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#狂愛
柏木さくら
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#ハッピーエンド
瑠璃マリコ
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桃下結衣
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遥
遥
居酒屋の暖簾をくぐった先、視界いっぱいに広がる銀世界に目を見張る。
体の底まで浸み通る寒さも、一瞬忘れてしまうほどの雪化粧をまとった街並みに、感動すら覚えた。
――本格的に冬を迎えた12月。
街中は多くの人々で賑わっている。
それもそのはずだ。 この時期だけの風物詩、華やかな都心の景観を目的に訪れている人も多いはず。
遥
クリスマスカラーに彩られた大通りを眺めながら歩く。
店の装いも華やかな演出に凝っていて、スマホを構えている人達も多い。
この場にいる誰もがみな、聖なる夜を目前にして胸を踊らせているのがわかる。
なのに。
早坂
早坂
遥
無粋な一言を放つ男に、私は白い目を向けた。
――ナチュラルショートの前髪が、歩く度にふわりと揺れる。
身長は私より頭ひとつ分高い。
普段は背筋を伸ばして颯爽と歩くのに、この寒さのせいか、今は少しだけ猫背気味。
彼は同じ店舗で働く同僚のひとり。
店長代理を務める私の補佐役として、サブマネージャーという役職に身を置いている。
早坂 一沙(はやさかかずさ)、それが彼の名前。
本人は女の子っぽい名前を、少しだけ気にしてるみたいだけど。
遥
細やかな粉雪が夜空に舞う。
深い闇夜に煌めく結晶、辺りは光り輝くイルミネーション。
幻想的な光景に、つい声が弾んでしまう。
遥
早坂
遥
早坂
早坂
遥
ピシャリと会話を打ち切られ、一気に気分が降下する。
遥
遥
不満を漏らす私に反論の声はない。
コートのポケットに両手を突っ込んだまま、本人は静かに吐息を漏らしている。
遥
物心ついた頃から雪なんて見慣れているだろうし、今更珍しくもないのだろう。
対して雪とは無縁な環境にいた人間だっている。私がそうだ。
だからついはしゃいでしまったけれど、早坂は冷めた反応しか返してくれない。
この温度差に冷めつつも、彼の服装を見やる。
ロング丈のチェスターコートを上品に着こなす姿は清潔感に溢れている。
クールな表情は端正な顔立ち。
俗にいうイケメンの部類に入る、と思う。
――不意に悪戯心が湧く。
薄情な横顔を崩してみたくて。
思いきり早坂の腕にしがみついてみれば、彼は私に抗議の目を向けてきた。
その眼差しに、とびきりの笑顔で返す。
遥
早坂
早坂
妙な納得の仕方をして、そっぽを向く。
ぶっきらぼうな態度が可愛く見えて、私は口元を緩ませた。
――腕を組みながら歩を進める。
ぴたりと寄り添う私達の姿は、周りの目からどう映るんだろうか。
そんなことを、ふと考える。
やっぱり恋人同士に見えるんだろうか。
遥
早坂は、ただの同僚。
気の合う男友達のような存在。
そして、居酒屋で仕事の愚痴を零し合う飲み仲間。
こんな過剰なスキンシップも、ただのノリだ。
遥
早坂
遥
早坂
まさか拒否が返ってきて脱力する。
遥
遥
早坂
遥
早坂
早坂
遥
反射的に顔が強張ってしまった。
早坂の探るような視線が痛い。
この人に下手な嘘は通用しないから、どう答えようか迷ってしまう。
北欧インテリア好きが講じて、高卒後に北欧雑貨のセレクトショップで働き始めて8年。
オープニングスタッフとして入社し、3年目でサブマネへと昇進、今の地位に至る。
そして早坂が異動してきたのは4年前。
つまり彼とは4年の付き合いになる。
今では気心の知れた、親友のような関係。
それだけに、私の異変も彼にはお見通しだったようで。
早坂
早坂
遥
遥
早坂
早坂
遥
気心知れた仲間というのも、時に厄介だ。 うまく誤魔化されてほしい時に、誤魔化されてくれないから。
本部への不満を言い訳にしようとしたけれど、案の定、早坂には通じなかった。
そう、早坂ってこういう人だ。
目の前で困っている人を見捨てない。
その素晴らしい長所は、こんな時にもいかんなく発揮される。
親身になってくれるのはありがたいと思うけど、私としては、誤魔化されてほしかったのだけど。
……仕方ないな。
遥
遥
早坂
早坂
不自然に動きを止めた早坂の腕を、強く引っ張って連行する。
目の前で停車したタクシーの後部座席に、困惑している彼の体を無理やり押し込んだ。
・ ・ ・
早坂
早坂
マンションに着いてもなお、何度目かの制止の声が掛かる。
ちなみに七瀬というのは私の名前だ。
七瀬 遥(ななせはるか)。 先月、26歳を迎えたばかり。
遥
早坂
早坂
遥
早坂
早坂
がっしりと腕を絡ませて、独身男性を部屋に引きずり込もうとする喪女とは私の事か。
もちろん普段はこんな事しないし、誰彼構わず部屋に誘ったりしない。
仲のいい早坂ですら、今まで部屋に招き入れたことはない。今日が初めてだ。
遥
早坂は基本優しいし、私に甘い。
どんなワガママにも付き合ってくれる。
だから宅飲みも承諾してくれると思ったのに、こんなに拒絶されるなんて思わなくてショックを受ける。
早坂
遥
遥
早坂
遥
早坂
遥
思わず素っ頓狂な声が出た。
ぱちぱちと目を瞬かせる私に、早坂は苦虫を噛み潰したような、険しい表情を浮かべている。
早坂
というのが、早坂の言い分だった。
――早坂は真面目で誠実な人だ。
頼り甲斐のある彼を慕う社員も多い。
もちろん男性としても魅力的だし、彼に好意を抱いている顧客もたくさんいる。
そんな早坂だから、宅飲みを拒否した理由も、やっぱり彼らしい理由だったことに納得する。
ただ少々、誤解が生じている。
遥
早坂
遥
遥
早坂
遥
遥
そう。あくまでも、『私の中では』。
つまり相手にとってはそうじゃないわけで。
それが最近の、頭痛の種になっている。
早坂
私の曖昧な物言いに何かを察したのか、早坂は訝しむような視線を向けてきた。
遥
早坂
遥
早坂
ほらね、こうなっちゃう。
本当に、どこまでも優しい奴なんだから。
そんな彼に、私は今日も甘えてしまう。
遥
遥
いずれ彼と付き合うであろう、未来の彼女に思いを馳せる。
正直、羨ましいと思った。
だって早坂なら絶対に、彼女一筋で誠実な付き合い方をしてくれそうだから。
そういう普通の恋愛が私もしたい。 したかった。
遥
遥