麗な所作の練習に関する話だけど、
やっぱりこういうのは実践が一番だから
いい練習場所教えてあげるよ

Mz
それは、、、どこ?

At
Mzはさ、Prっていう名前の子爵家の息子を知ってる?

Mz
うーん、聞いたことがあるようなないような、、、

Mz
その人がどうしたの?

At
そのPrってやつ、俺の知り合いなんだけど

At
とにかく彼の一族は誰かと交流するのが大好きで、
貴族向けにも上流階級の平民向けにも頻繁に夜会を開いているんだよね

At
それで、近々Prが主催の商家向けの夜会があって

At
Mzも参加してみたら?

Mz
でも、義母と義姉が許すかどうか、、、

Mz
そもそも、商家向けならあいつらも参加する可能性あるし

オレがそう答えると、いや、と可愛い声がしてTgが話に入ってきた
Tg
母上と姉上は無駄にプライドが高いから、
多分相手から招待されないと参加しないと思うな

Tg
そのPrって人の夜会は、参加者があらかじめ
主催者の家の許可をとってから参加するタイプのやつでしょ?

At
そうだね、基本紹介制か予約制

At
子爵家側から誰かを招待することはほとんどないよ

Tg
それなら大丈夫だよ!!

Tg
Mzたんが出かけている数時間の間二人の目を誤魔化すのは、
おれがいつも通りうまいことやっておくし

Tg
そもそも、その夜会は深夜なんだから二人は寝てるんじゃないかな?

At
俺とPrは顔見知りだし、それなりに仲良くやってるから
俺がMzのこと紹介すれば多分あいつは受け入れてくれるよ

At
所作も見てもらうように頼んどくから、
この機会に経験しておくのもありだと思う

Mz
でも、夜会に着ていけるような服とかないし、、、

オレが一番の心配事を口に出すと、
Atはニヤリと妖艶な笑みを浮かべてこんなことを言ってきた
At
ちょっとMz、何のために俺がいると思ってんの?

Mz
へ、?

At
俺の手にかかれば、Mzの服を用意して
ちゃちゃっとメイクをするくらいお手のものだよ

At
あんまり本気のおめかしは時間が足りないけど、
今回の夜会に関してはあくまで所作の実践が目的だから
そこまで見た目に気合いを入れる必要はない

At
商家向けの夜会だから、ドレスコードも
貴族同士のものほどは気にしなくてもいいし

At
俺もMzを好き勝手メイクアップできるし、
俺としてはメリットしかないね

楽しそうに笑っているAtをオレが驚いて見つめていると、
同じように瞳をまんまるに見開いたKtyがつぶやいた
Kty
すごいなあ、Atちゃん目がガチモードだよ、、、

Kty
Mzちをメイクアップしたいってめっちゃ顔に書いてある

Tg
ねーねーMzたん、やってみようよ!!

Tg
Atくんもやる気満々なことだし、ね?

初めてここにきた時と似たような光景にデジャヴを覚えながら、
オレは苦笑いをしながら彼の提案を了承した
Mz
失敗したら不安、だけど

Mz
確かに、所作に限らず何事も練習が大事だよな

At
Prがついているから大きな失敗はないだろうし、
小さなミス程度なら商家出身の若い男性なら
そこまで珍しくないからあんまり気にしないでいいと思うよ

At
それじゃあPrには俺から話を通しておくから、
次回サロンに来た時から夜会に備えて所作の特訓しよっか

Mz
わかった、ありがとう!!

笑顔でお礼を言ったオレを見つめているAtの目線が
前より優しくなっているような気がしたが、
それだけ彼と仲良くなることができてるということなのだろう
それにちょっとだけくすぐったい気持ちになっている自分を
不思議に思いながらも、オレは夜会に備えて所作の練習を重ねることにした
Tg
やっぱりあの二人、アリだよねえ、、、(小声)

Kty
それは僕もちょっと思ったけど、
多分二人とも無自覚だから今は見守ってあげようよ(小声)

Tg
ふふっ、そうだね(小声)

At
ちょっとそこのちっちゃい二人、何コソコソ話してるの?w

Tg
おれはちっちゃくないっ!!

Kty
僕はTgよりは身長高いよっ!!

Atのからかいに対していつものように二人が抗議するが、
その瞳はちょっとだけこちらをからかうように輝いていた
Mz
(あいつら、絶対しょーもないこと考えてるな、、、)

Mz
(まあいーや、ほっとこ)
