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日下部彰

ここは・・どこだ?

昏睡状態から目覚めた彰は

重い瞼を懸命に開きながら 辺りを見回す

日下部彰

病院?

日下部彰

何で俺・・・

日下部彰

病院なんかに・・・

彰の後頭部に激痛が走る

日下部彰

あっつぅ・・・

日下部彰

確か俺は・・千里と・・

日下部彰

あ!そうだ!遊園地!

日下部彰

遊園地に行ったんだ!

日下部彰

それから・・・

日下部彰

確か・・・

日下部彰

てか、今何時だ?

彰はベッド横の物置に置いてある デジタル時計を見る

日下部彰

はぁ?1月!?

彰はデジタル時計に表示されている 日付を見ると思わず声を漏らす

それもその筈だ

デジタル時計が 表示している日付は

千里と遊園地デートをした日の 約4ヶ月後の日付だったからだ

日下部彰

俺・・そんなに
眠ってたのか?

日下部彰

まさか・・そんな事って

日下部彰

!!!!!!

日下部彰

千里は!?

日下部彰

千里に会わなきゃ!

彰はベッドから立ち上がり 廊下に出ようとする

しかし4ヶ月もの間 昏睡状態だった彰の体が すんなり動くわけもなく

彰はうまい具合に立ち上がれない

日下部彰

くそ・・・

日下部彰

動いてくれよ!!!

日下部彰

俺は千里に会わなきゃ
いけないんだ!

日下部彰

千里に・・・

彰は鉛の様に重たい 足腰を引き摺りながら 匍匐前進で廊下に出る

日下部彰

(千里・・千里・・・)

日下部彰

(無事で居てくれ・・・)

日下部彰

(生きていてくれ・・・)

そこに1人の看護婦が 近づいてくる

看護師A

日下部さん?

看護師A

日下部さんですか!?

日下部彰

看護師・・・

看護師A

ああ、良かった

看護師A

意識が戻られたんですね

日下部彰

千里は?

看護師A

え?

日下部彰

千里ですよ!千里!
日下部千里!

日下部彰

千里は無事なんですか?

日下部彰

生きてるんですか?

彰は看護師の足にしがみつき 千里の無事を尋ねる

看護師A

安心してください

看護師A

千里さんは夕方
替えの着替えを取りに
帰宅されましたよ

日下部彰

え!?て事は千里
無事って事ですか?

日下部彰

生きてるって事ですか?

看護師A

はい!大丈夫です!

日下部彰

ああ・・よかった・・・

彰は全身の力が抜けたのか そのまま床に倒れ込む

看護師A

日下部さん!?

日下部彰

俺はてっきり千里も
俺を襲ったやつに──

看護師A

千里さんの事は
心配ありません!

看護師A

とりあえず
病室に戻りましょう

日下部彰

ですけど──

看護師A

日下部さんは4ヶ月も
昏睡状態だったんです!

看護師A

そんな体で無理をしたら
後に響いてしまいます

日下部彰

・・・・・

看護師A

きちんとした
リハビリが必要です!

看護師A

ですから!ここは
私の言う通りに
してください!

看護師A

千里さんには
我々から連絡しますから!

日下部彰

そう・・ですね

彰は看護師に促され病室に戻る

彰が病院に戻ると すぐに主治医が検診にやってきた

医者

ふむふむ・・・

日下部彰

・・・・・

医者

うん!

医者

意識もはっきり
しているようですね

日下部彰

ええ・・・

医者

特にこれといった
後遺症も見受けられない

看護師A

本当によかったです

日下部彰

あの・・・

医者

はい?どうされました?

医者

ご気分でも?

日下部彰

いや、そうではなくて

日下部彰

千里は・・・

日下部彰

どんな感じでした?

看護師A

千里さんは
凄い人ですよ

日下部彰

え!?

看護師A

彰さんが昏睡状態
だった4ヶ月間

看護師A

毎日お見舞いにきて
彰さんに話しかけてました

日下部彰

千里が?

看護師A

ええ・・・

医者

ご自身が一番
お辛いでしょうに

医者

気丈に振る舞われてました

医者

この病院に勤める者全員
千里さんの凄さには
感服させられましたよ

日下部彰

千里・・・

彰の目からは大量の涙が 絶え間なく溢れ出る

看護師A

千里さんにももう
連絡している筈ですから

看護師A

すぐに来られますよ

日下部彰

ええ・・・

しかし千里は正午を過ぎても 病院に姿を現さなかった

看護師A

おかしいですね・・・

日下部彰

どうしたんですか?

看護師A

いや、それが──

看護師A

彰さんが
目覚めてからずっと

看護師A

千里さんの携帯に
かけてるそうなんですが

看護師A

繋がらない
そうなんですよ

日下部彰

え?繋がらない?

看護師A

ええ・・・

看護師A

いつもの
千里さんなら

看護師A

この時間には病室に
来てるんですけどね

日下部彰

・・・・・

看護師A

こんな事──

看護師A

この4ヶ月間で
初めてですよ・・・

日下部彰

(千里・・・)

日下部彰

(どこに行ったんだ?)

みなが千里の行方について 首を傾げていると

看護師B

大変!!!!

看護師が慌てた様子で 病室に入ってきた

看護師A

なによ!急に!

看護師A

大声出さないでよ!

看護師B

あ、ごめん・・・

日下部彰

どうかされました?

日下部彰

随分と慌ててる
みたいですね?

看護師B

そ、それが──

看護師B

千里さんが
病院の屋上に・・・

日下部彰

え!?

日下部千里

・・・・・

日下部千里

ごめんね・・・

日下部千里

彰・・・

日下部千里

私・・もう

日下部千里

疲れちゃった

日下部千里

彰が目を覚ますまで
頑張ろうって・・

日下部千里

今日まで孤独に
耐えてきたけど・・

日下部千里

もう・・1人は嫌なの

日下部千里

辛いの・・・

日下部千里

寂しいの・・・

日下部千里

もう・・無理だよ・・・

日下部千里

私・・・

日下部千里

楽になりたいよ・・・

日下部彰

看護師さん!!!

日下部彰

俺を屋上に
連れていってください!

看護師A

日下部さん・・・

日下部彰

嫌な予感がするんです!

看護師A

嫌な予感ってまさか!

日下部彰

お願いします!

日下部彰

俺を屋上に!

看護師A

わ、わかりました

看護師B

私も手伝うよ!

日下部彰

ありがとうございます

彰は看護師の力を借りながら

屋上へ通づる階段を 一段一段登っていく

日下部彰

はぁ・・はぁ・・

看護師A

彰さん!しっかり!

日下部彰

は、はい・・・

日下部彰

(千里・・・)

日下部彰

(バカなこと考えるなよ)

日下部彰

(無事で居てくれ!)

日下部彰

(お願いだから!)

日下部彰

(千里が無事なら)

日下部彰

(俺は何も
いらないから!)

看護師A

さぁ!彰さん!
屋上です!

日下部彰

は、はい!

彰はドアノブに手をかけ ドアを開けて屋上に出る

日下部彰

ちさ──

日下部彰

!!!!!!!!

千里は宙を舞っていた

涙を流しながら宙を舞っていた

その涙は一体 どんな涙だったのだろうか?

孤独に耐えれずに溢れ出てしまった 涙だったのだろうか?

それとも愛する人ひとりを残し 身を投げてしまった事に対する 懺悔の涙だったのだろうか?

それとも孤独か解放された事による 安堵の涙だったのだろうか?

その真意は定かではない

それは千里自身にしか分からない事だ

しかし確かな事がひとつだけある

千里は今──

飛んだ

日下部彰

あ・・ああ・・

日下部彰

ああ・・・

日下部彰

ああ・・あ・・

日下部彰

千里・・・

日下部彰

なんで・・千里

彰の脳裏を、これまで 千里と共に歩んできた人生が 走馬灯の様に駆け巡った

大学の学食で偶然見かけた 千里に一目惚れした事

意を決して連絡先を聞いたら 快くOKしてもらえた

初めてのデートで 大遅刻してしまい 千里を怒らせた事

意を決してプロポーズをしたら 千里は涙を流しながら 「はい」と言ってくれた事

嬉しくてたまらず 喜びを全身で表現した拍子に 手に持っていた指輪を離してしまい 何処かへ飛んでいってしまった事

その指輪を千里に 一緒になって探してもらった事

結婚式で千里が両親への 感謝の手紙を読んでいる時 千里の両親以上に号泣してしまい 会場に笑いが起きていた事

結婚一年目間近に 千里の不妊が発覚し 毎晩の様にごめんなさいと 泣いて謝る千里を励ましていた事

これまでの思い出が 鮮明に蘇った

日下部彰

うわぁぁぁぁぁぁ

日下部彰

千里ぉぉぉぉぉぉ

彰はその場でうずくまり 地面を何度も叩きつける

日下部彰

千里・・なんで・・・

日下部彰

なんで!なんで!なんで!

看護師A

嘘・・・

看護師A

嘘だって言ってよ・・・

看護師A

彰さん・・目覚めたのよ?

看護師A

これからじゃん・・

看護師A

こんなのって・・・

看護師A

こんなのってないよ・・

看護師も涙を流しながら その場に倒れ込む

2人が悲しみに 打ちひしがれていると

下から──

誰かが叫ぶ声が聞こえてきた

看護師A

ん?なに?

看護師が恐る恐る フェンスに近づき 下の様子を伺う

看護師A

!!!!!!!

下の様子を確認した看護師は 彰に小走りで近づいてくる

看護師A

彰さん!!!

日下部彰

・・・・・

看護師A

千里さん──

看護師A

無事です!

日下部彰

え!?

看護師A

千里さん!生きてます!

日下部彰

千里が!?

その言葉を聞いた彰は フェンスまで走る

千里は数名の医師によって用意された 救護マットの上に横たわっていた

日下部千里

・・・・・

日下部千里

私・・生きてるの?

日下部千里

なんで・・・?

看護師B

千里さん!!

すると看護師が 千里に近づき平手打ちをする

日下部千里

・・・・・

看護師B

ぐすっ・・・

看護師B

自殺しようとするなんて

看護師B

何をバカな事
考えてるですか!

日下部千里

だって・・だって・・

日下部千里

ぐすっ・・・

日下部千里

彰はいつ目覚めるか
分からないじゃん!!

看護師B

千里さん・・・

日下部千里

もうそんな
孤独に耐えながら

日下部千里

いつ目覚めるか分からない
彰を待ち続けるなんて

日下部千里

私・・・そんな
強くないもん!!!

千里は涙を流しながら 今まで吐き出そうと思っても 吐き出せなかった感情を爆発させる

日下部千里

もう・・耐えれ
なかったんだもん

看護師B

千里さん・・・

看護師は千里を 力強く抱きしめる

日下部千里

もう・・無理だったの

日下部千里

こんな孤独をこの先も
ずっと味わうくらいなら

日下部千里

もう・・死にたかった

日下部千里

彰がいない生活なんて
耐えられなかった・・

日下部千里

私は──

看護師B

もう大丈夫なんです!

日下部千里

何が大丈夫なの!?

日下部千里

私は死んで楽に
なりたかったのに!

日下部千里

この先もこの孤独に
耐えなきゃいけない
人生なんて・・・

日下部千里

私・・私・・・

看護師B

意識を
取り戻したんです!

日下部千里

え!?

千里は看護師の言葉に耳を疑う

日下部千里

今・・なんて・・

看護師B

だから!

看護師B

彰さんが意識を
取り戻したんです!

日下部千里

う・・うそ・・・

日下部千里

彰が・・・

看護師B

ホラ!あそこです!

看護師B

見えますか?
千里さん!!

看護師が屋上を指差す

日下部千里

(彰が・・・?)

千里は半信半疑ながらも 看護師が指差す屋上を見る

するとそこにはこちらを 不安そうな目で見つめる 彰の姿があった

日下部千里

!!!!!!!!

日下部千里

彰が・・

日下部千里

嘘・・・

日下部千里

彰・・・

日下部千里

ごめんなさい!

千里は涙を流しながら 彰に抱きつく

日下部彰

千里・・・

日下部千里

ごめんなさい

日下部千里

ごめんなさい

日下部千里

私だけ・・・

日下部千里

私だけ楽に
なろうとして

日下部千里

本当にごめんなさい

日下部彰

ううん・・・

日下部彰

いいんだよ千里・・・

日下部彰

ぐすっ・・・

日下部千里

彰・・・

日下部彰

看護師さんから聞いたよ

日下部彰

ずっと眠ったまま
だった俺を

日下部彰

ずっと見守って
待っててくれだんだよな?

日下部千里

ううん・・・

日下部千里

結局私は彰を信じて
待つ事ができなかった

日下部彰

千里・・・

日下部千里

自分だけ──

日下部彰

辛かったよな?

日下部千里

彰・・・

日下部千里

怒らないの?

日下部彰

え!?

日下部千里

彰ひとりを遺して
死のうとした私を

日下部彰

怒る訳ないだろ?

日下部千里

あ゛ぎら゛・・・

日下部千里

ぐずっ゛・・・

日下部彰

寂しかったろ?

日下部千里

う゛ん゛

日下部千里

ざびじがっだ!!!!

日下部千里

づら゛がっだ!!!!

日下部彰

ごめんな・・千里

彰は千里を力強く抱きしめる

日下部彰

ただいま・・千里

日下部千里

お・・・

日下部千里

おかえり・・彰

それからの彰は 厳しいリハビリの日々だった

4ヶ月もの間 昏睡状態だった彰にとって それは過酷を極める生活だったが

ずっと自分の帰りを 信じて待ってくれた千里の為にと

彰は苦しいリハビリ生活に耐えていく

看護師A

日下部さん!

日下部彰

ああ・・看護師さん

看護師A

ちょっとやりすぎですよ

看護師A

オーバーワークです!

看護師A

焦らずゆっくりで──

日下部彰

ダメなんです!

看護師A

え!?

日下部彰

俺ばっかり楽してちゃ
ダメなんですよ!

看護師A

日下部さん・・・

日下部彰

千里はずっと
俺の帰りを信じて

日下部彰

孤独と闘いながら
待っていてくれたんです!

看護師A

・・・・・

日下部彰

そんな千里の頑張りを
知りもしないで、俺は

日下部彰

間抜けにもずっと
眠ってたままだった・・

看護師A

日下部さん・・・

日下部彰

頑張ってくれた千里
俺は何の恩も返せてない!

日下部彰

そんな俺が
出来る唯一のことは

日下部彰

はやくリハビリして

日下部彰

千里のもとに帰る事!

日下部彰

それだけなんです!

看護師A

ですが──

医者

彼女の言う通りです!

日下部彰

先生・・・

医者

リハビリの
オーバーワークは危険です

日下部彰

・・・・・

医者

過度なリハビリは
かえって悪影響です!

医者

無理せずに
リラックスしながら
リハビリする事が

医者

1番の近道なんです!

日下部彰

そう・・ですよね

医者

我々が全力で
サポートしますから!

医者

気長にゆっくり
やっていきましょう!

日下部彰

ありがとうございます

それから彰は医師の指導のもと 無理せずリハビリを続けた

そしてリハビリ開始から 2ヶ月後となる本日

彰は無事に退院する

日下部彰

いやぁ!久々の我が家!

彰は無事に千里と共に我が家に 帰って来れたことに安堵する

日下部千里

半年くらい
帰ってなかったもんね

日下部彰

やっぱ我が家が
落ち着くわ

彰は千里の背中を抱きしめる

日下部彰

千里・・・
ありがとうな

日下部千里

彰・・・

日下部彰

孤独だったはずなのに

日下部彰

やっぱ凄いよ!千里は!

日下部彰

俺だったら耐えれてないよ

日下部彰

千里は自慢の奥さんだよ!

日下部彰

感謝してもしきれない!

日下部彰

ありがとうな!千里!

日下部千里

ふふふ

日下部彰

千里・・愛してる

日下部千里

その言葉・・・

日下部千里

ぐすつ・・・

日下部千里

ずっと聞きたかった

日下部千里

ずっと待ってた

日下部彰

もう、今日からは
毎日言うよ!

日下部彰

愛してるって!

日下部千里

あ!言ったね?

日下部千里

約束だからね?

日下部彰

ああ!約束だ!

日下部千里

なら、うーんそうだな

日下部千里

もし約束破ったら──

日下部彰

あ、いや、その、あれだ

日下部彰

やっぱ二日に一回?

日下部彰

いや三日に一回かな?

日下部千里

ちょっと!話が
違うじゃん!

千里は頬を膨らませる

日下部彰

あはは!冗談だよ!

日下部彰

忘れないさ!

日下部千里

彰・・・

日下部彰

千里・・愛してるよ

日下部千里

私も・・愛してる

2人は抱き合いながら 優しく口づけを交わす

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