TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

霊1

アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

けたたましい哄笑が空に木霊する。

それは人の耳には聞こえないが、なんとなく頭痛や吐き気を催させる。

彼女達のそれは、明らかに邪な悦びを勝ち誇る声だった。

霊4

――友理奈、友理奈、友理奈、友理奈!!

霊2

――ねぇ、気付いたよね! 言ったよね! 今!!

霊3

――言った! 言ったね! 飛びたいって言った!

霊1

――やっと、ふふ、ねぇ! やっとだ! アッハハハハハハ!!

霊1

――やっと、落とせる!!

腐臭を振りまき、霊はまっすぐに母校へと向かう。

それを追い、渋谷は苦々しく舌打った。

渋谷大

悟! 今何時だ!

久留間悟

11時40分

久留間悟

もうちょいで3限終了、10分休憩に入る

久留間悟

彼女が一人になったところを狙うんならその時だろうね

渋谷大

行きにかかった時間が20分

渋谷大

それを半分以下でぶっ飛ばせってか……!

額に浮かんだ冷や汗が横に流れる。

その冷たい感覚に、渋谷の唇が吊り上がった。

渋谷大

そういうの、嫌いじゃねぇな……!!

チャイムの音が響く。

校内には束の間の騒がしさ。

次の授業の準備を整えながら、友理奈は談笑するクラスメイトを視界の端に捉えていた。

崎本友理奈

はぁ

崎本友理奈

(寂しいわけじゃない)

崎本友理奈

(だけど、なんだろう)

崎本友理奈

……ここに、いたくないなぁ

ふらりと教室を出、窓が開け放たれた渡り廊下から空を見上げる。

崎本友理奈

気持ちいいなぁ

崎本友理奈

秋ってなんでこんなに気持ちいいんだろ

崎本友理奈

こんな風の中なら、こんな空なら

崎本友理奈

きっと

霊1

――ねぇ友理奈。空飛べたらさぁ

霊3

――気持ちいいって、思うよねぇ?

崎本友理奈

――ッッ!?

霊1

――アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

崎本友理奈

ヒ……ッ!!

気付けば、友理奈の周囲は暗い人影に囲まれていた。

崎本友理奈

や、やめ……!

崎本友理奈

なんで……ッ!? みんな、私には、触れないんじゃ……!!

霊2

――不思議でしょ? 不思議だよねぇ!

霊4

――安心してたもんね! 私達が友理奈に触れないから……

霊1

――絶対殺されないって、安心してたもんねぇ!?

霊3

――アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

手を。足を。体の至る所を

掴み、握りしめ、窓から外へと連れ出そうとする黒い手。

しかし払い除けようとし、友理奈は絶望した。

掴んでくる黒い手に

自分から触れることはできなかった。

崎本友理奈

うそ……私からは触れないの……!?

霊2

――いいねぇ、友理奈、いいねぇその顔!

霊3

――めっちゃ笑える! 私らさぁ、天使になって初めて知ったの

霊4

――その顔見ると、すっげーコーフンすんだよね!!

霊1

――アハハハ、アッハハハハハハハハ!!

笑い声は友理奈の心臓を締め上げていく。

耳にこだまするそれらが、頭の中でガンガンと響いた。

崎本友理奈

嫌……嫌……!!

崎本友理奈

あんなの嘘、空飛びたいなんて、全部嘘……!!

崎本友理奈

放して、嫌、こんなの……!!

必死に抵抗し、唯一窓枠に掛けていた指先が、音を立てて外れた。

崎本友理奈

私まだ、死にたくなんてない――!!

渋谷大

おう! 分かってんよぉ、そんくらい!!

張り上げられた声が響くと同時に、霊になにかがぶつかった。

霊3

――キャ……

霊1

――ギャアアアアア!!

崎本友理奈

……ッ!!

咄嗟に放された手から、友理奈が落下する。

それを、力強く受け止める腕があった。

渋谷大

っとと……!

渋谷大

さっきのに比べりゃ、3階から落ちた女の子なんて軽いもんだな

渋谷大

怪我はないかな、友理奈ちゃん

崎本友理奈

あ……

崎本友理奈

渋谷、さん

渋谷大

はいよ

渋谷大

呼ばれてないけど飛び出たぜぃ

渋谷大

もう、空飛びたいなんて思ってないよな?

崎本友理奈

……!

崎本友理奈

ハイ!!

渋谷大

おっし、そんならもう大丈夫!

渋谷大

残念だったなぁお前ら! 友理奈ちゃんには触れなくなっちまったぞ!!

渋谷大

どうすんだ、これからぁ!

――お前……!!

得意げな顔を見せる渋谷に、霊達が呪詛の表情を見せる。

彼女達はすでに、人の形を留めてはいなかった。

渋谷大

ラピスラズリのブレスレットは効いたみたいだな

渋谷大

本性ドロドロ、今にひとかたまりのヘドロになる

渋谷大

鏡見てみな、すっげーお顔になってんぜ

舌を出し、手鏡を向けて挑発する。

それを彼女らだったモノは、溶け混ざりながら睨みつけた。

――よくも、よくも、よくもよくもよくもよくも……!!

――今からが! 最高に面白くなるところだったのに!!

渋谷大

……へぇ

渋谷大

面白いって、言っちゃうのか

――そうよ、最高なんだから!

――アンタなんかじゃ分かんない

――大人なんて大嫌い!

――そうだ、あぁ、アンタなら触れるんだ

――アンタなら、アンタなら

――あぁ、そうか

――アンタを殺せばいいんだぁ?

渋谷の体は、すでに浮き上がっていた。

崎本友理奈

渋谷さん!

久留間悟

友理奈ちゃん

崎本友理奈

久留間さん! 渋谷さんが!!

久留間悟

ん、アイツなら平気だよ

久留間悟

来るの遅れてごめんね。でももう大丈夫

久留間悟

例えアイツが逃がしても

久留間悟

もう、あの子らは逃げられない

渋谷大

あのさぁ、言いてぇ事はいっぱいあんだけど

渋谷大

悟とじっちゃんも来たみたいだし、一個にしとくわ

渋谷の言葉に、彼女達は耳を貸さない。

それを腹立たしげに睨みつけ、渋谷は拳に力を込めた。

渋谷大

何様のつもりだ、テメェらぁ!!

風の鳴る音と同時に、もはや黒い塊となった霊が弾き飛ばされる。

渋谷は、こともなげに地面に降り立っていた。

久留間悟

えげつねー

久留間悟

霊をぶん殴るのなんてアイツくらいだよ

渋谷大

おせぇぞドン亀!

久留間悟

悪かったよー。でもちゃんと仕事してたんだから許して

久留間が笑顔でさした先。

本来なら校外に飛ばされていただろう霊は

したたかに、見えない壁に打ち付けられていた。

――っっ!!

――あ、あぁ、あぁあ……!

――出られない! なんで!?

――学校から! 出られない!!

本田芙蓉

結界を張ったからじゃよ、お嬢ちゃん達

そこには静かに、本田が立っていた。

本田芙蓉

くーちゃんの作る祓い札は、こと悪霊には驚異的な代物でな

本田芙蓉

お嬢ちゃんらにはもう、引き渡されるほか道はない

――引き、渡される?

――どこに?

――引き渡されるって、なんの……

本田芙蓉

なうまく さまんだ ぼだなん えんまや そわか

本田がそう呟いた時だった。

空から巨大で赤黒い腕が、じっとりと現れる。

本田芙蓉

冥府の主、閻魔王に出迎えを願い奉った

本田芙蓉

いかに慈悲深いかの王でも、お前さんらの行いは赦せまい

それは彼女たちにとって信じがたいモノだった。

しかし信じないわけにはいかない。

なぜなら天使を自称し人を殺めたからには、冥王の存在も認めざるを得ないのだから。

――嫌、うそ、ヤダぁ……!

逃げ惑う黒い塊は、しかし壁に阻まれ満足な逃走すら図れない。

やがて腕は彼女達だった塊を握ったまま、虚空へと消えていく。

引き攣った声はやがて泣き叫ぶものに変わり、霊は友理奈に声を投げた。

――友理奈! 友理奈!

――助けて、お願い! こんなのイヤだよ……!

――私たち……ねぇ、私たち……!

――友達でしょ!!

瞬間、友理奈の表情から怒りが噴き出した。

崎本友理奈

っ、勝手な事ばっかり……!!

崎本友理奈

殺そうとしたくせに!

崎本友理奈

遊びで、殺そうとしたくせに!!

崎本友理奈

アンタ達が友達なわけ、ないじゃない!!

渋谷大

そりゃそうだ

久留間悟

君らが招いた結末だ

久留間悟

せいぜい冥府の裁判で、申し開きしてごらん

本田芙蓉

情状酌量の余地はないかもしれんがな

――イヤ、嫌、いやぁああああ!!

――私たちは! 私たちは天使で……! だからなんにも悪くなんて……!

――いやぁあああああ……!!

やがて悲鳴と共に、巨大な腕が消える。

後には、校庭から聞こえる体育授業の声だけが残されていた。

渋谷大

……落着、かな

久留間悟

終わったぁああああーーー!!

本田芙蓉

こりゃこりゃ、ちゃんと書面にして提出するまでが仕事じゃ

本田芙蓉

気を抜いてはいかんぞ

本田芙蓉

崎本さん、じゃったかな

本田芙蓉

証人として書類に協力を頼めんかな

本田芙蓉

一筆でよい

崎本友理奈

私、ですか

崎本友理奈

えぇ、あの、私でいいなら

崎本友理奈

これ――終わったん、ですよね

本田芙蓉

その通り

本田芙蓉

怖い思いをさせてしまったが、もう心配なかろう

本田芙蓉

頑張ったなぁ、お嬢さん

言葉に、友理奈の体が崩れ落ちる。

崎本友理奈

終わった……ほんとに……

崎本友理奈

は、はは……腰、抜けちゃった

泣き笑いで震える彼女を笑う者はいない。

やがて警察と救急が到着し、友理奈は診察のため救急車へ乗り込む。

その直前。

崎本友理奈

今回は本当にありがとうございました

渋谷大

いや、こっちこそ

久留間悟

友理奈ちゃんと会わなかったらこの事件、もっと難航してたはずだしね

本田芙蓉

日照りに雨

本田芙蓉

渋やんとくーちゃんの過度な甘党も、役に立つ事があるとはな

胸を張る渋谷と久留間に、思わず友理奈の肩が揺れる。

崎本友理奈

あの

崎本友理奈

またなにかあったら、相談しに行ってもいいですか?

渋谷大

もちろん

久留間悟

心霊神仏関係ならどんな些事でも大歓迎!

本田芙蓉

いつでもおいで

そう言って、名刺を差し出す。

渋谷大

カタヅケ屋本舗、いつでも依頼をお待ちしてます!
loading

この作品はいかがでしたか?

4,516

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚