不完全燃焼

岩本side

あの日から、 翔太との毎日を大切に過ごした。

毎日翔太を抱きしめて。

毎日翔太とキスをして。

毎日翔太に愛を伝えて。

一生分の幸せを一ヶ月で堪能した。

そうして今日。

約束の、最後の日。

俺より10cm低い背を抱きしめる。

いつもより強く。

力いっぱい。

普通のハグじゃない。

俺が翔太の首に顔を埋める感じの、

縋るようなハグ。

異変に気づいた翔太が、 そう聞いてくれる。

さすが翔太。

鈍感なフリして、

以外と鋭いんだよね。

翔太が、 顔を見ようと引き離してくるけど、

意地でも翔太の首から頭を上げない。

こんなぐしゃぐしゃな顔、

見せられるわけないじゃん。

諦めて、 もう一度腕を回してくれる翔太。

優しく背中を摩ってくれる。

ダメだよ。

そんなことされたら、

余計離れたくなくなっちゃうよ。

翔太の体を離して、

顔を見られないように背を向ける。

不安なんかじゃない。

それこそ、 愛らしい言葉はなかったけど、

翔太からの愛は沢山伝わってきた。

ただ最後に、

翔太の口から翔太の言葉で、

『好き』って聞きたかっただけ。

不安なんか一切なかった。

幸せだったよ、俺は。

そう言って翔太の方を振り向く。

そう言うと翔太は俺の腰に腕を回す。

そんなんじゃないに決まってる。

だけどこれ以上、 理由を探られたくない。

翔太が意地で抱きしめてくれるので、

俺もちゃんと返す。

もう一度、 翔太に縋るように抱きしめる。

時刻は19時56分。

舘さんには、 20時に来て欲しいと連絡してある。

あと4分。

だからこれが翔太との最後のハグ。

本当にこれで最後。

言いたくない。言いたくない。

だけど、言わなきゃならない。